第37話 やっと、君に
ミリーフでの依頼を全てこなしてから、女性を追いかけている。次はダンジョンに行くというんだから、本当に行動力が違う。
異なる世界から来た人たちの好奇心は強いって聞いたことがあったけど、本当にそうだったんだな。
聞き込みをしたらミリーフの町でも『くりーにんぐ』をしていたらしい。俺がこの町に来た時からいる婆さんが座布団を綺麗にしてもらったようで、ご満悦のようだった。
「おお、久しぶりじゃのう、坊や」
たった数回しか顔を合わせたことしかないのになんっつー記憶力だろうか。スキルのことを調べた時にこの専門書店に行ったことがある。数回じゃないな、2回しか足を運んでない。確か会話はしたけど、社交辞令みたいなもんだろう。
しかも、なんか前の時よりも元気になってフットワークが軽くなってる。
ある工房に行くと、職人たちが傘を作ってやがった。なんで傘かはわかんなかったし、興味がなかったんでそのまま通り抜けた。
他にもこうしてミリーフの町の状況を見たけど、彼女は衣類を売るということはしていなかったようだ。そりゃそうだよな、ハッバーナの町を追い出されたんだから、同じことをするはずなんてないぜ。
あ、でも彼女、人が良さそうだから、誰かに無料で衣服を与えるなんてことはしてそうだよな。
ダンジョンには5日程度かかったけど、やっと辿り着くことができた。
いくつかの屋台や店であの女性の店のことを訊ねた。「ああ、チカさんのお店ですか」と、宿屋前に立っていた元気な女性に教えてもらった。少し離れた場所にあるようだ。
「あった、この建物だ!」
俺が数か月前に見た時を同じ外観の建物がある。ただ、あの日と同じような灯りはついていない。
「留守なのかな? っておい!」
足下には赤い色のスライムがいた。
すぐに剣を抜いたが、不思議なことにこちらに襲い掛かってくるそぶりは全く見せない。
人に飼育されているのか? スライム洗浄ってのもあるから、『くりーにんぐ』と関係してるのかもな。
「誰だ!」
声の方に目を向けると、何人かの冒険者が立っていた。みな酷い格好だ。おそらくダンジョン帰りなんだろう。
「その子は魔物ですけど害はありませんよ。テイムされています」
俺よりもちょっと下の男がそう言ったので、すぐに剣を収めた。先走らずに良かった。
「俺はヒューバード・オーディリオンだ。ここはカミジョウ・チカという女性の店で合ってるんだよな?」
「そうだよ。おお、君が噂のヒューバードくんか。チカちゃんから話は聞いてるよ。マントを『くりーにんぐ』してもらったんだって?」
妙に馴れ馴れしい女性が答えてくれた。俺のマントのことも知っているようだ。
この人たちはあの女性と行動をともにしていた冒険者たちだ。カシム、ハンナ、ルーベル、それにミリムとキース、間違いない、トマスさんに聞いていたとおりだ。
良かった、やっぱりここだったか。やっとここまでたどり着けた。
「でも、灯りがついてないけど、彼女は今ここにいないのか?」
「基本的には夜はこの中にいるはずなんだけど。私たちも2週間くらい潜ってたからさ、今戻って来たところでどうなってるか知らないんだ」
なんだいないのか。じゃあ、どこに行ったんだろう。
っていうか、一人きりにしていたのか。何考えてんだ。ああ、でも彼女のスキルのことは知らないのか。いや、そんなの関係ない。非戦闘スキルしかないんなら、誰かがついてやらないといけないはずだ。
すると、足下のスライムがぷにぷにと俺の足に乗っかってきた。それを持ち上げると、矢印の形になった。
「お前もしかして、行き先がわかるのか? そっちの方角にいるってことか?」
ぷにぷにっと反応をした。そういえば、スライムには匂いに敏感って話だったな。
「よし、お前を信じるぜ。じゃあ今から探しに行くぞ」
「あ、ちょっと待って。私たちも行くよ」
さあ行こうと思ったら、さっきの宿屋の女性と青年がやってきた。
「あれ、みなさん。チカさんを知りませんか?」
「先ほどはどうも。この建物にはいない」
呼吸が乱れているから走ってここまでやってきたようだ。
「ああ、だったらまずいかも」
「まずい?」
「うん、このあたりで潰し屋が出て、チカさんがその一味についていったって目撃情報があってね。心配になって見に来たんだよ」
「何だって!?」
こうして赤いスライムに案内されて大勢で向かったが、何か嫌な感じがする。どんどん人の気配はなくなっていく。夜にこんな場所に行くとは思えない。
同じことを隣の男も言っていた。
「これはちょっと異常だ。もっと早く走るぞ」
「ああ」
そして向かった先に、女性が何人かの人間に追われているのが見えた。かなり追い詰められている。こちらには気づいていないか。
「一足先に行くぞ」
靴に付与されている魔法付与を限界まで使い切って走り抜ける。
届け、届け、あの人のもとへ一刻早く身体よ動け。
気配を察知したやつがこっちに気づきやがった。そんなの糞食らえだ!
「そこをどけ!」
集団を突き抜けて吹き飛ばし、彼女の姿をとらえた。
よし、あそこだな、何か知らないけど浮いている。そういう効果のものを身につけているんだろう。
「どっりゃー」
そのままの勢いで彼女に向かって駆けていった。
「捕まえた!」
やっとこの手に、掴み取った。もう離さないぞ。
「ヒューバードさん?」
久しぶりに見た彼女の顔は出会った時から変わっていないようで安心した。
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