平行世界5日目にゃ~


 暴走車に乗っていた老人を脅しに脅したら、あとは顔を真っ青にした警察官に丸投げ。わしたちはバスの止まっている駐車場までダッシュで逃げた。

 騒ぎが大きくなりすぎたので、今日のところは街ブラ終了。運転手には「早く出せ!」とお願いして、テレビクルーを置き去りにしてやった。


 ちょっと早くホテルに帰ってしまったので、皆にはごはんができるまで好きに過ごすように言い、わしはゲーム。別にやりたいというわけでなく、皆に教えようと準備していただけなのだが、全員、興味津々で集まって来た。


「こうやって長い棒をここに……いっぱい消えたにゃろ? こうやったら相手をいっぱい邪魔できるんにゃ」

「パパこっちも~!!」

「すぐ行くにゃ~」


 一番わかりやすいかとパズルゲームをやらせてみたけど、みんなやりたいとうるさいから、テレビとゲーム機、ポータブルゲーム機も追加。だが、猫の手も借りたい。猫兄弟は、よくその手でできるな……


「コンシェルジュさ~ん。カモンにゃ~!!」

「「「喜んで!!」」」


 なので、コンシェルジュの召喚。どうせドアの外で聞き耳立ててると思って呼んだら3人も入って来やがった。まぁ猫の手だけではまったく足りないので、多いに越したことはない。

 コンシェルジュに皆を押し付けて、わしは優雅にコーヒーブレイクするのであった。


 夕食が運ばれて来たら皆をゲームから引き離し、ブーイングを受けながらの食事。全然やめないのでゲームは片付けたから恨まれたのだ。

 しかし、明日も忙しい身。子供たちをお風呂に押し込みガシガシ洗ったら、絵本の代わりにアニメ。少しテンションは上がってしまったが、子供たちは難しい勉強で疲れていたからすぐに眠りに落ちた。


「みんにゃも寝ようにゃ~」

「「「「「はっ!?」」」」」


 大人たちは各々好きな物で時間を潰していたので、「没収するぞ」と脅して眠らせるのであったとさ。



 平行世界5日目は、靖国神社で勉強を頑張った子供たちのための時間。


「「「うわ~~~」」」

「「にゃ~~~」」


 本日の撮影と接待をしてくれるテレビ局にお願いしていた、某・立って歩くネズミがいる夢の国にやって来た。


「シラタマちゃん、なにここ? 王都みた~~~い!!」


 なのに、さっちゃんが一番うるさい。


「キャットランドに似てなくない? いや、あんなショボイのと一緒にしたら、ここに悪いわね」

「キャットランドは子供たちが頑張って作ったんにゃから、それは酷くにゃい?」

「わっ! アヒルと犬が歩いて来た! モフモフ~~~!!」


 さっちゃんはわしの苦情を聞かずに、マスコットの集団に突撃。それが引き金になって、全員走って行ったのでわしも追いかける。


「「「「「なんか思ってたのと違う……」」」」」


 しかし、マスコットに抱きついた皆は、モフモフ成分が足りなくてすぐに離れていた。


「シラタマちゃん……これって中身は、にん……」

「にゃ~~~!! 中身とか言うにゃ!? 子供たちの夢なんにゃ~~~!!」


 さらにさっちゃんが夢の国の闇を暴こうとするので、その先は言わせねぇよ! ネズミを敵に回しては生きて行けないからな。


「ほら? メインは遊具にゃ~。楽しい乗り物がいっぱいあるんにゃよ~?? あっちから回ってみようにゃ~」

「「「「「うんにゃ~」」」」」


 マスコットの集団には悪いけど、遊園地と言えばマスコットより乗り物。こっちで皆の気を引いて、移動を開始するのであった。



 わしたちが歩くとマスコットの集団も同時に動き、囲まれているのですんごい邪魔。てか、マスコットのほうがわしたちを見ているような気がする。喋り掛けても変なポーズするだけだし……

 民衆もマスコットを撮っているのかと思っていたけど、レンズはわしに向いていることが多い。マスコットが邪魔って言われてるし……肩を組めとも言われてるし……


 とりあえず皆が喜びそうな未来っぽい方向に歩いて長蛇の列の最後尾につけてみたら、「どうぞどうぞ」の嵐。なんかお客さんが両側に道を開けてくれた。

 さすがに悪いと思ったが、お客さんはわしたちを近くで見たかったっぽい。道を通る時にわしの頭を撫でるしハイタッチを求められるし……リータたちも握手求められるし、ノルンをつつこうとするし……


 そんな珍獣扱いは子供たちがかわいそうなので、わしが身を売って守る。玉藻さんも尻尾ぐらい撫でさせてください。コリスもちょっとだけ頑張って! あとでポップコーン買ってやるからな?


