37.暴力・暴言は反対です
俺のハーレムは終わった。
今、二人のおばちゃん看護婦が俺の食事の準備をしている。
包帯もこの二人のおばちゃんが替えてくれた。
ホントにハーレム終ってやんの。
別に文句があるわけじゃないけどね。
ちょっぴり惜しい気もするが・・・。
おばちゃん二人組は、一人は見事なまでにででーんっとふくよかなボディで、もう一人は真反対。俗に言う骨皮筋衛門みたいな細身だ。
いませんでしたっけ? 故郷にこんなお笑いコンビ。
でも、テキパキと仕事をこなす様はベテランだ。
「いいですか? 好き嫌いがあっても残さず食べなきゃダメですよ、野菜もね。全部血肉になるんです。体力あってなんぼですからね!」
完食する気満々の俺に、何故か説教じみた事を宣う。
きっと、いつも我儘患者ばかり診てるんだろうな。
そんなマニュアルっぽいセリフも何か超ベテランっぽい。
「はーい」
俺は素直に返事をすると、モリモリと食べ始めた。
「あら、いい食べっぷり。若いんだからこうでなくちゃね」
「そうそう。でも、もっとちゃんと噛んでゆっくり食べなさい。料理は逃げませんよ」
まるでオカンのような看護婦二人に見守られながら食べる食事は、ハーレムよりもずっと穏やかで、思いの外、居心地が良かった。
★
翌日もライラは見舞いに来てくれた。
でも、横にはウザい大男がドンっと構えて、俺に睨みを利かせている。
「何でこいつも一緒に来たの?」
俺は小声でそっとライラに尋ねた。
ライラは困ったように顔を伏せた。
途端に、ランスのチョップが頭を襲う。
「おい! 姫様に馴れ馴れしいぞ!」
「痛ーって! 何すんだよ!」
「姫に近い! 無礼者!」
「てめーも近いじゃんかよっ!」
俺は頭を摩りながらランスに怒鳴り返した。
ランスは俺の言葉に驚いたように目を丸めた。そして、見る見る顔が赤くなると、丸い目が三角になった。
「お、お、おまえ・・・。俺に、この、俺に言っているのか・・・?」
ランスは怒りでフルフル震えてる。
身体からフシュフシュと湯気が沸いてきそうなほどだ。
やべっ! ちょっと言い過ぎた・・・?
「俺は・・・、俺はライラ様付の騎士だぞ! お傍に仕えて当然だろうが!」」
「俺だってライラちゃん付きの騎士になったんだろ? 一緒じゃねーか!」
「俺は筆頭騎士だ! 立場が全然違うわっ! この無礼者のがぁ!!」
ランスの腕が伸び、俺の胸倉を掴むと、グイっと持ち上げた。
俺の顔に食らい付くぐらい奴の顔が寄る。
目の奥にチョロチョロっと炎が見える。
「その上、この俺に、『てめー』とは・・・」
「うっせー! 苦しーから放せ! この熊男!」
いい加減、何度も殴られて腹が立っていた俺は、ランスの怒りの目に少々ビビりながらも、喚き散らした。
「く、熊男だとぉ・・・?」
ランスの腕の力が強まる。
うー! 苦しー! この馬鹿力!!
そこに、ペシペシと肌を叩く音が聞こえた。
「ランス! 放さないか!」
ライラがランスの腕をベシベシ叩いている。
「ですが、ライラ様! こ、こいつ、私を熊男だと・・・!」
「大きくて立派な男だと言ったのだ! きっと!」
ううん。違うよ、ライラちゃん。
「それに、それに、てめー呼ばわりとは・・・!」
「そ、それは私からも忠告する! だから放せ、ランス! ケンタロウ、確かにその呼び方は無礼だぞ! ランスに謝りなさい!」
うっ・・・、まあ、確かに目上の人には失礼だったとは思いますが・・・。
でも、なんか謝るのは悔しー・・・。
つーっか、締め付けられ過ぎて、声が出ねーよ。
「す・・・い、ません・・・でし・・た・・・」
俺は息も切れ切れに謝った。
すると、ランスの口から長い溜息が漏れた。そして、俺の胸倉を掴んでいる手の力が弱まり、俺はストンとベッドに落とされた。
「「チッ・・・」」
舌打ちがハモった。
「「・・・」」
一瞬沈黙が走る。
「貴様ー! 何舌打ちしてるんだぁ!」
「てめーだってしたじゃねーか」
あ、また言っちゃった、『てめー』って。
「このー!」
ランスの逞しい腕がまた俺に向かってくる。
「暴力反対! ライラちゃ~ん! この熊男、俺を虐める~~!」
「私も暴力反対! ランス!」
ライラは両手を広げ、俺を庇うようにランスとベッドの間に割り込んだ。
「ええっ?! 姫様! 酷い! 俺よりこいつの味方ですかぁ!」
「暴言反対! ケンタロウ! 『てめー』も『熊男』も『ババア』も使っちゃダメ!」
ライラはくるっと向きを変え、今度はランスを庇うように両手を広げて俺を見る。
「ええ~、でもさ~、そいつの殴りっぷり酷いと思わない? ライラちゃん」
「それと呼び方は別だ!」
「・・・分かりましたよ・・・。さーせん、おっさん」
俺は口を尖らせたまま、渋々謝る。
「おおおお、おっさんだぁ??」
「暴力反対! ランス!」
またまたライラはくるっと向きを変えて、俺を庇うように両手を広げる。
「姫様~、こ、こいつ、俺を・・・、俺をおっさんってぇ・・・、俺まだ28ぃ!」
「暴言反対! ケンタロウ!」
またまたまたライラは以下略・・・。
うーん、俺とランスってずーっと相容れない気がしてきた。
そこにおばちゃん漫才コンビ・・・、じゃなくて看護婦が入ってきたので、俺たちの抗争は何とか中断された。
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