世界最強の魔法使い、強過ぎて勇者パーティーを追放されたが実は物理の方が強い

C-take

最強魔法使いと勇者の真実

プロローグ

プロローグ

 この世界――アグヌスベルカは、現在魔王軍の侵攻に晒されている。魔王が繋いだ魔界とのゲートを通り、送り込まれてくる無数の魔物達。人の力では到底及ばない戦力差に、人類は滅亡の境地に立たされていた。


 世界の管理者たる女神――アルヴェリュートはそんな魔王軍の侵攻に対抗するため、異世界より勇者を召喚する。アグヌスベルカとは異なることわりで成り立つ世界の住人ならば、魔王軍の侵攻を阻止できると考えたのだ。異世界より来た勇者は、女神アルヴェリュートの神託を受けた仲間達とともに、見事魔王の討伐に成功。世界に平和をもたらしたのである。


 魔王討伐から二百年。魔王を討伐した勇者の存在がすっかり伝承上のものとなった頃、それは再び現れた。魔王の再来。それはすっかり平和ボケしていた人類にとって、この上ない脅威である。各国ともすぐさま兵を派遣して、迫り来る魔王軍に抵抗したが、やはり一般人でしかない彼らには魔王軍を退けるだけの力はなった。


 そこで切望されたのが、伝承にある女神アルヴェリュートによる勇者召喚だ。人々は祈った。この災厄から自分達を救ってくれる勇者の出現を。その祈りが叶ったのか、ある時、不思議な衣服を身にまとった一人の青年が現れる。女神より使わされたと言うその青年の力は凄まじく、無数の魔物を瞬く間に屠って見せた。新たな勇者として祭り上げられた青年は、女神の神託を受けたはずの仲間を探して旅に出る。長い旅の末、青年は四人の仲間と出会った。


 その仲間と言うのが、回復魔法に長けたヒーラーのスフレッタ=アノン。大盾使いでタンクのガイゼル=バルボード。目耳が利くスカウトのノルテ=ラース。そして攻撃魔法特化のウィザードの俺――ディレイド=エルディロット。


 俺達は勇者――マサヤ=キサラギとともに旅を続け、数々の魔物を仕留めて来た。このまま行けば魔王軍の幹部クラスとの戦闘も近いだろうと思われた矢先のこと。夜更よふけに勇者様に呼び出された俺は、何事かと彼のテントを訪ねる。


「どうかしましたか? 勇者様」


 特に何かを言われるようなことは思いつかない。しかし、わざわざこうして呼び出すのだから、きっと重要なことなのだろう。


「単刀直入に言おう。ディル。お前はクビだ」

「え?」


 一瞬何を言われたのかわからなかった。言葉の意味が徐々に頭の隅々まで浸透して行き、ようやく言われた内容を理解する。


「どうしてですか!? 今日だって魔法でたくさんの魔物を倒して、パーティーに貢献したはずです!」


 これでも多少は魔法の腕には自信があった。何人もの高名な魔法使いを輩出している里の生まれである。幼少の頃、女神アルヴェリュート様の神託を受け、その加護を授かってからと言うもの、里でも右に出る者はいないと言われるほどの魔法使いに成長した。どういう訳か同じく女神様の神託を受けたと言う幼馴染がいたが、俺の方が魔法の腕が立つということで、こうして勇者パーティーの一員になったのだ。それなのに。


「それだよ」

「はい?」

「お前の魔法は危険過ぎる」

「どういう、ことですか」

「現代魔法で敵をかく乱、古代魔法で包囲、そして神代魔法で殲滅。更には防御魔法で仲間の守りも固めてしまうと言う万能ぶり。お前はこれを一人でこなしてしまう」


 確かに、俺はあらゆる事態を想定して、幼少の頃から魔法の鍛錬を積んで来た。異世界から召喚された勇者とは言え、人の子であることに違いはない。魔王を倒すのが勇者の役目であると言うのなら、俺は全力でそれを支えられる魔法使いであらねばと考えていたのだ。


