平行世界7日目その2にゃ~


「久し振りに見たけど、やっぱりそれ面白いね~。ツンツン」

「マジで痛いからつつかないでくんにゃい?」


 アマテラスの禁止事項に引っ掛かって、金タライを頭に受けたわしのタンコブをさっちゃんがつつく。てか、この部分は何故か痛いので触らないでほしい。

 2人で喋っていても、記者たちからの質問が凄いので遊んでいる場合ではなさそうだ。


「さっきの現象は、ぶっちゃけわしもよくわからないにゃ。だから、神様の呪いとでも受け取ってくれにゃ~」


 呪いと聞いても記者たちは納得するわけがない。タライが消えてもタンコブがポロリと落ちて消えても、わしが魔法を使ってやっていると思われている。

 しかし、わしは呪いとしか言わないので、記者の質問は玉藻に移った。


「正直、わらわも信じていなかったが、こやつがダメージを受けているのを見て、神が実在すると信じるようになったんじゃ」

「それはどういうことでしょうか?」

「言ってもわかるかどうか……シラタマ、頭を出せ」


 玉藻が悪い顔でそんなことを言うので、わしとしては出したくない。


「イヤにゃ~。わしのこと殴るつもりにゃろ~」

「そっちのほうがわかりやすかろう。ほれ? 思いっきり殴ってやるからな」

「そう言われて、『はいそうですか」ってなるわけないにゃ~~~」


 わしが逃げようとしたらさっちゃんに捕まったので逃げ切れず。しかし、そんな状態で殴ると確実にさっちゃんに被害が行くので、玉藻はわしを尻尾でグルグル巻きにしやがった。


「では、行くぞ」

「だから~……にゃっ!?」


 玉藻、マジで手加減なし。尻尾で固定されているので、拳骨の力も逃がせなかった。


「つつつ……」

「ひどいにゃ~」


 その結果、玉藻は右手を痛め、わしもけっこう痛かった。ただし、その威力は絶大で、辺りに大きな衝撃音と衝撃波が発生したから、一番近くにいた記者はイスから転げ落ちる事態となった。


「と、このように、シラタマは信じられないぐらい硬い。妾も化け物だと自負していたが、その妾を持ってしても、痛み分けになる程度じゃ。見てみよ。タンコブのひとつもできてないじゃろ?」


 玉藻は尻尾を使って、わしの頭を記者席に向ける。確かにわしの頭は綺麗なままだったのだが、それよりも衝撃が凄すぎて、記者たちは高速で頷くしかできなかった。

 記者たちが怯えまくってしまったので、こうなっては仕方がない。一時休憩にして、10分ほど開けてから質疑応答に戻るのであった。



「シラタマ王が神様に呪われているのは、どうしてでしょうか?」


 いちおう神の存在を信じるようにした記者からの質問は、わしだって知りたいぐらいだ。


「さあにゃ~? わしのことオモチャとか呼ぶことがあるから、面白いと思ってやってるのかもにゃ。いい迷惑にゃ~。次、いこうにゃ」


 あまり悪口を言うとタライが落ちて来るので、次の記者に催促。


「では、その神様に私たちも会えるのでしょうか? 平行世界に渡る許可が貰えるのでしょうか??」

「また神様にゃの~? 神様の質問はやめてくれにゃ。タライ、めっちゃ痛いんだからにゃ~」


 記者は何故か振り返り、周りを見てから「これが最後!」と引いてくれない。談合がはなはだしいわ~。


「神様に会うには……死んだら会えるんじゃにゃい? 許可は……気に入られたら出るんじゃにゃい? ま、どっちみち神様しだいにゃ。生きてるうちに会えるのにゃんて、わしぐらいだけどにゃ」


 恐る恐る説明したらタライは落ちて来なかったので、わしはホッとする。記者もわししか会えないと聞けたので、なんとか座ってくれた。


「UFOの質問に戻ります」


 次の質問はUFOの機能。どうやって動いているか知りたいそうだ。


「動力は魔力で、全て呪文が必要にゃ」

「それは平行世界では一般的な技術なのでしょうか?」

「いんにゃ。これは神様の乗り物だから、再現不可能にゃ。呪文も時の賢者が解読していなかったら動かせなかっただろうにゃ。超天才の、時の賢者様々にゃ~」


 記者はわしの答えに納得がいかない顔をしていたが、順番が終わったので次に託す。


「神様の乗り物という証拠はありますか?」

「う~ん……古文書で時の賢者が書いていた『天の羅摩船あまのかがみぶね』って一文を信じるしかないんだよにゃ~。まぁ瞬間移動だって異次元移動だってできるんにゃから、神の御業としか思えないにゃろ?」


