第二章 曰く付き物件
第6話
由貴はひさしぶりに部屋という部屋に入ることができたのか心がホッとしている。
しかし自分が住んでいたアパートよりかは綺麗で最上階の角部屋、仕事がうまくいかず苦労してると言う幼なじみがこんな条件の良いところに何故住んでいるのだろうかというのは少し気になったが。
先程ラーメン屋での由貴にまとわりついていた足だけの女と、ラーメン屋の元バイトの亡霊を同時に除霊し、ついでに撮影もしたためか2人ともへとへとでもある。特にこれを生業として今まで生きていたというコウ。
それを目の前にした由貴は悪くはないとは思ったが流石にこれだけでは生きていけるのだろうか。いろんな疑問を抱えたまま部屋に入る。
「由貴、まずお前シャワー浴びてこい」
コウはすごく嫌そうな顔をしている。
「なんで」
「金木犀かなんだかしらんがそんな匂い耐えられない。早く入れ」
「金木犀の匂いダメ?」
「金木犀は悪くはないが、お前の体臭と混じったその匂いはやっぱ無理。あとさっきのラーメン屋でのニンニン増し増し背脂こってこてのラーメン食ったから息が臭い」
すると由貴は口元をコウの鼻に近づける。コウは身を逸らす。
「なんだよ、めっちゃ近い! くさ!」
「コウも臭いから一緒だよ、後でもいいだろ」
「人んちだぞここは。てか2人ともおなじ匂いだからって平気じゃないし!」
コウは地団駄を踏む。が、その地団駄で履いていた安物のローファーの靴の底が抜けた。
「あー、やってしまった!」
「ご愁傷様です」
「……使い方間違ってる、くそ。また買わないとなぁ」
「コウ、そのスーツも今更いうのアレだけどサイズ合ってないしほつれて皺々」
「わかってる! 撮影の時だけだっ……また金入ったら買うから!」
何故かずっと怒りっぱなしのコウ。さっきの除霊が相当手こずってイライラしてたようだ。この怒りの感情が除霊にもプラスされて能力も向上される説教タイプの除霊。だが二体もやったわけでその怒りのまま家に帰ってきてしまったわけで。
昔から怒りん坊のコウを知っていた由貴は観念した。
「じゃあ先に風呂入らせてもらいますー」
「あーわかった、ボタンピッと押せば歯を磨いて着替えてる間にお湯入ってるから」
「歯ブラシない」
「ホテルのアメニティのやつ、ストックにあるからそれ使え」
「用意いいな」
「別に」
「女でもいるのか、よく連れ込むのか?」
「るっさい、早く入れ!」
どんどん捲し立てるコウに対して昔と変わらないと思いつつも由貴は風呂場に向かった。
「にしてもコウもまぁいいとこ住んでるんだなぁ」
由貴は独り言を言いながら浴室前の更衣室で着替える。
マンション自体は古くてそこそこの階数あるのだがコウの部屋は全体的にとても新しめでフローリングや浴室、更衣室もリフォームしたくらい綺麗である。
「……それなりの理由ありそう」
由貴は上半身を脱いでこれまた真新しい大きなドレッサーの鏡を見る。
「こんにちは」
由貴の横には女が立っている。もうこの部屋に入った瞬間に由貴はきづいていた。その女の人は何も声を発しない。
「……できれば部屋から出てってもらいます? 今から着替えるのであなたがいると着替えるのも……」
女は全く動かない。
「なにもしなさそうだなぁ」
由貴はそうだと気づき全裸になって風呂場に入った。本当に女は動かなかった。抵抗はあったがこれは無視するに限る、と割り切った。
「やっぱ訳ありだな、ふむ」
が、由貴が浴室に足を入れた瞬間……。
「うわ、やば」
一瞬にして浴室が一気に真っ赤になったのだ。
「うわああああああああああっ」
「コウーっ!!!」
浴室のドアはバァアアアアン! と音を立てて案の定、鍵がかかったように全く開かない、が原因は一目瞭然。ドアのすりガラス越しにさっきの女が立っていたのだ。
「何もしないと思ったけどなぁ……すごい力だ……」
すりガラス越しで表情ははっきり見えないがなんとなく影で口元が笑っているように見える。心霊現象は慣れっこだが真っ赤になった浴室はさすがに無理である。
今までこういう現象にあっていたものの由貴は共存していた。with 霊。もちろんずっと怖かった、でも除霊の仕方を知らなかった由貴は見過ごすしかなかった。
「あいつ、これを知って僕を浴室に入れたなっ」
真っ裸な由貴の前に1人の男がさらに立ち尽くしていた。彼も真っ裸だが全身赤い……血だらけで上半身しかみえない。年層は自分よりも高く、背丈は低い。ちなみに後ろの女は160もないと推測した。
「この女とあなたはどういう関係ですか。それよしかなんでここにいるんですかっ! そっちが知りたい」
冷静さを保てない由貴。いくら叫んでもコウはやってこない。
『うぉーーーーおーーーー』
男は叫ぶ。浴室に反響する。
「うるさいっ!! 落ち着いて、落ち着いてっ!」
すると背後から
『ひゃーーーーーーーっ!!!!』
ドアを押さえている女だ。どこから出してるか分からないくらいの高音の叫び声。耳が痛くなる。
「まじ、やめろやーーっ! 2人とも落ち着いてーーー」
2人とも叫びは止まらない。
「コウーっ!! もう無理っ……無理矢理!!!」
半泣き状態の由貴。
そのときだった。
「うるさいわボケっ!」
浴室の外からコウの声が聞こえた。
「遅いぞ!」
由貴は外にいるコウにツッコミむ。コウの説教で外の女の影が消えたと同時に叫び声が止み、男はぐたんと倒れた。
「女は退治した。あとはそのおじいちゃんだな」
「おじいちゃん? おじいちゃん、確かに……てかお前っ! 僕をはめやがって」
「はめた? ちがうちがう、お前が引き寄せたんだろ」
確かに由貴には幽霊や心霊現象を引き寄せる力がある。
「おまえずっとこの家に住んでたら知ってるだろ……女の幽霊!」
と勢いよく由貴が浴室のドアを開けると目の前にスマホを構えたコウが立っている。なぜかピースしてニッコリ。ちなみに部屋着に着替えていた。
慌てて由貴は大事なところを隠す。そして倒れている男をよく見ると「おじいちゃん」であったのだ。
「なんだ、この浴室は……」
「任せとけ、タオルで手を拭いて。はい、このスマホ持ってて。お前はカメラマン」
とコウは由貴にタオルを渡してスマホを持たせた。正直な気持ち床にそのスマホを叩きつけるか浴槽に沈めるか、そんな気持ちだった。だがそんな大人げないことは意味がない、由貴はできなかった。
「大丈夫、後で編集できる」
「……そうだか。てか早急にしないとなぁ」
コウは横たわった男の人の体に手をあてる。
『あああああっ』
倒れたおじいちゃんの霊は、か細い声で何かを言いたそうである。コウは息をすうぅと吸い込み……
「いい加減に静かにしろぉ!!」
その声は浴室内に響き渡り、由貴は腰が抜けた。そしておじいちゃんは消えて一気に浴室は元通りになった。
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