第59話 あんなものさっさと捨てればよかったんだ

 ファミリーの建物は、よくも悪くも一般的であった。

 二階建て。庭付き。


 この界隈では珍しいと言っても、ヘルファイヤー全体でみればそこまで珍しくない。

 お金持ちなんかの上流階級なんかはこんな屋敷に住んでる。

 あとファミリーの拠点としても多い。ファミリーに所属する人間が集まる寮と武具や武器の管理、修理、治療、諸々の会計や宝物の売却、そんなことをやるための拠点が必要になるが、わざわざ一から新規設計してファミリー向けの建物を作るのは面倒だし、特殊な設計は上流階級の屋敷を立てるより金がかかるのだ。

 だから超一流や一流、稼いでる所で金が豊富にあるような所でもなければ、空き家となった商店や一般住宅をを購入して改築したり、一般の富裕層向けの住宅を立てて安く上げるなどしている。


「ギルドの監査です。開けなさい。開けなければ破りますよ」

 建物の前に来ても押し問答している。

 相手のファミリーが扉をあけないのだ。

 人がいる雰囲気はある。居留守、というよりも立てこもりの構え

「おねがいします」

 しかし今回はさっくりと話を進める監察の面々。

「はーい」

「お前のそれは周りを巻き込む。俺が破るから下がってろ」

 もう一回とヴァンペルトが出ようとするのを狼男が止めた。

 彼は前みた、ような気がする。

「あんたNか。アニーから聞いたよ。ありがとな。今度ちゃんとしたお礼をさせてくれ」

 アニーの近くに居たNとピーターを見かけてそう声をかける。

 その反応を聞かずに

「破るぞ。用意しろ」

の掛け声。

 そして扉に向かって勢いよく体当たり。

 その一撃で鍵は壊れ扉はひらく。

 監査以下面々は勢いを止めずになだれ込む。


「ギルドの監査です。全員動きを止めなさい」

「そこ、そのまま動くな。部屋から出てこい」

 ぞろぞろとなだれ込んだ面々は小さなグループに別れ建物を制圧していった。

 ギルドの監査係一名に武装したファミリーの面々が警護と捕縛をする形。

 

 意外と、と言ってはなんだが抵抗は殆どなかった。

 むしろまったくないと言っていい。


「なんだか腑抜けだなこりゃ」


 ギルドの監査となるともっとガラが悪い連中の相手をすることがある。

 監査中に切れて襲ってきたりというのもないことではない。

 それに比べるとかなりおとなしい。

 むしろもうあきらめの境地にいるとも言える従順さ。

 全員指示に従い一番広い部屋に集められる


「おい、お前らのボスか責任者はどこにいる」

「わかりません」

「なんでだ」

「監査の皆さんが来てるって伝えに言ったら、幹部もボスもどっかに消えました」

 監察の一人の問いに一人がそう答える。

「かばったら痛い目にあうぞ」

「嘘じゃありません」

「モンスターの違法飼育についてはもうわかってます。正直に全部話しなさい」

 監察のトップの言葉。

 その言葉で初めて感情を表した。動揺とも、あきらめとも、これでよかったという安堵とも言える。そんな複雑な感情。


「居なくなったのは本当です。皆さんが来るって、多分あのバケモノどもの事だって指示を聞きに言ったらみんな消えちまって、それでどうしようかって」

「つまり違法飼育は」

「あんなもんさっさとみんな捨てちまえばよかったんだ」

「そうだそうだ」

「あいつに手を出してからすべてが狂っちまいました」


 ばらばらと、堰を切ったからのように話始めた下っ端共の話をまとめるとこうだ。

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