35.汚れた魔法
女の子から見たら、あの食事風景はドン引きするだろう。
でも、俺は初のハーレム状態で浮かれ過ぎてそれどころじゃなかった。
「ははは・・・。いや~、騎士になった途端、あの状態でさ~、俺も驚いちゃって・・・」
「・・・」
「騎士ってモテるんだな~、初めて知ったよ! あはは」
「・・・」
相変わらずライラはそっぽを向いている。
かなり引いてるな、これは・・・。
「そ、それよりさ、騎士になったおかげでまともに治療してもらえるし、カロリー高い食事も取れて、順調に回復してるよ。あと数日で救護室から出れそうだ」
「・・・そうか」
ライラはやっとそっぽを向いていた顔を俺に向けた。
「そう言えばランスは? ライラちゃん一人で来たの?」
あのウザい大男の姿が無い。
ライラは小さく頷いた。
「ふーん。ま、俺的にはアイツがいない方がいいや。だってすぐ殴るんだもん。俺、暴力反対派だから」
「・・・でも、父親を殴ったと言っていなかったか・・・?」
いやだ~、ライラちゃん、そんなこと覚えてなくていいのに~。
「ははは・・・。まあまあ、とりあえず部屋に戻ろうぜ」
「え?」
ライラは驚いたように目を丸めた。
「え? だって、俺の見舞いに来てくれたんだろ? もう帰っちゃうの?」
「だが・・・、食事中だった・・・」
「あー、飯? 大丈夫、大丈夫、もう食い終わったから」
俺は腹を摩って見せた。
「だが・・・。看護婦たちが・・・」
ライラは何故か心配そうに顔を伏せた。
「あ、そうだ、飯食い終わったら診察って言ってたなー。まあ、診察が終るまで部屋で待っててくれよ。俺、ライラちゃんに聞きたいこといっぱいあるんだ」
「聞きたいこと?」
ライラは顔を上げて首を傾げた。
「うん。俺、異世界人じゃん? この城の中の事って何にも知らないだろ? それどころか、この世界の事自体よく分かってないんだ。奴隷生活じゃ、あんまり知ることが出来なかったからさ」
「・・・そうだな」
「だろ? だから、いろいろ教えてくれよ。な?」
ライラはコクンと頷いてくれた。
「おっし、じゃあ戻ろうぜ」
そう言ってライラを促し、部屋に戻ろうとした時だった。
廊下の先から、白衣の男性と看護婦数名が小走りでこちらに向かってくる。
「ケンタロウ様! こんなところにいらしたのですか? 診察の時間ですよ」
医者は傍にくると、眼鏡をクイっと上げて俺を見つめた。
そして、チラッと隣のライラを見た。
「ライラ様はご遠慮くださいませ」
そう冷たく言い放つと、看護婦たちが俺の周りを囲むように取り巻いた。
「え? え? 何?」
俺が動揺しているのにも関わらず、彼女たちは俺を救護室へ引っ張って行く。
「え? ちょっと、ちょっと待って!」
俺は無理やり首だけ振り向きライラを見た。
ライラは黙って連れて行かれる俺を見つめている。
「えっと、ライラちゃ・・・、ライラ姫も一緒に」
「いいえ、ケンタロウ様。さあ、戻りましょう」
「早く包帯を替えましょう」
「終わりましたら、お茶をしましょう」
4、5人の看護婦に引っ張られる俺の後ろを医者はのんびりと付いて来る。
さらにその後ろで、ライラは一人佇んで俺を見つめていた。
★
俺は釈然としない気持ちで医者の治療を受けていた。
医者にさっきのライラへの態度を問いただそうと思っていたのだが、彼は治療を終えると忙しそうにサッサと部屋から出て行ってしまった。
医者が忙しそうにしているのにも関わらず、看護婦たちは部屋から出て行こうとせず、お茶の用意を始めた。
お茶を淹れてくれること自体は有難いので、素直に頂いた。
それをすすりながら、俺は彼女たちに疑問をぶつけた。
「あの、なんでライラ姫が一緒じゃダメだったんですか?」
その質問に彼女たちは固まった。
「あ、もしかして、俺の半裸を見せるわけにはいかないからか?」
「・・・」
「姫様ですもんね、ライラちゃ・・・、いや、ライラ様は」
うん、お姫様に野郎の半裸の治療姿なんて見せられないか。
見苦しいし、失礼だもんな。
それにしても、あの医者の態度は妙に冷たかったよな。
姫君にあんな態度とっていいのか? 人の事言えないけど・・・。
この世界では医者って相当偉いのかな?
ブツブツとそんなことを考えていると、
「お気の毒ですわね、ケンタロウ様。あの方付きの騎士様なんて」
一人の看護婦が気の毒そうに首を竦めた。
「本当に。せっかく騎士様になれたというのに・・・」
他の看護婦たちも頷く。
「早く祖国にお帰りになればよろしいのに・・・。そうすればあの方から解放されますもの」
「ええ、そうですわね。そうすれば晴れて騎士団の一員ですわ!」
「もしかしたら王子付きの騎士様になれたりして!」
看護婦たちはキャッキャ言い出した。
俺はその内容を理解できない。何言ってんだ・・・?
「えっと、どういう意味・・・?」
俺は呆然と彼女たちを見渡した。
すると、俺のすぐ横にべったりとくっつくように腰かけている看護婦が肩を竦めて首を軽く振った。
「だって、あの方は汚らわしい呪いの魔法をかけられたのですよ。だからあんなに醜いのです」
澄ましてそう答えた。
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