37.暴力・暴言は反対です

俺のハーレムは終わった。


今、二人のおばちゃん看護婦が俺の食事の準備をしている。

包帯もこの二人のおばちゃんが替えてくれた。


ホントにハーレム終ってやんの。

別に文句があるわけじゃないけどね。

ちょっぴり惜しい気もするが・・・。


おばちゃん二人組は、一人は見事なまでにででーんっとふくよかなボディで、もう一人は真反対。俗に言う骨皮筋衛門みたいな細身だ。

いませんでしたっけ? 故郷にこんなお笑いコンビ。


でも、テキパキと仕事をこなす様はベテランだ。


「いいですか? 好き嫌いがあっても残さず食べなきゃダメですよ、野菜もね。全部血肉になるんです。体力あってなんぼですからね!」


完食する気満々の俺に、何故か説教じみた事を宣う。

きっと、いつも我儘患者ばかり診てるんだろうな。

そんなマニュアルっぽいセリフも何か超ベテランっぽい。


「はーい」


俺は素直に返事をすると、モリモリと食べ始めた。


「あら、いい食べっぷり。若いんだからこうでなくちゃね」

「そうそう。でも、もっとちゃんと噛んでゆっくり食べなさい。料理は逃げませんよ」


まるでオカンのような看護婦二人に見守られながら食べる食事は、ハーレムよりもずっと穏やかで、思いの外、居心地が良かった。





翌日もライラは見舞いに来てくれた。

でも、横にはウザい大男がドンっと構えて、俺に睨みを利かせている。


「何でこいつも一緒に来たの?」


俺は小声でそっとライラに尋ねた。

ライラは困ったように顔を伏せた。

途端に、ランスのチョップが頭を襲う。


「おい! 姫様に馴れ馴れしいぞ!」


「痛ーって! 何すんだよ!」


「姫に近い! 無礼者!」


「てめーも近いじゃんかよっ!」


俺は頭を摩りながらランスに怒鳴り返した。

ランスは俺の言葉に驚いたように目を丸めた。そして、見る見る顔が赤くなると、丸い目が三角になった。


「お、お、おまえ・・・。俺に、この、俺に言っているのか・・・?」


ランスは怒りでフルフル震えてる。

身体からフシュフシュと湯気が沸いてきそうなほどだ。

やべっ! ちょっと言い過ぎた・・・?


「俺は・・・、俺はライラ様付の騎士だぞ! お傍に仕えて当然だろうが!」」


「俺だってライラちゃん付きの騎士になったんだろ? 一緒じゃねーか!」


「俺は筆頭騎士だ! 立場が全然違うわっ! この無礼者のがぁ!!」


ランスの腕が伸び、俺の胸倉を掴むと、グイっと持ち上げた。

俺の顔に食らい付くぐらい奴の顔が寄る。

目の奥にチョロチョロっと炎が見える。


「その上、この俺に、『てめー』とは・・・」


「うっせー! 苦しーから放せ! この熊男!」


いい加減、何度も殴られて腹が立っていた俺は、ランスの怒りの目に少々ビビりながらも、喚き散らした。


「く、熊男だとぉ・・・?」


ランスの腕の力が強まる。

うー! 苦しー! この馬鹿力!!


そこに、ペシペシと肌を叩く音が聞こえた。


「ランス! 放さないか!」


ライラがランスの腕をベシベシ叩いている。


「ですが、ライラ様! こ、こいつ、私を熊男だと・・・!」


「大きくて立派な男だと言ったのだ! きっと!」


ううん。違うよ、ライラちゃん。


「それに、それに、てめー呼ばわりとは・・・!」


「そ、それは私からも忠告する! だから放せ、ランス! ケンタロウ、確かにその呼び方は無礼だぞ! ランスに謝りなさい!」


うっ・・・、まあ、確かに目上の人には失礼だったとは思いますが・・・。

でも、なんか謝るのは悔しー・・・。

つーっか、締め付けられ過ぎて、声が出ねーよ。


「す・・・い、ません・・・でし・・た・・・」


俺は息も切れ切れに謝った。

すると、ランスの口から長い溜息が漏れた。そして、俺の胸倉を掴んでいる手の力が弱まり、俺はストンとベッドに落とされた。


「「チッ・・・」」


舌打ちがハモった。


「「・・・」」


一瞬沈黙が走る。


「貴様ー! 何舌打ちしてるんだぁ!」


「てめーだってしたじゃねーか」


あ、また言っちゃった、『てめー』って。


「このー!」


ランスの逞しい腕がまた俺に向かってくる。


「暴力反対! ライラちゃ~ん! この熊男、俺を虐める~~!」


「私も暴力反対! ランス!」


ライラは両手を広げ、俺を庇うようにランスとベッドの間に割り込んだ。


「ええっ?! 姫様! 酷い! 俺よりこいつの味方ですかぁ!」


「暴言反対! ケンタロウ! 『てめー』も『熊男』も『ババア』も使っちゃダメ!」


ライラはくるっと向きを変え、今度はランスを庇うように両手を広げて俺を見る。


「ええ~、でもさ~、そいつの殴りっぷり酷いと思わない? ライラちゃん」


「それと呼び方は別だ!」


「・・・分かりましたよ・・・。さーせん、おっさん」


俺は口を尖らせたまま、渋々謝る。


「おおおお、おっさんだぁ??」


「暴力反対! ランス!」


またまたライラはくるっと向きを変えて、俺を庇うように両手を広げる。


「姫様~、こ、こいつ、俺を・・・、俺をおっさんってぇ・・・、俺まだ28ぃ!」


「暴言反対! ケンタロウ!」


またまたまたライラは以下略・・・。


うーん、俺とランスってずーっと相容れない気がしてきた。


そこにおばちゃん漫才コンビ・・・、じゃなくて看護婦が入ってきたので、俺たちの抗争は何とか中断された。

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