第十九話 血生臭い戦場
ずらりと並んだ魔物の大軍に切り込む。初撃として放つのは、魔剣グラナディアに込められたドラゴニックバーンストームだ。元々が広範囲攻撃なので、味方の混じっていない敵勢力に対して使うのには都合がいいし、詠唱なしで数回使用出来るのも便利である。
「吹き飛べぇ~っ!」
ドラゴニックバーンストームで魔王軍の一角を
超級ならともかく、覇級ともなると相手が出来るのはAランクの冒険者くらいか。この戦場に何人のAランク冒険者が来ているかはわからないが、そういった連中を出来るだけ消耗させないように先に進ませるのも、集団戦における重要な役割分担だ。俺の場合は混戦になればなるほど神代魔法と言う本領は発揮出来なくなるし、剣術の錬度はAランク冒険者には遠く及ばない。よって俺の役割は露払いの方。高ランク冒険者を見極め、その先導をすることだ。
「スフレ! 周囲の連中の回復頼む!」
「わかった! ディルは? 大丈夫?」
「俺の方は問題ない! ラキュルとノルはどうだ?」
「こちらは大丈夫です!」
「同じく!」
ラキュルの投擲もなかなか様になってきたし、下手に近づくよりも安全に戦えるだろう。ノルは素早く位置取りを変えつつ、四方八方に矢を
どのくらい戦闘を続けていただろうか。ある程度道が開けたので、この場を後方の連中に任せて先に進もうとしていると、突如両サイドに残っていた魔物の大群が爆ぜた。一体何事だろうと様子を窺っていると、左右から一人ずつ、高ランク冒険者と思われる人物が現れる。
「何だ。中央にやたら生きのいい奴がいると思ってたら、お前か。
現れたのは男女がそれぞれ一人ずつ。その男性の方は俺のこと知っているようだ。
「お前がこんなところにいるってことは、勇者パーティー瓦解の噂は本当らしいな」
額に十字の傷がある男。歳の頃は二十代前半と言ったところか。鍛え上げられた筋肉は、装備の上からでも充分に見て取れる。手にしているのはいかにも格が高そうな槍。顔見知りではないが、その人物が誰なのか、俺には心当たりがあった。
「
七天と言うのは、この世界に七人しかいない冒険者の最高ランク――Sランクにまで上り詰めた者達の総称である。七天の後に続く数字は七天の中での序列。つまり七天の三と言うことは、七天の中で三番目に強いと言うことだ。
「ほう? 俺のこと知ってるのか。そりゃ嬉しい限りだぜ。ちなみに本名はライゼンバッツ=クラフォードだ。よろしくな」
「暢気に自己紹介なんてしている場合? ここは戦場のど真ん中よ?」
ライゼンとともに現れたもう一人。こちらは女性である。腰にまで届きそうな黒髪のポニーテール。手にしているのは赤い
「今の一撃で粗方吹っ飛んだから問題ねぇ~だろ」
「そうやってすぐ油断するの、あんたの悪い癖よ」
七天のうちの二人がここにいると言うのは意外だった。七天は基本的にどの国にも属していない。カイマール王国の影響力が強いこの土地には、てっきり七天はいないものと思っていたのだが、どうやらそんなことはなかったらしい。
「何で七天のあんた達がここに?」
「何でって、お前。勇者パーティーが瓦解したなんて噂を聞いたもんだから、悠々自適に暮らしてた俺達がこうして前線まで
「大半は一番侵攻が激しい東の大陸に向かったみたいだけどね。って、よく見たらスフレッタ=アノンにノルテ=ラースまでこっちにいるじゃない。勇者様とやらは一体何をやらかした訳?」
細かい事情まではわからないようだが、わざわざ説明している暇もないのが現状。それでも、七天が二人もいると言うのなら、とりあえずこの戦場はどうにかなりそうだ。
「あんた達が出張って来た理由はわかった。勇者パーティーの
俺がそう言うと、七天の二人は顔を見合わせてからコクリと頷いた。
「そうだな。あんまり戦闘を長引かせて、無駄に仲間の命を散らしてもいけねえ」
「あなた本分は魔法使いよね? 私達が先行するから、魔法での支援をお願い出来る?」
「それは構わないけど、相手の数が数だ。使うなら神代魔法とかになるけど……」
