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 浜松駅──4年ぶりの帰郷/魔導災害が落ち着いた頃、モモと一度だけ来たことがある/以後預かる子供が増えたことを言い訳に帰らないまま。

 古びた駅ビル/遠鉄デパート/見覚えのない井伊直弼のゆるきゃら=平日の昼間とあって歩く人も少ない。

「ここがお兄さんのふるさとですか」

「実家はここから少し遠い。でも一応、そういうことになるな」

「なんだか、うーんと川崎市と変わりませんね。コンビニ、カラオケ、ファミレス、居酒屋、マクドナルド」

「川崎市の旧市街のほうと比べたらたしかにそうだな。ま、日本どこに行っても風景はさほど変わらないよ」

「ふうん、そう・・なんですね」

 サナの瞳に映る景色=普通のことのはずなのに知らない風景。いったいどんな体験が彼女の記憶を封じ込めたのか。あるいは本当に何も知らないのか。

「あ、かわいいー」中学生らしい無邪気な反応=サナがしゃがむ「リスですよ、リス。浜松はリスがいるんですね」

 ニシは眉をひそめた。市街地のど真ん中にリス?

 直感=マナの奔流/かつて慣れ親しんだマナの波動。

 高速詠唱。声なき声を唱えた。

 周囲に魔導障壁を展開/その直後=いぶし銀色のもりが障壁に突き刺さって止まった。

「ふん、勘と腕は多少はマシになったようだな」

 愛想という愛想をすべて削ぎ落としたかのようなジジィ/職人気質しょくにんかたぎのような白髪混じりの短髪&険しい表情/しかし服装は新品=ユニクロで揃えたようなカジュアルさだった。

 銛が空気に溶けるように消える/魔導障壁も合わせて解いた。

 リスが小走りに愛想のないジジィに駆け寄ると、背中を登って肩に乗った。

 サナがぽん、と手を叩いた。

「ああ、もしかしてジジィさん」 

 ジジィの眼光が光る。

「えへん」ニシはわざとらしく咳払い「こちらはおジジィさん」

 どう取り繕うかニシが迷っているうちにジジィは後頭部をぴしゃりと叩かれた。

「あんたバカけぇ? いっつも人の前で魔導は使わないよう言ってるに」ずんぐりとした洋ナシ体型の御婦人がどすどすと足を踏んでニシに急接近&息苦しいまでのハグ「ニシちゃーん、ホント久しぶりけ。ちょっと痩せたに? ちゃんとご飯食べてるの? あらーこっちのかわいいはもしかしてニシちゃんの彼女ちゃん? もしかしてお嫁さんかしらウフフフ。あらやだー私ったらおばちゃんだからごめんなさいね」

 リス&攻撃性魔導&遠州弁のMGマシンガントーク=サナは当てられたかのようにぽかんとしている。

 ニシ=再び大きく咳払いした。「こちらは森野さん夫婦。ジジィと、こっちの元気な方がトキノさん。ジジィには子供のときに魔導を教えてもらった。トキノさんは、俺の両親が仕事で遅いときに預かってもらった。で、こっちが電話で話したサナ」

 サナはペコリと行儀よくお辞儀した。

「あらーやだー、ニシちゃんもお弟子さんを取るようになったのね時の流れは残酷ねー、ね、お父さん」

「フン、知らんに。ワシは車を回してくる」

 ジジィはくるりと背を向けると駅前のロータリーのコインパーキングへ向かった。

「サナ、大丈夫だ。ああ見えていい人なんだ。俺の生まれる前から両親と20年以上のご近所付き合いだった」

 ウフフ―とトキノさんが笑った。「そうよー。あたくし、ニシちゃんのおしめ・・・も交換したことあるんだから」

 トキノさんは相変わらず裏表ない人だった。

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