平行世界7日目その3にゃ~
わしの驚異を質問していた記者は、わしとさっちゃんの口喧嘩を見て、何故か納得。
「いい加減、子供みたいなケンカはやめよ」
玉藻が言う通り、記者にはわしがお子ちゃまに見えたから、どうでもよくなったみたいだ。
しかし、次の女性記者はさっちゃんのペット発言が尾を引いており、変なことを言い出した。
「シラタマ王の元の姿は写真に映っていますが、この場で見せてもらえないでしょうか?」
「いや、写真があるからいらないにゃろ?」
「いえ。確認のためには必要です。本当はタヌキなのかもしれませんし」
「どう見ても猫にゃ~」
女性記者が安い挑発をするので乗るわけがないと言いたいところだが、タヌキ発言は許せない。なので、目立つ場所で変身魔法を解き、テーブルの上に飛び乗って「にゃ~ん」と鳴いてやった。
すると女性記者だけでなく、記者席にいる全ての女性が壇上に押し寄せた。
「近付くにゃ! 触るにゃ! チュールもいらないにゃ! シャーーーッ!!」
そしてオモチャにされそうになったので、猫じゃらしを爪で斬り裂いて逃げた。王様が猫じゃらしで遊ぶわけがあるまい。
猫騒動で一時混乱を招いてしまったので、また10分の休憩を入れてからのリスタート。
「先ほど頭の中でシラタマ王の声がしたのですが、アレも魔法でしょうか?」
「うんにゃ。念話という魔法で、言葉が通じない部族や獣とだって喋れるんにゃ。でも、一定以上、脳が発達している生物じゃないと上手く伝わらないけどにゃ」
「なるほど……もしかしてですけど、街中でシラタマ王たちが黙り込んでいるシーンがありましたが、それは念話で喋っていたのでしょうか?」
「お~。正解にゃ~。聞かれたくない会話は、全て念話でしていたにゃ~」
「ちなみに内容は……」
「聞かれたくないんだから、言うわけないにゃ~。あ、にゃにかを害しようとしてはいないとだけは言っておかないとにゃ。わしは平和を愛する猫だからにゃ~」
聞かれたくない内容とは、わしが転生者とバレそうな会話。実は靖国神社ではほとんど念話で話をしていたので、宮司からは静かな集団だと思われていたのだ。
記者はわしの平和発言に渋々だが納得して座ったので、次の記者が立ち上がる。
「平和を愛しているとおっしゃいましたが、先の暴走車の件は、
「うんにゃ。やりすぎたにゃ。ごめんにゃさい。次の人……」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
わしが謝罪すると思っていなかった記者は、慌てて止めた。
「にゃに~? 謝ったにゃろ~??」
「申し訳ありません。謝罪を要求したわけではなく、どうしてあのようなことをしたか、また、車がどうして真っ二つになったか、怪我人をどうやって手当てしたかを聞きたかったのです」
「それならそう言ってにゃ~。でも、質問多くにゃい?」
質問は多いが、他の記者が「どうぞどうぞ」と言っているので仕方なく答える。まずは神剣【猫撫での剣】の効果を見せて、口があんぐりしているところに、魔法の治療法を口頭で説明。
あとは老人の処置。偉そうだしまったく反省の姿勢がなかったので「ムカついたからやっちゃった。てへぺろ」と言ったら、めっちゃため息が出てた。
「てのは冗談で、ちょっとでも反省してもらおうと思って脅しただけにゃ~」
「……本当ですか??」
「本当にゃ~」
これまでのわしの行動があまりにも王様らしくないので記者は疑い出したが、質問には答えたので次を催促。
それからも様々な質問が来て頑張って答え続けていたら、もう制限時間なので、最後の質問となった。
「皆様がこの地にやって来てちょうど一週間の滞在となりましたが、お三方の感じた日本の感想をお聞かせください」
やっと終わりかとわしから答えようとしたら、さっちゃんにマイクを奪い取られた。オオトリは避けたかったみたいだ。
「この世界に来て私が感じたことは、技術力の高さです。私たちの世界にはない物であふれていることもそうですが、町は綺麗で活気にあふれていることにも驚かされました。私が女王に即位した際には、この東京を目標にして国を発展させていこうと思います。今日は、こんな無知な私たちにお付き合いいただき、ありがとうございました」
さっちゃんがペコリと頭を下げると、ドーム内が拍手で包まれる。その中を、玉藻とマイクの取り合いをしていたら、わしは負けてしまった。玉藻も最後は恥ずかしいみたいだ。
「
玉藻は先送りにした上に、期待を持たせてマイクを渡して来たので、わしの狭い額に汗がジワッと出た。
「え~。言いたいことは全て言われてしまったんで、短めにするにゃ。わしたちの話は楽しかったかにゃ~~~?」
掴みは大外し。わしの脇からドバッと汗が噴き出してしまったので、バレないうちにさっさと締めようよう。
「わしたちは凄く楽しいにゃ。マスコミのみにゃ様や日本に住む人は聞き足りないだろうけど、この日本には、もっと楽しい物があるはずにゃ。全てを見ることは無理でも、最後まで楽しみ尽くしたいと思いにゃす。それでは、地球に住むみにゃ様、わしたちを温かく見守ってくださいにゃ~」