「俺は構わないぜ? 味方の魔法に当るほどバカじゃない」
「それに関しては同感ね。あなただって、魔法のコントロールには自身あるでしょ?」
「それは、まぁ……」
「だったら全力でぶち込んでやれ。俺等は俺等で何とかするからよ」
「私達の進路の直上とかでなければ対処は出来るから、思い切りやっちゃっていいわよ?」
七天の二人がそう言うのであれば、信じてもいいのだろうか。もちろんサンライズレインフォースのように比較的味方に損害を与えない魔法もあるが、それだけでは撃ち漏らす敵もいよう。残った魔王軍の規模を考えれば、出来ればエインシェントメテオフォールなどの殺傷力の高い魔法を使いたいところなのだが。
「何だよ、その顔は。七天舐めてんのか?」
「いや、そんなことはないけど……」
「大丈夫。私達は魔法に対する対策も万全だから」
「……そう言うことなら」
俺は渋々頷いて、二人を送り出す。七天ならば覇級の魔物が相手でも問題はないだろうが、俺の魔法で死んでしまったら元も子もない。魔法を撃つ場所と種類はよく吟味するべきだろう。
「ディル! この先どうする!」
ノルからの催促だ。俺はいくつかの状況を想定して、それぞれの対策を考案。ある程度方針が固まったところで、パーティーメンバーに伝える。
「この辺りの敵はさっきの二人が粗方倒してくれたから、後は後方の連中に任せよう! 俺達はこのまま進軍する!」
それぞれの了承の声を聞いてから、俺達はまとまって先に進んだ。先頭は索敵に
神代魔法のおかげか、それとも先行した七天の二人のおかげか。大した魔物と遭遇することなく、俺達は魔王軍の拠点と
「あの二人は!?」
俺はすぐに周囲を見渡した。どこまでも続く魔物の死骸。そして、その中に
「いや~。最後の一発はちょっとやばかったな」
「流石は
軽口を叩きながら、魔物の死骸を押し退けて立ち上がるライゼンとアザレイ。だいぶ魔物の返り血を浴びているが、本人達は無傷のようだ。多少服の各所が
「ここの指揮官は!?」
俺がそう尋ねると、二人は親指を立ててニッと笑った。ライゼンの手には、その指揮官のものと思われる首がある。どうやら、この戦場での戦いは勝利という形で終わったようだ。
「後は残党の処理だが、その辺は他の奴等に任せちまって問題ないだろう」
「手柄の独り占めはよくないしね?」
ライゼン曰く、ここにいた魔王軍の指揮官は覇級相当の魔物だったらしい。俺が連発した神代魔法で混乱していた拠点に殴り込み、指揮官を倒してしまうのはそう難しいことではなかったのだとか。尤も、最後の最後で拠点自体を俺が爆破してしまったため、大量の魔物の死骸の下敷きになってしまったようだが。
「とりあえず帰ろうぜ。魔物の血は臭くて敵わねえ」
「そうね。早くお風呂に入りたいわ」
どこまでも軽口を叩く二人だが、覇級の魔物を軽々と倒してしまうのだから、やはり実力は確か。個々の実力では勇者様に匹敵すると言われる七天である。女神アルヴェリュートの加護もなしにそれをやってのけるのだから、大した人物達だ。
とりあえず、この日勝どきが上がったのは俺達が町に帰還してしばらくしてからだった。目に止まる魔物は、最後まで見回りをしていた冒険者達によって、全て殲滅完了。一時的にカイマール王国軍に参加している多くの冒険者はカイマール王国軍から報酬を受け取り、それ以外の冒険者はギルド経由での報酬が振り分けられた。もちろん一番取り分が多かったのは、討伐数も討伐した魔物のランクも最も高かった七天の二人。俺達パーティーが次点に当たり、またしてもそれなりの額の
当然だが人類側の被害もそれなりに出ていて、宿屋にいくつか空き部屋が出来たとのこと。複雑な思いで二部屋追加し、全員がベッドで眠れる状態を確保。俺自身も思っていたよりも疲れていたようで、この日は翌日の昼頃までぐっすりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます