第12話 酒場

「今日はありがとうございました」

 一通りの要件が終わった所でサラは二人に感謝の言葉を述べた。

「いえ、迷惑をかけた側ですから」

「いや、お前は俺に謝れよ」

 確かにNが迷惑をかけてメッサーがその迷惑代を払った形。

「申し訳ありませんでした」

 その点反論のしようがないのでNは深々と謝罪をする。

 その二人のやり取りを見てサラはふっふと笑った。


「ぜひお店の方にも来てください。冒険者の方がたくさんいますから情報交換にもいいですよ」

「ありがとうございます。明日にでも行かせてもらいますよ」

「気を付けて帰れよ。金を持ってると物騒だ。寄り道なんかしないように」

 そんな会話をしてから離れていくサラ。


「じゃぁ今日はすいませんでした」

とまたNは謝ったが、よく知らない彼に迷惑をかけっぱなしだと思いなおした。

 言葉だけでは不十分だ。

「そうだ。明日の夕食とか、お暇ですか」

「なんでだよ」

「いろいろ迷惑をかけっぱなしですから、そのお礼というか、謝礼というか、まぁそんなので夕食を奢りたいなとおもいまして。ブレンダンの酒場とかいう所でどうですか。行ったことはありませんが、縁もあることですし」

 男と飯か、とも思ったがそこまで不愛想でもなければコミュ力が低くもない。

 というかそういうやつはクラブのオーナーなどやれない。

 それにまぁ、たまには偵察もいいかという考えもある。ブレンダンの酒場は名前は聞いたことあるが行ったことはない。

 あそこの制服は可愛いし従業員がみんな可愛いんだ。と店の常連に聞いたことがある程度。

「自分から恩を返そうと思うなら答えないわけにはいかないな。鐘が7つなる頃に大通りの噴水でどうだ」

「わかりました」

 そういって二人も分かれた。


 騒がしい音楽は今日も続く。

 かといってずっとうるさいわけではない。たまには休憩ということで静かになる。

「なぁ」

 その時間の隙間にうまく休憩をいれたオーナーと店長はカウンターで軽食を食べていた。

 バックヤードに隠れることはしない。この店はその辺極めて緩いのだ。

 それに吸血鬼の店長はオーナーまでとはいかなくても女にもてる。表にいたほうが客寄せになる。

「なんですか」

「ブレンダンの酒場って知ってるか」

 バーテンは頼まれたコーヒーを二人にだす。

「知ってますけど、行ったことはないですね。安くてうまい、大衆酒場らしいですよ。それがどうかしたんですか」

「お前大抵の夜の店は回ってるじゃないか。街の寄合にも代わりに行ってるし」

「オーナーがいい加減すぎるんですよ。店やる気あるんですか?」

 実際問題としてこのオーナー、店をやるより女を追いかけるほうが楽しいというタイプだから反論のしようがない。

「まあ。行きにくい店ってのがあるんですよ。冒険者のたまり場みたいな店ですからねぇ。私みたいな人外で冒険者でもないのはねぇ」

「あぁ、そういう」

 この町には獣人やらエルフやらドワーフやらといった人外はたくさんいる。

 ドラゴンだっている。

 彼らは人間と友好的に生活しているが、その一方で友好的に扱われないものたちもいる。

 吸血鬼、オーク、ゴブリン、キマイラetc

 この店はそう言ったものたちが多い。オーナーがどこかからそういう連中を調達してくるのだ。

 それもこの店の怪しい雰囲気を醸し出している。

「店長はいい人なんですがね。金髪で歳を感じさせない美人で。どうかしたんですか」

「明日、友人、とそこで飯を食おうって話になってな」

 紹介の仕方に困ったのでとりあえず感を出しながら友人としておいた。

「女を連れてく店じゃありませんよ」

「男だよ」

「そっちの趣味が?」

「失礼な、俺だって友人くらいもってる。自慢できるほど多くはないが」

「自慢できるような友人もいないくせに」

 そんなことを話しながら休憩は終わり、また音楽が鳴り始める。


翌日 夕方


 店の用意は店長がやる。

 遅くなればオープニングの挨拶もやるだろう。

 その辺もはやツーカーの仲。

 なのでメッサー氏はブレンダンの酒場で晩飯としゃれこむ。

 服装は色合いは地味でも高そうな服。といっても彼が着るとなんでもぼんやりとした印象になる。


「おそくなりましたか」

 鐘がなった少し後、噴水でにNが現れる。

 石畳の道で喫煙用のパイプを加えていたメッサーは

「遅いなぁ。遅くて許されるのは女だけだぞ」

などといって灰を道端にすてポケットの中に

「はぁ、すいませんね。迷っちゃって」

Nは相変わらず新人冒険者の装備。上に安っぽいコートを着て隠しているがこれしかないのだろうか。

「またか。昨日もそんなことを言っていただろう」

「はぁ。ほかの街じゃそんなことないんですが、この街は複雑すぎませんか。通りの名前も変則的ですし。気づいたら別の道に入ってたりする」

「わからんでもないがな。再開発してどうこうなんて話が昔から繰り返しでてるが、毎回ゴタゴタして立ち消えになる。みんな好き勝手やってきたから権利関係が複雑になりすぎてるんだろう」

 そんな話をしながらメッサーが先導し酒場へ向かう。


 ブレンダンの酒場は極めて、というのはどうなのか知らないが少なくともNの想像する酒場らしい酒場だった。

 活気がある酔っ払いが集まる机の席が複数、カウンターの席はあまりない。一人で来る客はそこまで考えてないか。しかし客はたくさんいる。ほぼ満席。

「いらっしゃいませ。お客様は二名ですか」

「そうです。席は空いてますか」

「申し訳ございません。現在カウンター席しかあいておりません」

 その酔っ払いの間を駆け回っていたウェイトレスの一人が二人を見つけて接客。

「二人掛けですとお待ちいただくか相席となりますが」

「カウンターでいいよ。顔合わせて飯食う仲でもないだろう」

「そうですね」

「かしこまりました。ではこちらにどうぞ」

 そうにこやかに案内されながらカウンターに。


 二人は席に着くと酒と料理を頼む。

 メニューの数は多いからNは目移りしているが、メッサーは慣れたもので一番大きく書かれた焼き魚を頼む。

 一番のおすすめ料理だろう。そういうのを頼んどけばとんでもない間違いはそうない。

 メニューを見る限り品数は多いように見えるが、食材の数は絞ってるように思える。

 魚一つ仕入れて、それを煮て出し焼いて出し酢漬けにして出しで三品だ。安いなりに特色を出す工夫がこれなのだろう。

 あとは酒飲みのつまみになりそうな物もおおい。塩辛かったり。酒場だ。それは当然か。

「偵察ですか?」

「よその酒場は気になるからなぁ」

 メニューをじっと眺めてるメッサーの横顔を見てNは笑う。


 頼んだ料理の前に二人の席に酒が運ばれてくる。

「新人冒険者の方ですか。頑張ってくださいね」

 ウェイトレスは、ここのウェイトレスは評判通りの美人ばかりだ、そんな声をかけて料理はでき次第お持ちしますと去っていく。

「みんな僕を見ると新人っていうんですけど、なんでですかね」

「その装備さ。取り合えず乾杯と行こう」

 安い酒だ。しかし二人で飲む分には気にもならない。

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