2.父の失踪

ある日、学校から帰ってくると、親父が失踪していた。


「探さないで下さい。寂しいと思うけど一人で頑張ってね! 

P.S. お金は少しずつおろしてね。無くなったら自分で稼いでね♡」


という置手紙を残して。


高校生の俺は言葉を失った。

あまりにふざけた文章に顎が外れたからだ。


とりあえず、ご丁寧に手紙の横に置いてあった通帳の中身を確認した。

まあ、暫らくは生きていけそうな金額は残っている。

そして、暗証番号をでかでかと書いた付箋が貼っているキャッシュカード手に取った。


「ははは! 探さないでだと? ふざけんな! 速攻探すわっ! クソ親父が!!」


俺はそう叫んだ2秒後には、警察に捜索願を出した。

しかし、未だ見つからず、早二ヶ月経っていた。


俺は親父と二人暮らし。母は二年前に亡くなった。

家は一戸建ての持ち家だ。古いが雨風は凌げる。


とにかく、家はある、金も何とかなるということで、あまり焦らず生活していたつもりだったが、やはり悲壮感は漏れ出ているらしい。

周りの友達も先生たちもそれはそれは腫れ物を触れるように気を使ってくれた。


その中で一人、とても俺に気を使い始めた人物がいた。


クラスのカースト上位に入っている女子。

俺的にはトップオブトップでもおかしいとは思わない女の子。

清楚系美女の松野さん。


毎日親父の手作り弁当を持ってきていた俺が、パンばっかりになったのが気の毒に思ってくれたようだ。ある日、弁当を作ってきてくれた。


「おおおおっ! こ、これは・・・!」


松野さんが俺の机にポンっと置いた弁当に、俺は目を見張った。


「自分の分も作っているからついでに。佐藤君、お夕飯もコンビニ弁当ばかりなんじゃない? お昼ぐらいちゃんとしたものを食べた方がいいから。これからも作ってきてあげる」


「女神ですか? 松野さん!」


「大げさね!」


松野さんは呆れたように笑ったが、照れているのかどことなく顔が赤い。

そんな彼女の顔は可愛すぎる。


ヤバい! なんかいい感じな気がするんだけど!? もしかして脈ありか?


松野さんの手作り弁当が食べられるなら、親父、まだ見つかんなくていいや!

あと、一ヶ月くらい戻ってこなくていいわ!


「ありがとう!! 松野さん!」


俺は両手を合わせ、深々と女神に頭を下げた。





人生って、山あり谷ありって言うけど、本当にそうだ。

谷があると山がある。

親父が失踪して、絶賛谷の底辺中だったわけだが、女神に一気に山頂に引き上げられた。


女神―――つまり、松野さん。


あの天使が、俺に告ってきた。

当然、二つ返事でOK!


「それにしても、告白してきたときの松野さんは可愛かったな~」


俺は一人になった帰り道、さっきまで松野さんと繋いでいた左手を見つめ、彼女の可愛い顔を思い出し、一人ニヤけながら歩いていた。


「世の中に、天使のような女神って本当にいるんだな~」


いや、女神のような天使か? 

違う、違う、天使のような女の子! 女神のような女子!


しかもその女神は、明日、家にご飯を作りに来てくれるというのだ!

ちょっと、ちょっと、いきなりお家デートなんですけど!

ああ、もう、俺どうしよう?

親父、失踪してくれてありがとう!

あ、もちろん、無事でいること前提ね。それに、そろそろ冗談もほどほどに帰って来てくれないとマジで迷惑だけどね。


俺は心の中でスキップしながら家に向かって歩いた。

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