第1話

 なんの変哲も無い単なるファミレス。あたしは絶滅寸前の喫煙スペースでタバコを蒸す。若い頃に憧れた細身のシガレットは、メンソールの香りがした、


 間違えちゃったな。


 コンビニのアルバイト店員から手渡されたのは望んでいた銘柄じゃなかったけど、なんとなく手持ちぶたさで煙を吐く。


 まっずい。この任務が終わったら、禁煙しよう。


 そうして、熱いだけで味の薄いグラタンが運ばれてきた。


「ありがとう」


 にっこり笑って、煙を吐く。バイトと言えども接客業ならそんな顔しないで欲しいかな。タバコ、嫌われてるのは知ってるけど。


 ウェイトレスと入れ替えに現れたのは、義理の父。元旦那のお父さん。


「やぁ、待たせたね。おれはね、コーヒー持参してるから行っていいよ?」


 使い込んだ革の鞄の中から、新品のタンブラーがさりげなく現れて、ウェイトレスが舌打ちした。本来ならば持ち込み禁止と注意されるところなのだろうが、あたしたちみたいなのとは関わりたくないという本心から、素直に下がった。


 あたしは素早く辺りを見回して、そのタンブラーを受け取る。


「じゃ、あたしのもどうぞ」


 あたしも取り出した同じ色のタンブラーを義父に渡した。交渉成立。


 あたしはグラタンに少しも手をつけないまま、店を後にした。支払いはお義父さんがしてくれる。


 タンブラーの中から新しい車の鍵と、報酬金を軽く確認して、新しい車に乗り換えた。


 時代は電気自動車。あー、ダサい車。ガソリン車を無くすこと自体がエコになってなくない? っていうか、ガソリンスタンド無くしたら、誰が得をするのだろう?


 つづく

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