第十六話 墓地にて

「ようやく戻ってきたなぁ」


たかが聖水を汲むだけなのに色々やったな。まあ楽しかったし、待たされた後のご褒美というのはうれしさが倍増する。とりあえず通してもらうためブレイブのところへ行く。


「よう、戻ってきたか。」

「ああ、無事に汲んでこれたよ。道中色々あったけどな。」

「そんな何か起こるような道ではなかった気がするが…まあ無事でよかった。通ってくれ。」

「ああ、ついにか…」

「幽霊を見に行くのにそんなに感動してるやつ初めて見たよ、俺は。まあ気を付けてくれや。何があるかわからんからな。」


俺が心霊スポットとかに行くのはもはや慣れすぎて心配してくれる人は少なかったから、心配されるというのは結構新鮮な気持ちだ。


「忠告どうも。幽霊スポットに行くのは慣れてるからな。」

「あんた本当に変わったやつだな。まあネクロマンサーって珍しいし変わり者が多いって有名だが…」


性格で職業が決まるのなら、職業を聞けばある程度の性格って予想できるんじゃないだろうか…まあ性格を偽ってるわけでもないからいいけど。

だが…


「俺は変わり者じゃない。そこんとこよろしく。」


その言葉を聞いたブレイブは、一瞬きょとんとした顔になり、大声で笑い始めた。


「フフフ、ハハハハハ…ああ、笑った。そうだな。あんたはか。そうかそうか。変なこと言ってごめんな。」

「じゃあ、行ってくる。」

「またな」



■■■


ギイイイと音を立てて門が開く。

ひんやりと肌寒い、だが湿度の高い空気とつんと鼻を突くようなにおい。

そして視界いっぱいに広がる、霧とお墓。


「神ゲーだな。まごうことなき。」


常々思っていたが、やはり神ゲーである。グラフィック、NPC、そしてこの五感で感じられるリアルさ。すべての点で今までのゲームとは一線を画す。

今日何回目かもわからない感嘆のため息をつき墓場を歩いてゆくと、人影が見えた。追いかけて近づいてみると、それは幽霊だった。


「ふおおおおお」


語彙力が死んでいる。すごい。なんというかふざけた幽霊ではないが、そこまで見る人を恐怖に陥れるような感じではない洗練されたキャラクター。白装束を着ているわけではなかったが、軽装でふわふわと浮いている。顔はおそらくNPCの再現だろう。つくりまでしっかりしている。正直脱帽です。運営さん。

それなら生態もしっかり設定されてるのか?確かめてみよう。

さて、まずはどんなものを食べるのだろうか。ちょっと実験してみよう。


まず最初は肉だ。干し肉がカバンにあったので、置いてみる。

だが一向に反応を示さず、そのままスルーされた。


だったら草だ。もしかしたらベジタリアンだったのかも(?)

そこらへんで拾ってきた草を置いてみる。

やはりスルーされる。


「まあたべないよなー。何を食べて生きているんだろう。」


雑食ではあっても肉か野菜どちらかは食べるはずだ。よし、最終手段だ。



最終手段:自分を食べさせてみる。


「俺はここだぞおおおお」


叫びながら幽霊の集団に突っ込んでいってみる。

すると襲い掛かってきた。おお、これだよこれ。身の危険を感じる感じ。最高だ。

とりあえず一口ぐらいかじられてみるかな。

だが、幽霊たちは俺の体を攻撃するだけで、食べようとしない。

ただの集団リンチだ。これなら町のヤンキーと変わらない。食事が目的でないのなら、何が目的で攻撃しているのか?

しばらくすると幽霊は攻撃をやめて去っていった。


謎だ。まあ考える時間が出来たが。

自分の嗜虐心を満たすためとは考えにくい。だったら習性なのか?それとも何かに操られている?または、人間を傷つけることによる副次的効果があるのか?

幽霊の主食か。見たところ魂とかで霊の類だし…だったら、何を原動力として動いている?思念たいならばありがちなのは…。

ああ、わからない自分にイライラする。

そんなことを考えているとなぜか、幽霊が近づいてきた。

よけると、俺がいたその空間で口を動かした。何かを…食べている?ように見える。

何を食べている?その場所で何があった?

俺はさっきあの場所で何をした?何を考えた?

そして一つの答えにたどり着く。


「ああ、マイナスの感情か。」


これが奴らの食事の正体だろう。俺は先ほど、自分に苛立ちを覚えた。それを幽霊が察知し、食べた。

奴らが恐ろしい見た目をして、人を怖がらせるのも納得だ。

それによって恐怖という負の感情を食べているのだから。きわめて合理的である。

タコが土に擬態し食料をとるように。奴らは見た目を変化させて恐怖を生み出し、それを食い物にする。きわめて合理的で、筋が通っている。

まあ奴らにとって、興奮や好奇心のようなプラスの感情しか持たない俺は天敵だったようだ。だがそれではつまらないな。もう少し幽霊と戯れていたい気持ちがある。

さあ、どうしようか。


――――――とずっと探求していてもよかったのだが、やりたいこととやるべきことは別だ。クエストの墓の掃除をしなければ。

とりあえず依頼書と共に渡された雑巾で墓石を吹いてゆく。

雑巾に聖水をしみこませるとよく落ちる。とダラットが言っていた。

本当によく落ちる。なんだこれ、洗剤?次亜塩素酸ナトリウム?

まあとりあえず吹いてゆく。



■■■


あー。だるい。

いやどれだけワクワクしていたと言ってもですね。何重もの墓石を磨いていたら飽きてくるわけですよ。まあいいこともあったけど。

なんと、だるいというマイナス感情を食うために幽霊が集まってくる。

いやー。これがハーレムってやつかなあ。まあ集まってきた瞬間にプラス感情でかき消されてまたすぐにいなくなるの繰り返しなんだけど。

一回嫌な記憶を思い出してみたら、集まってきたけどすぐに消えちゃったしなー。

美玖にプリン食べられた恨みなんてそう強くないのかな?

そんなに昔のことは思い出せないし困ったな。

そんなこんなで、最後の墓石になった。


「すっごいボロボロだな。」


そう、その墓はボロボロだったのだ。墓の人の名前がかすれて読めないぐらい。

聖水付きの雑巾で拭く。すると名前が読めてきたが、やはりかすれている。


「冒険者 フ…レ…イ…ここに眠る?」


誰だろう。フレイって。まあいいか。

さて、最後にやってみたいことがあったんだよ。


それは…


「ぐああああああ」

「ぎゃあああああああああ」

「ありがとう…」


「へー。個体によっての差が激しいな。とあるものは痛みを伴うのか。人間だと硫酸をかけられたみたいな感じか?でも他のものは安らかに成仏していったように見えるな。何が違うんだろうか。」


まあ、お分かりの通り幽霊に聖水ぶっかけてみただけだ。

さすがに良心が痛んできたからもうやめよう。この聖水、ホラゲに実装されてほしくもあるが、されてほしくない気もする。やはりホラーゲームは効かない銃ぐらいが丁度いい。

もう満足した俺は、ブレイブにお別れを言って墓を出た。


「ありがとうございましたー」

「ははは、また会えたらな。」


よし、今日も充実した一日だったな!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

遅くなってすみません。

明後日英検だというのに、まだ証明写真撮ってないですねぇ。どないしよ。

今日なんかHPの定義について考えていました。そういうの考える大好きなんですよね、私。そんな考えを短編にしてまとめていたら結構な数になりました。それはそれで投稿してみようかななんて。読みます?

評価やフォロー、感想、誤字脱字のご指摘などがあると大変ありがたいです。

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