第4話 嫌われ美少年と犬、ちょっと近づく
『そういう訳にはいかないよ。俺、がんばるから。君が飼ってくれ!』
リアムには「がうがう」としか聞こえないと思うが、必死に伝える。
「……はあ」
リアムは大きなため息をつくと、再び歩き始めた。
俺もまた黙ってあとをついて行くが、今度は何も言われない。
完全に無視をされているが、鋼の心でついて行く。
絶対にリアムに飼って貰うぞ!
建物の外に出ると、近くに立派な城が見えた。
ここは城の敷地内のようだが、リアムは城から離れて行く。
リアムも王子様なのに、城に住んでいないのだろか。
城の敷地は広いようで、手入れされた森林エリアを抜けると、落ち着いた雰囲気の洋館に辿り着いた。
『城の敷地内なのに、普通の洋館って感じだけど……。もしかして、リアムはここに住んでいるのか? …………あっ』
洋館の中に入って行くリアムに続こうとしたのだが、扉を閉められてしまった。
『閉め出されたか……悲しい……大人なのに泣く……。でも、仕方ない。開けてくれるのを待つか』
ただ待つのも暇だし、ここに来る途中で見かけたリンゴでも収穫してくるか。
リアムの華奢の体を見ていると、まともに食べていないことは明らし、少しでも栄養を取らせよう。
※
さっき見かけたリンゴの木の前に戻って来た。
『どう見てもリンゴだけど……俺が知っているリンゴと一緒だよな?』
『たべられるよ!』
『! ……え? リス?』
返事の元を辿ると、そこには可愛いリスがどんぐりを食べながら立っていた。
どんぐりの木も近くにあるのか? ここの季節ってどうなっているんだ?
そんなことが気になりつつもリスに聞いてみた。
『今の声は君だよな? 君は俺の言葉が分かるのか?』
『かみさまのこえなら、みんなわかるよ?』
『みんな? リスだけじゃなくて他の動物もか?』
『そうだよ! かみさま、りんごほしいの? ぼく、とってこようか?』
『え? いいのか? 頼む!』
リスに頼むと、仲間を呼んで俺の前までリンゴを持ってきてくれた。
すごい……これはいい!
……ということは、他のことも頼めるのでは?
悪知恵が働いた俺は、リスや他の動物達に頼みごとをして、自分は悠々とリアムの館に戻った。
使えるものはリスでも使う。
これが汚い大人の生き方である。
戻ったらリアムが待っていてくれないかな、と思ったが、普通に閉ざされたままだった。
『まあ、気長に待つか』
※
館の前で伏せ、のんびり待っていると寝てしまった。
寝る前は明るかったが、今は夜だから五、六時間は経っているだろう。
熟睡したな……。
『おうさまー。持ってきたよ』
『お? おおっ』
あのリスの呼ばれてそちらを見ると、美味しそうな木の実や果実が山積みになっていた。
『ありがとう! すごく助かった。手伝ってくれた動物達にも礼を言っておいてくれ。あと、また頼んでもいい?』
『おやすいごようなの』
リスは可愛く尻尾を振ると去って行った。
すごく可愛い……リアル童話の世界最高……。
「……お前、まだいたのか」
『!』
声が聞こえて振り返ると、そこにはリアムが立っていた。
『出て来てくれたのか! ありがとう!』
「その山積みの果実はなんだ?」
『よくぞ気がついた! お前にやるから食べてくれ!』
リンゴをひとつくわえて差し出す。あ、しっぽが勝手に揺れる。
「……はあ。おいで。寒いだろう?」
『!』
呆れたようにため息をついたリアムだったが、扉を開けて俺を迎え入れてくれた。
やった!
まったく寒くはないのだが、「だったら出て行け」と言われたら嫌なので黙っておこう。
「こっちに来い。まずはその泥を落とそう」
『あ、そうだった!』
俺は自分が泥だらけだったことを忘れていた。
こんな汚いまま人様の家に上がって申し訳ない。
リアムが連れて来てくれたのは、石鹸が一つ置かれているだけの殺風景な風呂場だった。
痛んでいるリアムの銀髪は手入れをするととても綺麗になるだろう。
異世界漫画の要領で、劇的効果のあるシャンプーやリンスを開発できないだろうか。
そんなことを考えている内にリアムは桶に水を溜め、その中に俺を入れた。
『わあ……汚ねえ……』
すぐに濁っていく水を見て、俺は思わずつぶやいた。
でも、リアムは黙々と唯一の石鹸を使ってくれながら俺を洗う。
いい子だな……やっぱり幸せにしてあげたいな……。
「よし。綺麗になった。お前……かっこいいね」
汚れが落ち、綺麗になった俺を見てリアムが感嘆の声を漏らした。
『そうなんだよ! 俺、綺麗になるとかっこいいだろ!?』
「あ、おい……濡れたじゃないか!」
『! ご、ごめん……』
褒められたことが嬉しくて飛びついてしまい、リアムをびしょ濡れにさせてしまった。
精神が犬モードになっているのか、嬉しくなるとじゃれてしまう。
しゅんとしていると、リアムが苦笑いしながら布で拭いてくれた。
仕方ない犬だな、と呆れているようだが、もう俺に対して怒りはないようだ。
よかった……憎まれるのは仕方ないと腹を括ってはいたが、本音はものすごく悲しかった。
リアムに嫌われ続けるのはつらすぎる。
犬として生きていく希望をなくす。
「じゃあ、あっちで乾かすか。ついて来て」
『おう!』
リアムは談話室のようなところに俺を連れて行ってくれた。
暖炉がある広い部屋で、中央にはテーブルがある。
古いソファがコの字に置かれていて、十人くらいは座れそうだが、この洋館には俺とリアムしかいない。
つまり、俺がいなかった今までは、リアムはひとりぼっちだったってことか……。
食事を終えたばかりなのか、空になったお皿があるが、皿が一つしかないのが気になる。
……少なくないか?
育ちざかりの少年が満足する量だとは思えない。
「お前、神界に帰らないということは、やっぱり犬か魔物なんだな?」
『だから神獣だって……』
炎が揺れる暖炉の前に座ったリアムの横に伏せる。
「お前は犬か魔物なのに、僕の召喚に応えて来たのか?」
『うんうん』
「!」
頷いて見せると、リアムが目を見開いた。
「お前、僕が言っていることが分かるのか?」
『うん』
「ただの犬じゃないってことは……魔物なのかな」
『だから! 神獣だっつーの!』
「……何か一生懸命言っているな? でも、分からないよ」
俺が必死に言い返す様子が面白かったようで、リアムがくすりと笑った。
そして、ゆっくりと俺の背中を撫で始めた。
撫でられるのって気持ちがいいな。
「一人じゃない夜は久しぶりだな」
『デザートもあるぞ』
持って来てテーブルの上に置いていたリンゴに目を向けると、リアムに意味が伝わったようでまた笑った。
「そうだな。……お前といるのも、悪くないかも」
『! そうだろ? よろしく頼むぞ、ご主人様』
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