 わしが質問で返すと記者の中の1人が突然立ち上がったけど、順番はまだ先だ。しかし、伝言ゲームのようにゴニョゴニョやっているなと見ていたら、全員「どうぞどうぞ」とその記者に譲った。


「先程『天の羅摩船』とおっしゃいましたよね?」

「うんにゃ。UFOの正式名称にゃ」

「その名は古事記の一文に出て来るのですが、もしかして神様とは、アマテラスノオオミカミのことでは? もしくは、古事記に出て来る神様の中にいるのでは??」

「ぎゃっ!?」


 わしがやっちまったと思った瞬間、タライが落ちて来てまたタンコブ。でも、タイミングがおかしすぎる。


「いまのもっと前に止められたにゃろ! バレたのはそっちのせいにゃ~~~!! ぎゃっ!?」


 空に向かって文句を言ったら、タライのおかわり。タンコブもダブルになって痛いので、わしは涙目になるのであっ……


「痛いから顔を書かないでくんにゃい?」

「あ、バレた。あはははは」


 さっちゃんがわしの雪だるまみたいなタンコブを面白がって落書きするのであったとさ。



 神様の正体が古事記から来ていると知った記者たちは、名前の当て合いに発展。しかし、少しでも禁止事項にかするとタライが落ちて来るので、わしは表情も変えずにノーコメントを貫く。

 もちろんさっちゃんと玉藻にも飛び火したが、2人にも禁止事項が適用されている可能性があるので、タライを恐れて貝になっていた。タンコブは恥ずかしいんだって。


 神様の話題はもうやりたくないので、司会に「昼食にする」と言って、わしたちは壇上を下りるのであった。



 ケータリングを山ほど食べたら、わしは食休みにさっちゃんの膝の上でお昼寝。さっちゃんも撫でれるし、わしも熟睡できるからウィンウィンだ。

 そうしてお昼休憩の1時間が終わったら、寝ているうちに壇上に運ばれて、質疑応答の再開。うつらうつらしていたら、玉藻の尻尾ビンタを喰らった。


「痛いんにゃけど~?」

「寝てるそちが悪いんじゃ。ほれ? 記者が獣を見たいと言っておるぞ」


 もう質問が始まっていたのに玉藻が殴ったせいで記憶が飛んだ。決して居眠りしていたわけではない……と、思われる。

 なので、どんな話をしていたかを聞いたら、ハンター関連の話を玉藻が応え、巨大な獣や魚がわんさかいると言ったら見たいとなったらしい。


「いま一番大きいのは……獣で40メートルにゃ。魚で……デカイのはだいたい捌いてるからにゃ~……500メートルはあったサメの頭だけでもいいかにゃ?」


 いくら東京ドームが広くても、急に出したら怖がられると思って配慮したが、数字を言っただけで記者たちにけっこう引かれた。デカイにも程があったみたいだ。

 しかし、それらは先に渡した資料にも書いてあること。記者たちはずっとゴニョゴニョ相談していたが、ヤケになったのか「出してみろ。てやんでぇ!」と、べらんめぇ口調になっていた。


「「「「「あわわわわわわ」」」」」


 なので出してみたら、全員腰砕け。40メートルの獣でもデカイのに、真っ二つに割れたサメの頭はそれよりもデカイのだから、事実云々よりも恐怖が勝るらしい。


「もう死んでるんにゃから、怖がる必要ないにゃ~。写真とか撮らないにゃら、しまうにゃよ~??」


 あまり人工芝を痛めたくないので片付けようとしたが、記者たちは復活してサメの頭の周りを走り回っていた。そして写真やビデオに収め、触ったり叩いたりして現物を確認してから席に戻ったので、出した物は片付けた。


