第27話 祝勝会

 ゴールラインを通過し、20メートルほど進んだところで俺と3組のこいつは走るのを止める。


 振り返ると、俺たちに続いて6組、4組とアンカーがゴールしていた。


 間もなく2年生全員がフィニッシュラインを通過した。



「さ、さぁ! 一体勝ったのは1組と3組、どっちなんだぁ!?」


 借り物競争でお馴染みの解説女が会場を煽る。


 正直走った当人の俺でもどっちが勝ったのか分からない。

 ただ勝った方のクラスに軍配が上がるということだけは知ってる。


「現在、体育委員が撮影した映像で確認中だ!」


 なるほど。

 ゴール真横でスマホを用いて撮影していたのはこの時のためだったのか。


「おっ!? どうやら判定がでたみたいだぞぉ!?」


 そうして解説女は体育委員の元へと近づき、その結果を耳打ちで聞いていた。


「二年生リレー、第一位は……」


 会場が静寂に包まれる。


「一組だぁ!」


 ……勝った、のか。


「よっしゃぁぁ!」


 クラスメイトが叫びながら俺の元へと走ってくる。

 そして俺の元へとたどり着いた男女二人は、そのままの勢いで俺に抱き着いてきた。


「やったな! 悠!」


「吉田君! ナイス!」


 言わずもがな翔太と白川だ。


「あ、ああ。お前たちもな」


 共に戦った戦友……とでも言うのだろうか、一応俺も言葉を返しておく。

 とにもかくにもこれで俺たち一組の優勝が決まった。


 その後二年生……主に俺らのクラスは予想以上に盛り上がってしまい、体育委員から観戦位置に戻るようにと注意された。


 そして予定通り最後に三年生のリレーが行われ、今年の体育祭の全種目が終了した。


 ☆


「――では次に二年生の成績発表に移ります」


 種目が終了した後、そのままグラウンドで閉会式を行うことになっていた。

 全校生徒の前で、体育委員が指揮台にあがって進行している。


 そしてこれから俺たち二年生の成績発表……すなわちクラス順位が発表されるといったタイミングだ。


 ……とはいっても、どのクラスも自分たちが何位なのかは見当がついているわけなんだが……。


「まず、第一位は……」


 既に周囲のクラスメイトは半ばしゃがみこんだ体勢になり、立ち上がる準備が完了していた。


「一組! 39点!」


「よっしゃぁ!」


「やったぁ!」


 半分以上のクラスメイトが立ち上がって大声で喜んでいた。


「続いて第二位……二位は3組。38点!」


「くそぉぉ!」


 一位になった俺たちとは盛り上がりが明らかに違うが、仕方がないだろう。


「続いて第三位――」


 そうして全クラスの順位が発表された。

 三位は6組、四位は2組と4組、最下位は5組という結果になった。


「――二年生の成績発表はこれで以上となります。続いて二年生の賞状、トロフィー、旗の授与に移ります。各クラスの代表者は前に出てきてください。尚、二位と三位である3組と6組は二名、優勝した1組は三名の代表者を選出してください」


