自分にできること

Fの並んだポーション鑑定書を見せ、泣きながら帰ろうとするリミヤ。


俺が呼び止めると、彼女は不思議そうな顔をした。


「でも、あの鑑定書……」



「うん。たしかにちょっとびっくりはしました。


でも、まだ肝心のポーションを見せてもらってない。


俺の専門は『毒』なんだけど、自分でもポーションを作るから多少の成分分析はできるんです。


つくったポーション、見せてもらえませんか」


「!!」


リミヤはぴょんと飛び上がったかと思うと、慌ててカウンターに駆け寄り持参したポーションを並べ始めた。


鑑定書に記された数と同じく8本。


一種類一本ずつ持ってきてくれたようだ。


「こ、これで全部です……よろしくお願いします!!!」



う、うん。ものすごい気合だ。


じゃあちょっと見させてもらおうかな。


「これは、魔力補給ポーション?」


「はい」



俺はまず、王道の魔力補給ポーションを手に取った。


本来ならば澄んだ緑色を、そして純度が高ければ高いほど透明に近づくポーションのはずだが、手に取った薬瓶の中には、どす黒い緑が渦巻いている。


失礼な表現になるかもしれないけれど、錬金術師によるポーションというよりは沼の泥水を汲んできて詰めましたという方がしっくりくる。



「じゃあ、拝見します」


「はい……!」


緊張した面持ちの少女の視線を感じつつ、俺はスキルを発動した。



――「分析」


『なるほど、これはひどい……』


まるで糸がぐじゃぐじゃに絡まっているかのように、幾つもの余分な成分が薬効成分に巻き付いている。


『これがFランクポーションか……』



俺はポーションをカウンターの上に置くと、唇に手を当てて黙考した。


そして考えがまとまって顔を上げると、リミヤは泥水ポーションに負けないくらい、不安一杯の青ざめた表情をしていた。


「あの、リミヤさん。このあとって、何か予定あったりします?」


「えっと……」


「もし予定などがなければ、もう少し、面接の時間をいただきたいのですが」


「ぜ、ぜひ! 何も予定、ありません! お願いします!!」 


「良かったです。じゃあ、まずですね……」



俺は後ろの鞄から巾着を取り出す。


それから迷った挙句、金貨を2枚取り出した。


それをリミヤに差し出す。


「え、っと……?」


「ここにあるポーションなんですが、とりあえず全て買い取らせていただきたい」


「!!!」


「あっ、でも、勘違いなさらないでください。これはこの場限りの買い取りです。

今後の契約を結ぶという話ではありません」



一瞬、期待に持ち上がった少女の肩が、へなへなと沈む。


ちょっと可哀想だったけれど、はっきり言っておかないと後々ややこしくなるかもしれないからな。



「あの……どうして買い取りを?」


「リミヤさんのポーションをうちで商品として扱えるか判別するため、ちょっと試したいことがあるんです。


そのためにこの8本を即金で買い取らせて欲しい。


お試しということで少額の謝礼で申し訳ないですが、金貨2枚ということでどうでしょう?」



すると少女の顔がぱっと明るくなった。


「こっ、このままいただけるんですか!!?」


彼女の分かりやすい態度につられて、俺も思わず頬を緩めた。


「ええ。売って頂けるのであれば、ここでお支払いいたしますよ」


「ほ、ほほほほんとにほんとにいいんですか? 全部、Fランクなんですよ……?」


「ええ、大丈夫です。契約を結ぶことになればその後の価格はまた相談させて頂きたいですが、今回はこの価格で買い取りさせてください」


「あ、ありがとうございます!! こちらこそお願いします」



商談成立。


俺が金貨2枚を渡すと、少女はきらきらさせた目で金貨に見入った。


わかる、わかるよその気持ち。いきなり金貨2枚なんてもらったら、そういう感じになっちゃうよね。


貧乏ポーション製造者だった自分と重ね合わせて、しみじみ思った。



できることなら、今後も彼女の力になってあげたい。


だったら、俺が今すべきことは。



彼女から買い取ったポーション。俺は早速、自分の思いついたことを実行することにした。

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