「あんなに大きくて硬い生き物を、どうやって殺したのですか?」


 また質問が始まったので、わしは簡潔に説明する。


「獣は刀で首を斬ったにゃ。サメは確か……引っ掻きまくったよにゃ?」

「遠かったから見えなかったが、そんなことを言ってたな。そういえば、ゆっくり海に下ろそうとして失敗しておったのう」

「失敗の話はいらなくにゃい??」


 昔のことだったから記憶があやふやだったので、一緒に船に乗っていた玉藻に話を振ったら、わしの失敗を笑いながら言いふらす。だが、笑っているのは玉藻とさっちゃんだけ。

 わしが山みたいに巨大なサメを縦に真っ二つにしてヘディングでリフティングしていたことに、記者たちはついていけないみたいだ。


 それからどんな生き物を狩ったことがあるかの話に変わり、恐竜クラスの獣や虫、海にはびこる巨大な魚、この世界では絶滅した生き物を写真付きで説明すると、大盛り上がりになるのであった。



「魔法のことをお聞きします」


 質問はガラッと変わり、魔法をどうやって使っているかの質問になったが、残念ながらわしも説明できる口を持ち合わせていない。


「呪文を教えろと言われてもにゃ~。魔力がないとまず使えないからにゃ~。この世界……いや、地球にあるのかどうかわからないんにゃ」

「しかし、シラタマ王は簡単に使っていますよね? ということは、この地球にも魔力はあるのではないでしょうか??」

「確かにそうだにゃ……わしは膨大な魔力を保有しているから気付かなかったにゃ。玉藻……は似たようなもんだにゃ。さっちゃんって、簡単な魔法ぐらい使えたよにゃ? ちょっと見せてくれにゃ~」

「では、炎を出してみます」


 さっちゃんも魔法の英才教育を受けていたし、わしが少し教えてあげたことがあるので炎を出すぐらいお手の物。何もない空間から炎が出たら、記者たちは拍手していた。


「アレ? いつもより小さい……」

「てことは、元の世界とは勝手が違うんにゃ」

「妾も出してみようかのう」


 記者たちそっちのけでわしたちは魔法の検証をしていたら、けっこう受けがいい。しかし、わしたちは難しい顔。言われてみて初めて気付いたが、わしと玉藻も魔法の大きさがいつもと違っていたのだ。


「つまり、自分の魔力でやっていると思っていたのが、実は外の魔力も使っていたと言うことか」

「もっと言うと、外の魔力が空気中の成分と結合して事象に関わっているのかもにゃ」

「面白い……また新しい発見じゃのう」

「だにゃ」


 わしたちが魔法談義で盛り上がっていると、次の質問者が立ち上がる。


「サンドリーヌ王女殿下に質問します」


 そして何故かさっちゃんに質問が行った。


「シラタマ王と玉藻様は魔法に精通し、強大な力を持っていると理解しましたが、そちらの世界では、皆、おニ方と同じ位の力をお持ちなのでしょうか?」

「いえ。2人が異常なだけです。本来、ハンターや兵士で獣の驚異から国を守っているのですが、その場合の獣は、大きくても10メートル以下です。とてもじゃないですが、あんなに巨大な獣に立ち向かおうとは思いません」

「ということは、日ノ本は遠く離れているからいいとして、東の国の隣にシラタマ王がいることは驚異にならないのでしょうか?」


 記者は軍事大国の猫の国ではなく、わしを名指しで驚異と言うなんて失礼だ。なので反論してやろうと思ったが、微笑むさっちゃんに止められた。


「確かに、東の国では驚異に思う人がいるのは事実です。しかし、シラタマ王は、そんなことをしないと私は信じています。シラタマ王の母を殺した私の父を許し、私の命が狙われた時には助けてくれました。飢饉の際には村々に食べ物を配り、帝国との戦争にも参加してくれました。シラタマ王には感謝しかありません」


 さっちゃんがわしの善行を数え上げるので、むず痒い。


「そんなシラタマ王が、意味もなく攻撃することなんてありえません。だって、シラタマちゃんは、私の大好きなペットだもん!」


 だが、最後のセリフにわしはずっこけた。


「まだわしのことペットにしようとしてたにゃ!?」

「え? ……あっ! 親友ペットって言おうとしたの~」

「その親友もペットにしか聞こえないにゃ~~~」


 久し振りにカッコイイさっちゃんが見れたと思ったのに、まだペットにしようとたくらんでいたので、わしを擁護しようとしたスピーチはグダグダになるのであったとさ。

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