「出来るだけ無傷で魔王の前に辿り着くためです。タンクもヒーラーも、使わずに済むのならその方がいいでしょう?」

「あの二人だって女神によって選ばれた勇者パーティーの一員だ。傷付くことを怖れたりはしないだろう」

「……それは、そうかも知れませんが」

「お前の魔法は、パーティーとしてのレベルアップを妨げているんだよ」


 レベルアップ。確か錬度の向上を意味する異世界語だったか。確かに、タンクやヒーラー、スカウトという役職の組み合わせという概念を持ち込み、戦闘の効率を一気に高めたのは勇者様だ。俺の魔法のせいでパーティーとしての錬度が上がらないと指摘されると、返す言葉もない。


 それでも、仲間を危険に晒すくらいなら、俺の魔法で一網打尽にしてしまう方が安全で確実だとも思う。魔王と言うのがどれほどの力を持っているかわからないのだから、安全の確保には最善を尽くすべきだ。


「……俺が抜けたとして、ウィザード枠はどうするんですか?」

「お前の里にもう一人候補がいただろ。そいつを使う」


 言われて、俺は幼馴染の顔を思い浮かべた。魔法の腕が低い訳ではないし、根っからの悪人と言う訳でもないが、それでも態度が多少横柄で、女癖が悪い一面がある。はっきり言って集団行動には向かないタイプだ。


「クビを宣告された俺が言うのもなんですが、あいつはあんまりお勧めしませんよ?」

「どんな奴でも、お前よりはまともなウィザードをやってくれるだろうよ」


 どうやら勇者様の決心は固いらしい。いくら女神様の神託を受けたとは言え、リーダーである勇者様に認めてもらえないのであれば、パーティーに留まることは難しいだろう。


「わかりました。これ以上勇者様のお役に立てないというのは残念ですが、俺はここでおいとまします」

「まぁ追い出すだけじゃなんだ。どこかの国で雇ってもらえるように口を聞いてやろうか?」

「いいえ、結構です。自分の食い扶持くらいは自分で探しますよ」


 そういう訳で、俺は勇者パーティーを抜けることになった。勇者様は転移の魔法が使えるから、人員の補充にも困らないはず。夜が明けたらあいつをパーティーに加えて、そのまま魔王軍の拠点を目指すのだろう。


 テントをたたみ、荷物をまとめながら考える。


「これからどうしよう」


 勇者様には自分で何とかすると言ったものの、あいつと入れ替えに里に戻ってもやることがないし、どこかの国のギルドにでも加入して、フリーで魔物退治でも請け負おうか。


 すると、荷物をたたむ物音に気付いたのだろう。パーティーのヒーラーを務めているスフレから声がかかった。


「こんな時間に荷物なんかたたんで、どうしたの?」

「パーティーを抜けることになったからさ。今夜の内にとうかなって」


 スフレは俺より一つ年下の女の子だ。勇者パーティーに入る前は、教会でシスターをやっていたらしい。


「え!? 急に!? どうして!?」


 普段はおっとり気味のスフレが、この時ばかりは酷く焦った様子だった。


「勇者様に言われたんだよ。俺の魔法はパーティーの錬度を上げるのに邪魔なんだってさ」

「そんな! 今までディルにはたくさん助けてもらったのに!」

「俺もそのつもりだったんだけど。勇者様はそれじゃダメなんだって」


 荷物をまとめ終えた俺は、それらを背負って立ち上がる。勇者様なら収納魔法なるものが使えるのだが、俺はその魔法が使えないのでこうして自分でかつぐしかない。


「もう、会えないの? そんなの嫌だよ」

「そうは言われてもね。俺はもうパーティーをクビになった身だから」


 スフレは存外俺に懐いてくれていたので、いざ別れるとなると寂しいものもある。それでも勇者様の決定は絶対だ。少なくとも、俺の中でそれは揺るがない。


「それじゃあ俺は行くよ。元気でな」


 俺の懐で涙を流すスフレをなだめてから、俺はその場を後にした。まだこの先何をすればいいのかはわからないが、こんな俺でも役に立てる場所はきっとあるはず。そう信じて、俺は暗闇の中、歩みを進める。目指すは一番近い商業都市。そこならば何かしらの仕事が見つかるだろうとの算段だ。


 この時の俺は、まだ知らなかった。この出来事が、今後の俺の行く末を大きく捻じ曲げることになると言うことを。

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