 道を開けてくれたお客さんのおかげか、わしたちの頑張りのおかげかわからないけど、2時間待ちのアトラクションでも物の数分で入場。

 しかし、子供たちとノルンと猫兄弟が身長制限で引っ掛かってしまった。


「わしもダメにゃの!?」

「規則ですので……猫と妖精は想定外ですし……」


 わしの身長が低いので、係のお姉さんは勘違い。ちゃんと計ったらギリ足りていたのでドヤ顔してやった。でも、わしは乗れなくてもかまわないのだが、子供たちが乗れないのはかわいそうだ。


「これでどうかにゃ? いくらでも身動きできないようにするにゃ~。お願いにゃ~」

「「「「「おねがいにゃ~」」」」」


 土魔法でチャイルドシートとキャットシートを作って座る姿を見せて、わしを含めたちびっ子のウルウル攻撃。要はジェットコースターから落ちなければいいのだから、これでなんとかしてほしい。


「うっ……今回は特例措置ですので、口外はしないでくださいね?」

「「「「「ありがとにゃ~~~」」」」」

「あと、撫でさせてください」

「わしだけだからにゃ~?」


 係のお姉さん、陥落。でも、次の便が来るまで、わしは死ぬほどモフられた。

 リータたちには乗り込む順番をジャンケンで決めさせ、ジェットコースターが来たらさっちゃんから先頭に……大人気おとなげないヤツじゃ。

 子供たちも席に座ったら、わしの土魔法で拘束。普通のシートベルトより頑丈だから絶対に落ちることはないだろう。


 コリスはデカイから人型で着席。念の為、コリスも拘束しておく。壊さないでね? 兄弟たちも動けないように、専用のイスに乗せてきっちり拘束してやった。

 一番の厄介物のノルンは、専用のイスを一番前の席に土魔法でくっつけて拘束。フラフラ飛んで行かれては、施設に迷惑が掛かるからな。


 準備完了したら、係のお姉さんの元気のいい掛け声と共に、ジェットコースターは動き出したのであった……



「なんでシラタマちゃんが一番叫んでるのよ~。あははは」

「「「「「あはははは」」」」」


 暗闇を爆走するジェットコースターから生還したわしは、さっちゃんたちに笑われている。


「人の操縦してる物は苦手なんにゃ~。そんにゃに笑うにゃら、ポップコーン買ってやらないにゃ~。コリス、行こうにゃ~」

「うん!」

「「「「「まってにゃ~」」」」」


 唯一笑っていなかったコリスの……「ポップコーンを早く食わせろ」と目で語っていたコリスの手を引いて歩き出すと、皆は焦って続く。そんなにポップコーンが食べたいのか?

 そうして歩いていると、うなだれたマスコットの集団を発見。マスコットの座をわしたちに奪われて自信喪失してるのかも? 近付いて来て仲良しアピールしてるし……


 マスコットにポップコーンの屋台まで案内させたら爆買い。あるだけ買って、いま食べない分は次元倉庫に入れる。あとで取り出しても出来立てホヤホヤだから、今日はポップコーンに困ることはないだろう。

 皆にひと箱ずつ渡すと、ポリポリしながら次のアトラクションへ。ジェットコースターの感想を言い合う皆を見つつ、わしはベティとエミリの話を盗み聞く。


「すっごいジャンクね。チョコやらキャラメルやら、よくまとおうと考えたわ~」

「塩が決め手かな? 甘じょっぱいからいくらでもいけちゃう」

「これは流行らせたらダメなヤツよ。エミリも忘れなさい」

「え? こんなに美味しいのに!?」

「いい加減にしないと太るわよ」

「手が止まらないよ~~~」


 どうやら夢の国にあるポップコーンは悪魔の食べ物。甘味と塩分の波に飲み込まれてエミリは食べる手が止まらなくなっている。ベティに注意されても、エミリは猫の国に帰ってから研究すると心に誓っていた。



