第28話 12月20日 土曜日 C6
「そういえば、意外と静かですね。廊下は」
鍵を俺が明けて部屋へと入ろうとしていると、入る前に湖奈がそんなことを言いながら廊下を見渡している。って、確かに静かだ。シーンとしている。受付のところはかなりの人がいたはずなのに……。
「あんなに下には人が居たが――ここは居ないのか?いやそれはないと思うが――」
「または――各部屋防音だったりして?ニヤニヤ」
「……」
「にやにや」
2回言いやがった。良からぬことを考えているであろう湖奈。俺は呆れつつ湖奈に進めと合図した。
「湖奈。アホな事言ってないで、入るぞ。ほら、進め進め」
「はーい」
ドアを開けると――普通に部屋だった。
「おお、マジか」
「すごい。普通に良いホテルじゃないですか」
もっと狭い部屋かと思ったが。普通に広さがあり。おまけにバルコニー付き。あと室内にシャワールームまであった。また追加料金を払うとここで食事などもできるらしい。いやいや、めっちゃいいホテルだった。これ……マジでここで生活する人現れそうだ。長い間ゲーム内に居ると。現実の身体がどうなるかは心配だが。長く居すぎるとミイラみたいになりましたとかいうのは嫌だな。
「斗真先輩。ヤバいですよ。ベッド大きいです」
俺がいろいろ思っている間も、湖奈は早速室内探検中だ。
「マジだな。これなら現実戻らなくてもいいかもな」
「——まあ現実は現実で――ですが。すごいですね。って、斗真先輩」
「うん?」
「先にシャワー借りていいですか?ベッドにダイブしたいので」
何故か目を輝かせつつの湖奈。まあいいか。さっぱりしてそのまま寝たいのだろう。
「——どうぞ」
別に俺的にはそのまま飛び込んでもらっても、気にしないのだが。湖奈がめっちゃ気にしそうなので俺はシャワールームの方へと手を伸ばしつつ言った。
そして、湖奈がシャワールームへ。と思ったら急停止した。
「あっ、ゲーム内と言えど、覗いたら責任とってもらいますねー。斗真先輩?」
そんなことをニヤニヤしながら言ってきたのだった。絶好調だな。湖奈。
「覗かないから」
「えー。楓夕先輩とは一緒に入っていたのにー」
「入ってねーよ!勝手なことを言うな!」
マジでそんな過去はない。はっきり言っておこう。ない……ないよな?最近ちょっと記憶が――いやいやそんなことないよ。冗談だ。ない。そんな過去はない――のだが。何ではっきり言えない自分が居るのだろうか……?俺はちょっとした違和感を感じつつも湖奈の話に返事をした。
「どうだかー斗真先輩。いろいろやらかしてますからね」
「あのな。変な嘘を広めるなよ?」
「まあ誰も聞いてませんよ?」
「そりゃ今はそうだが――」
にひひーという顔の湖奈。楽しそうに先輩いじりをしてくる。
「まあ、お先でーす」
「はいよ」
湖奈がシャワールームへと入ると俺はバルコニーに出て見た。
バルコニーから見えるのは……既に夜なので薄暗いが。市街地と緑。山などいろいろだった。市街地が見えるのは――そうだよな。そういえば、津駅前から少し歩いただけだから。でも、本当はもっと建物があってもいいはずなのに自然も多く見える。
つまりこれは――あれか。少しずつゲームの世界になっている?いや、これ……ゲームが成長してないか?はじめからこんなんだっけか?そもそもこのホテルもあったっけ?だったが。あー、でもこれは俺達3人が気にしていなかったのが原因かと、勝手にまとめた俺だった。
にしても、ホントこれが現実なのか。ゲームなのかあやふやになりそうだよ。
俺はしばらくこの不思議なゲームの世界を見ていた。ちなみに今俺が見ている側はやはりプレイヤーが入れないらしく。人影というのは全くなかった。もしかしたら――貼っただけ。という言い方はだが。現実の雰囲気を残しつつもちょっといじった風景だったのかもしれない。
そんなことを思いつつ俺はまだ部屋には戻らず。いや、なんかな。湖奈がシャワールームから出てくるまでは、部屋に居ない方が問題が起きない気がしてな。
ってか、前にもこんな状況があったような――前はバルコニーなんてなかったから。何とも言えない時間だったな。シャワーの音が。そして隣では楓夕がニヤニヤ。って、変な事を思い出していてもなので。ステータスの画面でもちゃんと見るかと俺は『ステータス』と言ってみた。もちろんここもゲーム内なのでちゃんと表示される。
SCAWのゲームを初めてから数日。プレイ時間はそこそこ長いので、はじめと比べるとレベルは上がっている。あと、アイテムもいろいろ持っている。先ほど売って少し減ったがな。
本当はこのホテル代で他に何か買えたかもしれないが。休息も必要だろうし。今はこれでいいだろう。ってか、このゲームって、休まないと怠くなったり。そういうのはあるのだろうか?今のところ結構動いたが疲れというのは――全くないということはないが。でも現実で同じことをしたら――もう寝っ転がってる気がする。全く動けないといった感じだろう。でも今のところは普通だ。心地よい疲労感とでもいうのだろうか。さらに、いろいろ敵に切られたり。刺されたりしたはずだが――痛みは覚えてはいるが。身体を動かすに関しては、もう何も違和感はないと言った感じだ。不思議だよ。現実ならまだ痛がっているな間違いなく。
そんなことを思いつつステータスを確認する。ちなみに湖奈のステータスも今見えているが。レベルの上がり方はほとんど同じだった。違うと言えば魔法力というのだろうか。聖職者の湖奈は魔法の能力が少し上がりやすいのか。いや、これは装備品の違いだったな。装備品が少し違ったり強化も違うから少しだけ能力アップなどの効果に差がある。
そういえば、詳細な能力値。攻撃力とかはわからないが。今俺がマジックソードで、近接も少ししているから、それで能力の上がり方が違うということはあるのだろうか?やっぱり基本動けるのはもともとの個人の能力?だから――動けば動くほど個人の能力は上がる?うーん。難しいな。でも、はじめからしたら身体は動くようになった気がするから。やはり見えないだけで、能力もちゃんとゲーム用として上がっているのだろうか?それともやっぱり武器強化のみで基本上がっている?
あと、能力に限界はあるのだろうか?このゲーム。SCAWは能力を振り分ける的なことが出来る雰囲気は今のところないし。そもそも能力値の詳細がわからないからな。って、俺めっちゃSCAWにハマってるというか。ゲームの事ばかり考えているなあ。現実の事もいろいろあるのに――あれ?そういえば俺――今大学生……あれ?何して……た?。
ふと俺の頭に変な感覚が――というとき。後ろでガラッとドアの開く音がした。
「斗真先輩。お先でーす。斗真先輩もシャワーどうぞー」
「はいよ――って」
湖奈の声が聞こえてきたので、返事をしつつ振り返ると――一時停止だ。この馬鹿は。
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