第36話

「ふぅー」

 

 四天王を無事に倒した僕は深々と息を吐く。

 

「これでオッケーだね」


「はい。そうですね……あまり心配はしていませんでしたが、問題なく四天王を倒すことが出来て良かったです」


「うん。そうだね……ここで僕でもリーナ嬢でも死ぬことは許されないからね」


「ふふふ……私を心配してくれるのですか?これはもう相思相愛と言っても良いかもしれませんね」


「……それでも良いから、死ぬなよ。リーナ……」

 

 リーナ嬢が死ぬ。

 今の僕はそれを容認出来そうになかった。


「ッ!え、あっ……はい」

 

 僕の言葉にリーナ嬢の頬を赤く染め、視線をそらされる。

 ついでに僕も恥ずかしくなり、リーナ嬢から視線をそらす。

 

 そんな僕の視界に。

 

 白い糸が。

 

 遥か天空で、蜘蛛の巣のように張り巡らされ、僕の方へと伸びている……。


「これは……ぁぐッ!?」

 

 視界があんて……赫転する。

 燃え盛るように僕の視界は赤く染まり、視界が歪んでいく。


「ん?どうしたんですか?」


「む?なんでもないとも。汝が気にする必要はない」


 僕の口が勝手に動く。


「ん、あ……はい。そうですか」

 

 リーナ嬢は僕の言葉に頷き、背を向ける。


「これで総司令部は壊滅しました。とりあえず私たちはスーシアと合流し、これからどうするか話し合いましょうか」


 体が、動かない……口が、動かない……視界が赫い、白い糸が僕を埋め尽くす。


「えっ……?」

 

 

 見知った感覚が、僕の腕に残る。



「ごふっ」

 

 僕の腕が震え、力が入り……ゆっくりとリーナ嬢の体が倒れていく。


「……は?」


 視界が元に戻る。

 そして、僕の視界に入るのは夥しい量の白い糸と……真っ赤になった倒れるリーナ嬢であった。


「リーナ嬢ッ!?」

 

 僕は血に染まった己の刀を投げ捨て倒れた彼女の頭を持ち上げる。


「……ぁ、あ……」

 

 心臓を貫かれ、赤く染まったリーナ嬢の口が動く。


「あいし……て、いま……す」

 

 僕に貫かれた……リーナ嬢は死へのカウントダウンが迫っている。

 それでもなお、出てくる言葉は僕への愛の言葉であった。


「あ、あ、あ……」

 

 体が、震える。

 思考が、止まる。


「……あぁァァァァアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」

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