 それからもポップコーンをポリポリしながらアトラクションはお客さんに譲ってもらってストレスなく楽しんでいたら、マスコットが離れて行った。

 わしは邪魔なヤツがいなくなってシメシメとか考えていたが、前方からマスコットの集団が現れた。おそらく所定のエリアがあるのだろう。さっきまでのマスコットと違って元気いっぱいだし……


 またマスコットに囲まれながら様々なアトラクションを楽しんでいたら、もうお昼。また元気のなくなったマスコットにお食事処に案内してもらい、全ての飲食物を大量購入。

 お店の人やマスコットが運んで来る物をバクバク食べていたら、最初は嬉しそうに写真を撮っていたお客さんも青ざめて来た。食べすぎみたいだ。

 まぁ周りが静かになるのでこれは有り難い。でも、どれだけ入るか試そうと、自分で買って来た物を与えなくていいよ?


 ここにいても食べ物ばかり集まりそうなので、お腹が膨らんだらさっさとアトラクション観光に戻るのであった。



 ジェットコースターやお化け屋敷、水を浴びたりボートに乗ったり遊びまくっていたら、またマスコットがチェンジして元気いっぱい。別れ際には元気ゼロ。

 思ったより早く一周してしまったので、海のエリアにも行ってみた。


「へ~。こんなのできてたんだ。シラタマ君も来たことあるの?」

「わしはさっきのだけにゃ。テレビで見たから知ってたけどにゃ」

「ジジイじゃ来るわけないか」

「いま来てるにゃろ~」

「猫じゃん。てか、あっち側のほうが似合ってなくない? どこへ行っても人気だし……雇ってもらえるように言って来てあげる!」

「どこで働かせようとしてるんにゃ~」


 ベティがわしを売り飛ばそうとするので、スタッフはノリノリ。上の人にすぐに連絡を取って、年俸まで提示された。プロ野球選手並みの高い年俸に少し心が揺らいだが、ベティの「あんたもっと稼いでいるでしょ」って発言で耐えた。

 てか、ベティの冗談だったみたいだ。「決して王家の甘い汁をすするためじゃない」とか言っていたから、本当にわしをからかうだけだったのだろう。けど、国外追放は考え出したからな?



 ベティを脅してからまたアトラクションで遊び尽くしたら、そろそろ閉園の時間。海側は全てを回り切れそうにないので、ラストは多数決で決めさせたら、なんかエレベーターみたいな室内に連れ込まれた。


「これってエレベーターって言ってたよね? 上に何があるのかな~??」


 隣に座るさっちゃんがワクワクしながらそんなことを言うので、わしはネタバレしない程度に教えてあげる。


「いや、この部屋自体がアトラクションじゃにゃい? 拘束されてるしにゃ」

「そうなんだ~。じゃあアレね。グルグル~っての」

「コースター系ではにゃいと思うけどにゃ~」


 わしも初めて乗ったので、やっぱり教えられない。しかし、見た感じはジェットコースターではないのでたいしたことはないと、この時のわしは思っていた。


「「「「「ぎゃああぁぁ~~~!!」」」」」

「「「「に゛ゃああぁぁ~~~!!」」」」


 この日、最大の恐怖体験。わしたちは叫び声をあげながら、最後のアトラクションを終えるのであった。



 外が暗くなり「エレベーター怖い、エレベーター怖い」とブツブツ言うわしたちを、マスコットが手を引いて連れて来てくれた場所は、最後のもよおし。


「「「「「うわ~……きれ~~~い」」」」」

「「「「うにゃ~~~……」」」」


 電気のパレードだ。それも特等席に案内してくれたので、ゆっくりと楽しめるのだ。


 闇の中をきらめく乗り物をうっとりしながら皆は眺め、その上に乗る人に手を振って応えている。そんななか、パレードに釘付けになっていたさっちゃんがわしを抱き上げた。


「イ、イヤにゃ……」

「私の誕生祭に用意して~~~!!」

「先にイヤって言ったにゃ~~~」


 さっちゃんの言いたいことなどわかりきっていたのでフライングで断ったのに、聞きゃしない。今日イチで体を揺さぶられるわしであったとさ。

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