 そうして他クラスから代表者と思われる人たちが指揮台前へと向かっていく。


 しかし俺たちのクラスは誰も立ちあがらない。

 一応事前に三名までの代表者は話し合いで決まっていると聞いているが……。


「なあ……」


 何やら少し周囲がざわざわしている。


「よし悠。行くぞ」


 隣に座っていた翔太が言ってきた。


「まじっすか」


「もちろん」


 そうして俺と翔太は立ち上がる。


「もう一人は?」


「そりゃもちろん……」


 答えを待っていると、少し前で座っていた白川が立ち上がった。


「なるほど」


 1組からは俺と翔太、白川が代表者ということらしい。

 変に抵抗しても見苦しいだけだと思ったのでおとなしく従うことにした。


 おそらくこの結果は今土壇場で1組が話し合って決めたことなのだろう。

 そもそも俺は代表者決めの話し合いに参加していないのだから。


 俺たち三人が……前が俺でその後ろが白川、最後が翔太といった順で指揮台の目の前に並び、全クラスの代表者が揃った。


 ちなみに隣の三組からは、新庄と陸上部のあいつがいた。


 程なくして指揮台の上に校長が立った。


 そして俺たち1組はより指揮台へと近づく。


 台の横にいた体育委員が賞状を校長先生に渡した。


「第〇〇回。北平高校高校体育祭。二年生の部、第一位1組――」


 それ以降は、疲労のせいか何を言っているのか分からなかったが、最後に持っていた賞状を差し出してきたので、俺は両手でそれを受け取って一礼し、翔太の後ろへと回った。


 そして白川はトロフィー、翔太は旗を受け取り、1組の出番は終了した。


 その後他クラスの賞状授与や三年生の結果発表等が行われ、今年の体育祭は幕を閉じた。


 終了後は混雑を避けるため学年ごとに教室に戻り、ホームルームを行い解散というかたちになったが、どのクラスも学年もそれぞれ一か所に集まって写真やらを撮っていた。


「あ、霧島先生!」


 翔太が近くにいた霧島先生に声をかけた。


「俺たちの写真撮ってもらっていいですか?」


「あ、ああ」


 翔太はポケットから自分のスマホを取り出し、それを霧島先生に渡した。


 そして俺たち1組は横3列に並ぶ。

 前の列は座り、中の列は膝立ち、後ろは立ったままといったかたちで並んだ。


「では撮るぞ」


 ちなみに俺は最前列の一番真ん中で賞状を両手で持ちながらポーカーフェイスを貫いている。

 左では白川がトロフィーと一緒に俺にもたれながら、右では翔太が俺の肩に手を回して逆手でピースしていた。

 旗は後ろの立っている人たちが持っている。


「3、2、1……」


 カウントの後、シャッター音が聞こえた。


 ☆


「体育祭お疲れ様でしたぁ!」

 

 俺は水の入ったジョッキを片手に、同じくジョッキを持ったクラスメイトと乾杯をする。


 あの後、教室でホームルームを行い解散になると思ったのだが、クラスの一人が祝勝会をやらないかと提案し、ほとんどがそれに賛成したせいで、現在俺たち1組は学校からそう遠くないお好み焼き屋に来ていた。


 もちろん俺はすぐ家に帰りたかったのだが、翔太と白川が来るよなといった様子で睨めつけてきたから致し方なく今に至る。


 ちなみに一つのテーブルで4人くらいが上限である。

 俺のところには他に翔太と梨花、そして白川が座っていた。

 その中で隣に座っているのは白川だ。


 目の前の鉄板にはお好み焼きが4枚焼かれている。

 しかし俺のだけ妙に形が不均一だ。


 他の3枚は綺麗な円であるのに。

 

 他のテーブルを見渡しても、皆上手く出来ている。


 これは経験の差ということだろうか。


「にしてもまさか優勝できるとはなぁ」


 向かいに座っていた翔太が体育祭を振り返っていた。


「そうだよね! しかも私リレーで転んじゃったし、あの時はもう駄目かと思ったよ」


 それに応答するように白川が話す。


「でも白川すぐ立ち上がってたよな」


「そう。あの時ね。吉田君が大声で立てって言ってくれたんだ」


「そうなのか!?」


 お前がそんなことするのかといった表情で翔太は視線を俺に向けてきた。


「まあな」


「へぇ。反対にいたから分からなかったぁ。見てみたかったなぁ」


「凄かったよ。これまで聞いたことない声量で応援してくれたんだから。ありがとね、吉田君」


「ああ」


「そうだったのか。ってお! お好み焼きそろそろいいんじゃねえか?」


 翔太の言葉で目の前のお好み焼きがいつの間にか良い焼き加減になっていたことに気づく。


 そして俺たちは食べることに意識を持って行かれ、互いに言葉を交わす回数が減っっていった。


 それぞれのお好み焼きが残り半分くらいに差し掛かった頃。

 向かいの梨花が声をかけてきた。


「ねえ悠。ちょっといい?」


「ああ」


 呼び出された俺は梨花についていく。

 俺たちは店の外へと出た。


 梨花は一息ついて俺に聞いてくる。


「今日のバトンパス、仕込んだのあんたでしょ」


「いや、あれは翔太が……」


「いいのよ。嘘つかなくて。走る前にあんなこと言われたら誰だって気づくでしょ」


 確かにリレーの前、梨花に見ておけなんて言ってしまったのは……これから披露するものは俺が考えましたと言っているようなものだった。

 ただ最強主人公っぽく振る舞ってみたくてそうしてしまった。


「まあそうだな」


「何あんたらしくないことしてんのよ……」


「それは……」


「でも……ありがと」


 予想だにしていなかった梨花の言葉に、俺はどう返答すればよいか分からなかった。


「あ、あと……」


「いや、話したかったのはそれだけ。戻るわよ」


 そう言って梨花は再び店内へと入っていった。


 もう一つ何を言いたかったのか、何となく分かる気もしたが本人がいいならそれ以上突っかかる意味もない。


 俺も梨花に続いて店内へと戻った。

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