3.銀髪

目覚めるという感覚は不思議な物で、ずっと深くて暗い、暖かくも冷たくもある場所に沈み込んでいた意識が、ふっ、と誰かにつまみあげられるような感覚を味あわせる。

全てがリセットされ、体に爽快感が走るのと同時に、何処かに虚しさを残した様子で、俺はゆっくりと現実の光をレンズの中に流し込む。

「うぅぅ...........ここは.....??」

頭にやらかい感触を感じた。

そして視神経の働きが始まると、美しい銀色の髪を垂らした少女の顔が目の前に映った。


「ご主人様大丈夫ですか?」


さっき俺を助けてくれた子だな。

ご主人様って誰のことだろうか。


「ご主人様痛みはありますか?」


彼女は心配そうに俺の目を覗き込んでそう言った

ご主人様って、まさか俺のことか?


「....痛み? そういえば、無いな。」


目が冷めるまで体中に走っていた痛みが嘘のように引いている。挫いた足も、痛くない。


「よかった.....【最上級爆裂レジェンドヒーリング広範囲フィールド回復魔法エクスプロージョン】を使ったかいがありました」


「....なんて?」


初めて聞いたわそんなワード。

魔法か何かか?

もう訳が分からない。


「怪我をしていたので、が治しておきました」


僕?たまにいるよね、自分のこと僕っていう女の子。ボクっ娘というヤツかな?


「そうだったのか、先程は助かった。それに怪我まで治してもらって、ありがとな」

「礼には及びませんよ。僕はご主人様が元気でいてくれればそれでいいんです。」


カナタによく似たチャーミングな笑顔でそんな事を言われた。いい子だ

なんていい子なんだ

俺にカナタがいなかったら今ので惚れていたかもしれない。いや、今の俺は未亡人(違う)。この子を狙っても何も罰は受けないだろう。しないが。


「しかしエクスプロージョンとかいう物騒な療法でよく治るものだな」

「エクスプロージョンとは、患部の表面や付近の空気中に存在する有害な細菌を殺すという意味なので、ご主人様さまが想像されているようなものではないかと。」

「思ったより繊細なんだな」

「ちなみに最上位魔法程度なら、ご主人様の膨大な魔力を少しお借りすれば何発でも打つことができますよ。

僕単体の魔力量であれば5発が限度でしょうか」

「すごいな」

なるほど俺は魔力を沢山持っているのか。

どうやって使うのかは分からんが。

その時、柔らかい感触が頭にかかっていることを思い出した。

これってもしや.....


「.....俺は今どういう状態だ....?」

「ご主人様の状態ですか....?

僕に膝枕されています」


だよな。だと思った。

どうしよう、膝枕だと認識した瞬間めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。


「そうか悪かったな、今起きるから」

「そんな、ご主人様は何も悪くないです。

これは僕がしたくてやったことだし、なんならこのままでも僕は構いませんよ?」

「もう....大丈夫です」


いいか、平常心だ。

俺にはカナタという心に決めた相手がいるんだ。

ここでうつつを抜かすわけにはいかない。

ということで、銀髪美少女の膝枕とはお別れをする。

真顔で、なるべく自然に、体を起こした 。

そして銀髪美少女と向き合ってあぐらをかいた。

面と向かうと改めて銀髪美少女の整った容姿に魅入られそうになる。


「そうですか...

ご主人様が元気になられたようでなによりです!」


少し残念そうな顔を見せたが、すぐにシャキッとしてこちらを見据えてくる銀髪美少女。

少し気恥しい。

先程会ったばかりの子なんだけど、どこか懐かしくて、昔から一緒だったような気がして、あまり嫌な感じがしないんだよなぁ。


「そういえば、何故俺のことをご主人様と呼ぶんだ..?」

正直な所、噂に聞く秋葉原のカフェにいるようで落ち着かない


「それは僕がでありその持ち主がご主人様だからです。僕にとって、ご主人様に仕えることが定めであり生きがいでありますゆえ、どうかご理解を。」


なんだか世界観がおかしくなってきたが、ツッコまないぞ俺は。

蛍石の眷属ってなんだよ。


「事情は分かった......。要するにお前は俺のメイドか何かかだってことか」

「そのような物です。ご主人様様に仕え、ご主人様のために生きる眷属です。

何かご命令などがありましたら、なんなりとお申し付けください!」

「今は特に無い、取り敢えずよろしくな........えぇと。名前を聞いてなかったな」

「僕に名前はありません。名前はご主人様から賜るものなので。」

「そういうものなのか。

わかった、俺が付けよう。

そうだな.......

蛍石のストラップだからホタルでどうだ?」

「ホタル、良い名前です。大変ありがたく頂戴致します!」


ホタルは嬉嬉として頭を深くさげた。

ものすごい安直なネーミングなのに素直に喜ばれてしまった。

なんだか申し訳ない。

てか、畏まりすぎじゃね?

こっちまで堅苦しくなりそうだ。


「それで、一体ここは何処なんだ。」


さっきの化け物といいホタルの設定や魔法といい、俺の理解が追いついていない。


「ここはご主人様の住んでいた世界とは異なる世界です。そしてご主人様は何らかの力でこの世界に転移してきたものと思われます。」

「さらっととんでもないことになってるなおい」


前にアニメ好きな友人が話してた異世界転移ってやつじゃないか。


「そして今居るこの森は、赤大国の南西部に位置する、鮮血の森ブラッディフォレストと呼ばれている場所です。」

「随分と物騒な名前の森だな」

「えぇ、この森には凶悪な魔物達が多数存在し、1度迷い込んでしまったら最後、辺り一面鮮血を飛び散らして死ぬしかないと人々の間で言われておりますが、実際は大したことありません。」

「大したことあるだろ」


そんな森に飛ばされてきたっていうのか俺は。

危うく鮮血で森を染め上げるところだったぞ。

まじでありがとうホタル。


「ひとまず安全で人がいる場所へ行きたいな」

「それなら近隣の街へ行きましょう!僕が案内します」

「それは助かる。道は分かるのか?」

「はい。【地図魔法】を使えば周辺の地形や街の場所を把握する事が出来ますので。」

「便利な魔法だな。もう少し休憩したら出発するか。よろしくな、ホタル!」

「はいっ!」



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