第82話 炎と永遠 3
翌日の昼頃、エルンストはアンゲラーの馬車の荷台に隠れて無事城門を通過した。
アンゲラーは門番とも顔なじみで、なんら疑われることは無かった。
「ご武運を」そう告げるアンゲラーと別れ、エルンストは衛兵棟の近くの茂みでファーレンハイトが通るのをじっと待っていた。
――どれくらい時間が経っただろう。
陽が傾き始めた時だった。ファーレンハイトがひとりで歩いてくるのが見えた。
「おい」
茂みから呼びかける。
声の主を探すよに周囲に目を走らせていたファーレンハイトだったが、
「閣下っ」エルンストに気づき、茂みに分け入ってきた。
「お屋敷を脱出できたのですね。でも一体どうやって?」
「そんな話は後だ。フィーアはどうしている。無事か?」
「はい。闇に乗じれば動きやすいでしょうから、そこで一気に助け出せると思います。それに私は先ほど皇妃様にすべてをお話し、お力添えをいただけることになりました」
「ゾフィーは何と?」
「皇妃様の元には、皇帝と側室一族に不満を持つ貴族が密に集まっております。そえら不満分子を終結させれば――」
「内戦が起きるな」
「もはや、やむを得ないかと」
エルンストはアンゲラーの顔を思い出していた。
結局しわ寄せが行くのは平民か。
内戦が起これば物資を供出させるだろう。彼らの生活は増々苦しくなる。平民の不満は必ず爆発する。それを押さえるのに、兵力を裂く。堂々巡りだ。
国を治めるとな何と難しいことか。エルンストは空を仰いだ。
しかし、今はフィーアの救出が先だ。陽が落ちたら地下牢に向かう旨をファーレンハイトに伝えた。
*
それから陽が落ちるまでの数時間はエルンストにとって果てしなく長く感じられた。
フィーアを救出したとしても、屋敷には帰れない。しばらくゾフィーの所に身を寄せるしかない。
「閣下っ、フィーア殿が牢から連れ出されましたっ」
「何だと!?」
「皇帝の命とかで、側近が連れて行ったのです。まさか命を奪う気では!?」
ファーレンハイトの顔には不安の色が浮かぶ。
「今は何とも言えん。情報を集めるんだ。急げっ」
ファーレンハイトはすぐに闇に姿を消した。
ここでどうすることも出来ないわが身が口惜しい。
けれど、今のエルンストはおたずね者同然だ。
俺が捕まるわけにはいかん。
待つしかない。待つしかないのだ。
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