24.共闘

吹っ飛ばされて咳き込んでいる男からホタルを庇うように手を広げる。

「ということでセレスト!!やっちゃってくれ!!」「はぁ、仕方ない。─我が土の守護石よ、大地の恵より彼の者を串刺しにせよ、サファイアジャベリン─」

俺の合図で部屋に入ってきたセレストが詠唱を唱えると、周囲に鉱石の楔が出現し、前方へ射出された。

鈍い音がしたかと思うと、男は顔を庇うようにして挙げた手のひらに刺さった鉱石を引き抜き、立ち上がる。

「ようやく見つけました、番人」セレストが次の攻撃に備える。「どうやらバレてしまったようじゃのう。」男の周りにノイズが走り景色が乱れる。俺の姿をしていた男が、徐々に全身黄金の装飾に身を包んだ老人が現れる。「マリー....」「い、一体これは?ご主人様??」「ホタル、こいつが街を支配する時の番人、マリーゴールドだ。」「なんだよ、魔獣騒ぎの次は黒幕登場か?今日は忙しいなァ!」ここに来る途中で拾ったトレッドがマリーを指さして叫んだ。「要するにこいつをぶっ飛ばせばいいんだろォ!?」

セレストにトレッド、武闘派の2人が揃えば何の心配も要らないだろう。先の戦いで見せたの接戦からも、老人を追い詰めるには十分な戦力と言える。

「観念しろ、番人よ。もうお前の魔法は長く持たない。」

「ふぉっふぉっふぉ!こんな若輩共に遅れをとるような儂ではあるまい。やれるものならやってみるといい─無限の輪廻より我を回帰させよ、マッスルマッスル─」

マリーが詠唱を唱えると、全身から白い湯気が立ち上り、やがてしなびた体が膨らんでいき、瞬く間に筋骨隆々とした半裸の巨漢が現れた。「ここでは狭いのう、先ずは青髪の若造からいこうかの」「ぐっ!?」

一呼吸置く間もなく顔を鷲掴みにされたセレストが、廊下から反対側の客室へ、さらに外へと壁をぶち抜いて、街路樹へ消えた。「オイなんだよアレ!聞いてねえぞ!?」「トレッド!お前はセレストの加勢に行ってくれ!ホタル!大丈夫か!?」「は、はい、もう動けます。」「まったくよぉ、さっきまでいがみ合ってた奴といつの間にか和解してるし、今度は超元気な老人の介護とか、やってられねぇよなぁ!貸しひとつだからな!」そう言って嬉しそうに悪態を着くと、トレッドは宿屋に空いた大穴から外へ飛び出していった。

「あ、あの、ご主人様、ですよね?」「そうだ。俺が本物だ。」俺が空間を抜け出した後、いなくなった俺の代役となるようにマリーが俺に化けたのだろう。そして先程、一般人では考えられないような膨大な魔力を保有したホタル目が暗み、魔力を奪い取ろうとホタルに何らかの危害をきわえようとした。魔力が枯渇しているというマリーの話を聞いた限りでは、封印を継続させるためにも、魔力は喉から手が出るほど欲しいのだろう。あの老人がこれまで魔力を枯渇させない為に何をやってきたのかは知らないが、俺のホタルを差し出す訳にはいかない。時計塔に居たマリーは随分と弱々しかったが、こっちのマリーは血の気が多いな。「ありがとう、ございました。助けてくれて。」上目遣いで、何故かバツが悪そうにお礼を囁くホタル。「本来僕がご主人様をお守りする所を、逆に助けられちゃいましたね。」「そうだな。折角2人でいるんだし、お互い協力し合って、持ちつ持たれつの関係でいようぜ?」うふっと思わず笑みを漏らすホタル。八の字に眉で自信なさげな表情から一変。こちらを見つめ背伸びをする。「はい!!」口角をあげて見上げた彼女の表情はとても透き通っていた。

「結局のところ、あのご老人をやっつければいいのですよね?」


◆◆◆


「ぐ、、、強いな。」先程纏ったサファイアアーマーが、たった一撃で粉々になった。鎧を新調するには、奴の隙をを縫うしかあるまい。

「これで終わりか?小童め!」「ぐぁっ!?」

重い一撃だ。弾丸のような右ストレートをサファイアシールドで受け止めるも、あまりの強い衝撃に腕が痺れて反撃が行えない。俺の守りで奴の攻撃を受けきったとして、反撃に出れないようでは決着が付けられない。

「じーちゃんの介護は俺に任せなァ!お目覚め昇天かかとおとしィ!!!!」

マリーの脳天目掛けてトレッドが渾身の攻撃を入れる。

「儂はまだまだ現役じゃよ」「やべっ!全然聞いてねえ!!!!ぐふぅ!」「ガハァ!」トレッドの足をそのまま掴み、セレストと共に地面へと叩きつけられた。めり込んだ地面から、早くどけとセレストの声が聞こえる。

「一撃が重く馬鹿みたいな攻撃力に、トレッドの攻撃にびくともしない防御力。流石は番人、この街を護るものに値する強さだ。」そう言いながら、器用に身体中の鎧を修復するセレスト。彼の冷たい眼差しには、未だに強い闘志が煮えたぎっている。「あぁ、、これは喧嘩の血が騒いじまうな」歯を食いしばりにやりと笑うトレッド。拳を鳴らし臨戦態勢をとる。「この街は儂が護る....」怒気を孕んだ重々しい視線を2人に向ける。

「「おらあっ!!」」

ぶつかり合う殺気。擦れ合う肉体。己の信念をかけて3人の男が対峙する。その戦闘は周囲の被害などお構い無しに、激しい魔力交戦が再三続いた。

「オレの拳と!お前の盾で!ジジイをぶん殴る!!!!」

どごーん

ばこーん

ぼかーん


「ハァ.....ハァ.....なかなかやるじゃねえか。」

土埃舞う大破した噴水の広場で、満身創痍の青年が二人。地に足を付けて立ち上がる。「お主らもわしの攻撃を受けてまだ立って居るとは、見上げた根性じゃ。しかし戯れもここまで。......本気でいかせてもらおう。ハァァァァァァ」

がに股で体の中心部に気合いを始める巨漢。黒目はまぶたの範疇を超えて、完全に裏側へと回り込む。物々しい気配が辺りを包み込み、街全体に充満していた魔力が一点に集中する。

「なんか、ヤバくね...??」額に汗が伝う。切り裂くような緊張感のなか、全身がこれはやばいと反応する。

「まずいな!これを打たせてはならない!!食い止めるぞ!!」ユカリは何をしているのだ。早く銀髪の女を連れてこい、まったく......

「儂の奥義、見せてやろう。ホォォォォォォォ!!!!クロック!ザ!リバァァァ─」


スパァン!!


天に両手を掲げ、何やら叫ぼうとしたマリーが直後、綺麗な真っ二つとなって割れてしまった。何が起こったのかと目をこらすと、そこには銀嶺の少女が、血飛沫を浴びながら立っていた。マリーだったものは地面に情けなく転がっており、徐々に光の粒子となって消えてゆく。

「ま、まさか...!?」

驚きのあまり顎を外すセレスト。

「す、、、すげえ、オレ達があんなに苦戦した相手を、たった一太刀でやっちまった......」すげえ!と純粋に感動するトレッド。

その様子を見届けたホタルは刀を鞘にしまうと、何を思ったのか振り返ってこう叫んだ。

「ご主人様を護るのは、この、ぼくだあ!!」

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