⑥ 環
短いホーム。誰もいない。一つのベンチ、駅名の表示がない。両端は登りの階段。
黄ばんだ蛍光灯の灯りがチラつく。
力なくベンチに座り込む。
「夢だっ、夢だっ、夢だっ、夢だっ、夢だっ、夢だっ、夢だっ、夢だっ、夢だっ、…」
うつむき顔を覆って自分に言い聞かせる。
両足の貧乏ゆすりで体が揺れる。
顔を叩く。衝撃が走る。あまり痛くない気がする。分からない。
ホーム倒れ込んでみる。思ったほど痛くない気がする。地面が体を冷やす。
目は覚めない。怖い。どうすれば。
壁に頭を打ち付ける。衝撃が走る。少し痛いような気がする。分からない。
「夢だよな、夢だよな」
瞼をギューっとつむる。何も変わらない。
線路に飛び込んでみる。
体に走る衝撃に動けなくなる。
レールに体の熱が奪われる。
「何だこれ、何なんだよ」
線路の先には薄ぼんやりと暗闇が口を開けている。
冷たい風が吹き込んで来る。
薄ぼんやりと暗闇が口を開けている。
何も起こらない。
立ち上がる。
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああ」
力の限り叫ぶ。
こだまする声は、空虚なホームから階段の先、
線路の先まで響き渡ったように思えた。
何も起きない。
瞼をギュウウウっとつむる。
何も変わらない。
黄ばんだ蛍光灯の灯りがチラつく。
ホームのベンチに膝を抱えてうずくまる。
「夢じゃないのかよぉ、なんで覚めないんだよぉ」
覚めない夢、もうずっとここから出られないのか。
情けなくシクシクと泣いた。涙が出ているかは分からない。
しばらくそうしていた。
顔を上げる。まだ線路の先に行っていない。
ホームの際に近づき線路の先を見つめる。
薄ぼんやりと暗闇が口を開けている。
意を決して線路に降りようとした時、カバンの携帯が鳴る。
プルルッ、プルルッ、、、プルルッ、プルルッ
携帯の存在など忘れていた、この空間に電波は届くのか。
プルルッ、プルルッ、、、プルルッ、プルルッ
携帯をカバンから取り出す。非通知。
プルルッ、プルルッ、、、プルルッ、プルルッ
恐る恐る電話に出る。
「…はい」
何も聞こえない。
画面をみる。非通知、通話中。
「もしもし…もしもし、聞こえますか!?」
何も聞こえない。
「おいっ!誰だよ!?、なんなんだよ!?」
何も聞こえない。
「ふざけんなよっ、なんなんだよっ!!!」
携帯をホームに叩きつけると、あっけなく壊れた。
地面で壊れた携帯から顔を上げる。
電車が止まっている。
満員電車、乗客はみな深くうつむき顔が見えない。ドアは開かない。
不思議な沈黙が続く。
「くそっ、ふざけんなっ、なんだよっ!!意味わかんねえよ!!」
怒りをぶちまける。
目は覚めない。
ドアは開かないまま電車が動き出す。
ホームは3両分程度だが車輌は長い。
満員の車輌がひたすら続く。だんだん加速する車輌が永延と続いていく、ずっとずっと。
ホームに立っていた。
周りを見回す。
駅名が書いてある。普通の駅だ。
会社の最寄りの駅だ。
電光掲示板と時計を確認する。
会社を出てから40分程経っている。
(ここにずっと立って寝てたのか?)
理解が追いつかない。
冷静になる前に夢の恐怖が押し寄せてくる。
ここにはいられない。
ホームを走り抜け、息も絶え絶えに階段を駆け上がる。
なんとか改札を出ると、駅前でタクシーを拾った。
いくらかかろうがどうでもいい。電車に乗りたくない。
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