唯一の存在② side イアン
婚約者に浮気をされて傷心しているリリアーヌ様の信頼を勝ち取り、自然に自分のペースに巻き込んでいくルイナルド殿下の手腕は見事だった。
恋愛に慣れているのかと疑いたくなったが、ルイナルド殿下がリリアーヌ様以外の女性を口説いている姿を見たことはないので、彼女限定で発揮される才能が開花したのだろう。やはりリリアーヌ様はすごいお方だ。
私はなるべく二人の邪魔をしないよう、存在感を消して空気に徹していたが、助けを求められたら適宜サポートさせていただいた。
これも全て無事リリアーヌ様をルイナルド殿下の伴侶として迎えるためである。
しかしその過程で驚くべき事実が判明した。リリアーヌ様は学業面でも非凡なる才をお持ちであることがわかったのだ。
それなのになぜ「ハリボテ令嬢」と呼ばれるに至ったのか……整合性が説明できない。これは調査が必要そうだ。
かくして、ルイナルド殿下はリリアーヌ様を自らの「婚約者」とすることに成功した。名目上でも一度手に入れたのだ。もう二度と逃すつもりはないだろう。私もリリアーヌ様に逃げられないように力を尽くす所存ではあるが、私の出番はなさそうで安心している。
その理由は、ルイナルド殿下御自らを除いたら、国王陛下と王妃陛下も強い味方になってくださっているからだ。
我が国の最高権力者たちがこぞって外堀を埋めにかかっているのだから、リリアーヌ様には王太子妃に収まっていただくほかないだろう。
きっと両陛下もルイナルド殿下にはリリアーヌ様がいないとだめだとご存じなのだ。全力で囲い込みにかかっていて、迫力が怖いほどだ。
リリアーヌ様がルイナルド殿下の砂糖を吐きそうな誘惑にわかりやすく頬を染め、満更でもなさそうなことだけが救いである。
今回、わざわざリリアーヌ様にとって大事な試験の前日にこの婚約披露パーティーを開いたのには明確な理由がある。
その理由もルイナルド様を思って、外堀を埋めてリリアーヌ様を囲い込むために国王陛下が考えられたことだったが、私も気持ちは陛下と同じなので微笑ましく見守ることにした。
ルイナルド様は面白いほど国王陛下の予想通りの行動をとっていて、国王陛下は「狙い通り!」と高笑いなさっていた。王妃陛下も「うまくサポートできてよかったわ」と満足そうに微笑んでいらしたし、平和でなによりだ。
様々な思惑が絡んだ婚約披露パーティーが終わり、その翌朝。
どうなっただろうか、とルイナルド殿下の寝室に向かおうとすると、使用人たちの会話が聞こえてきた。
「ルイナルド殿下とリリアーヌ様、よかったわねぇ」
「ええ。殿下もあの溺愛っぷりですものね。リリアーヌ様もいつもお可愛らしい反応をなさるから……可愛くて仕方ないのでしょうね」
「あのお二人がいらっしゃるならこの国の将来も安泰ね」
「お二人とも穏やかで
「初夜も無事過ごされたみたいですしね……」
「えっ! そうなのですか……?」
「だって……ねぇ」
「殿下がパーティーが終わったら『ご褒美』がほしいってリリアーヌ様にねだっていらしたし……」
「そうそう! リリアーヌ様も恥ずかしそうに承諾されていましたよね!」
「ええ! パーティー会場でも常に二人ご一緒で、一時も離れずに見つめ合っていましたよ!」
「俺、給仕に行くときに聞いてしまったんだが、リリアーヌ様に『今夜はずっと一緒』って流し目する殿下、最高に色っぽかったよ……」
「はいはいはい! 私はさっき部屋から出てきた『事後』っぽい感じの気怠げな殿下見ちゃいました……」
「「「「…………」」」」
「将来安泰ね」
「ええ。将来安泰!」
「お二人のお子さま、楽しみだわぁ……」
「我が国の明るい未来のために、今日も楽しくしっかりお仕えしよう!」
ふふふふ……という幸せそうな含み笑いがそこかしこから聞こえてくる。
確かに正式な婚約者となれば、婚前交渉も容認される。
当の本人たちには全くその気はないし、なんなら徹夜で勉強していたのだが……
婚約披露パーティーのあと、王太子殿下の寝室で、婚約者同士二人きりで夜通し行われたのが翌日の
誤解されたまま、この慶事に王宮中が湧いた。そして国王陛下と王妃陛下が率先してお祝いムードを盛り上げていったため、噂が真実であると皆が思い込んだ。
噂は驚くほど速度を増して貴族たちまで伝わり、一週間もしないうちにほぼ全ての貴族が知るところとなった。
ここに国王陛下の計画は見事完遂された。
ちなみに、あとから聞いた話。リリアーヌ様が入学してきて真っ先に準備していた眼鏡については、彼女から「かけているとかっこいいと以前褒められたことがある」そうだ。
きっと昨夜は眼鏡姿でリリアーヌ様と過ごされただろうことが予想される。私の主君は意外とかわいいところがある人なのである。
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