わしが頭を下げるとさっちゃんと玉藻もペコリとと下げて、東京ドーム内は再び拍手の音で包まれる。わしたちは、その中をオープンカーに揺られて会場をあとにするのであった。
会場から出たら、リムジンに乗り換えてさっさと撤退。運転手にぶっ飛ばしてもらってホテルのエレベーターに乗ったら、わしと玉藻とさっちゃんは同時にため息を吐いた。
「疲れたにゃ~」
「本当に……フラッシュ凄かったね~」
「まさかここまで人気だとはな」
わしたちは今日の仕事を労いながら廊下を歩き、スウィートルームのリビングに入ったら、またため息。
「くつろぎすぎにゃ~」
わしたちが疲れて帰って来たのに、リータたちは各々ソファーや絨毯に寝転びながら好きな遊びに夢中になっていたからだ。
「にゃあにゃあ~?」
しかも、声を出しても全然見てくれないので、わしはポータブルゲームをしているリータとメイバイの間に飛び込んだ。
「あ、シラタマさん帰ってたのですか?」
「いまいいところだから邪魔しないでニャー」
「わしも相手してくれにゃ~。ゴロゴロ~」
わしが甘えた声を出してスリスリすることによって、リータとメイバイはようやくゲームをセーブしてからわしを撫で回す。でも、いつもより気合いが入ってないな。チラチラゲーム機見て集中してないし……
とりあえず2人に撫でられて寝落ちしないうちに今日して来たことを聞いたら、わしは投げ捨てられた。なので、全員集合の号令。ゲームとかを全て片付けると脅したら、なんとか集まってくれた。
「わし、今日は自由行動と言ったにゃろ? お金も渡したし、コンシェルジュさんにも観光を頼んだにゃ。にゃのにみんにゃ何してたにゃ??」
「自由行動でしたので、映画見てゲームして、アニメ見てゲームして……」
「ホテルから一歩も出てないにゃ!?」
リータたち、まさかの引きこもり状態。室内でいくらでも遊べるので、わしたちの会見も見てなかった……
「いえ、タブレットで流してましたよ」
「『ながら』は見たうちに入らないにゃ~~~」
さらにながらゲームなんて高等技術を身に付けていたので、リータたちの今後が気になるわしであったとさ。
「あたしとエミリは外へ出てたわよ」
ディナーになってもわしが「にゃ~にゃ~」愚痴っていたら、ベティがうるさいからか割り込んで来た。
「にゃんでリータたちも連れ出さないんにゃ~」
「だって自由行動なんだも~ん。それにあたしについて来ても面白くないと思ったし」
ベティが言うには、エミリと一緒に藤原家のお墓に行っていたそうだ。見た目はどうしたのかと聞いたら、変身魔法で日本人に化けたとのこと。
耳を短くして髪の毛を黒くすれば余裕で町に溶け込めたらしいが、電車の乗り方がわからなくて諦めたらしい。みんなスマホやカードを「ピッ」てやってるからついていけなかったんだって。
タクシーならあまり変わっていなかったから、一万円を掲げて拾ったらしいけど、バブル期の乗り方なんてするなよ。
タクシーに乗りさえすれば、あとはお墓までノンストップで連れて行ってくれるので、無事、墓参りはできたとのこと。しかし月命日だったらしく、大勢の人が集まって来たから焦ったそうだ。
「にゃ! ベティに救われた子供たちじゃにゃい? にゃあにゃあ??」
「違うわよ。息子のほうよ」
「にゃんだ~。ベティって人気なかったんにゃ~」
「あたしに感謝する人もいました~。照れ隠しで嘘つきました~」
「それは嘘つき通したほうがかっこよくにゃい?」
わしのニヤケ面が気に食わなかったからベティは嘘をついたようだけど、それよりも息子が亡くなっていたことが悲しかったみたいだ。それを言われたら、わしも何も言えない。お口チャックで続きを聞くのであった。
「へ~。子供食堂の利用者って
「バレないかとヒヤヒヤしたわ~」
墓参りだけで終わったと思っていたら、ベティたちは子供食堂で月命日のパーティーに参加して、息子の思い出話を盗み聞きしていたんだって。
「ママ、何度も泣きそうになってたよね~?」
「もう! エミリまでからかわないでよ~」
自分が死んでから息子が立派に引き継ぎ、死ぬ間際まで恵まれない子供たちに美味しいごはんを食べさせ、その子供たちに見送られた美談なんて、わしも聞きたくなかった。
「にゃ~。立派にゃ息子さんにゃ~。さすがベティの息子にゃ~」
だって涙腺崩壊するんだもん。
「あたしより泣かないでくれる? あたしが泣けないじゃない」
「にゃ~。わしも会いたかったにゃ~」
「もう会ってたから! その時シラタマ君は抜けてるとか馬鹿にしてたじゃん!!」
「にゃ~~~」
ベティに言われて会っていたことを思い出したが、あの時の自殺を失敗して照れ笑いしていたオッサンが立派になったと知ったほうが涙が止まらない。
こうしてわしがベティの涙を奪い続けたので、笑顔で思い出を噛み締めるしかできないベティであった……
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