第80話 炎と永遠 1
フィーアを奴隷にした張本人は我が君主だった。
エルンストは絶望の深淵に突き落された気分だった。
自室に籠り、君主への憤りを抑えられず苦しんでいた。
だがそれよりも――。
フィーアはどうしているだろうか。
泣いてはいないだろうか。
辛い思いをしていないだろうか。
営倉に一般人は入れない。やはり地下牢に入れられているはずだ。
想像すると、居てもたってもいられない。
「どうする」
カーテンを開き窓の下を見ると、屋敷の周りを見張りの兵士が巡回している。
あれは俺の部下ではない。他の隊から呼ばれた連中だ。
エルンストはベッドに座り込む。
シーツに手をやると昨日の記憶がよみがえる。
そうだ、たった昨日のことだぞ。
エルンストはその切れ長の瞳を閉じる。
フィーアの吐息。抱きしめた温もり。愛し合った肌。
それが、まるで幻のように、俺の手からすり抜けてしまった。
「くそっ!」
とにかくファーレンハイトと連絡を取りたい。
ヘレナかルイーザをファーレンハイトの元に使いに出せないだろうか。
それとも夜を待って、俺が屋敷を抜け出すか。
今すぐにでも助けに行きたい。
エルンストはその長い指で、ギュッとシーツを握った。
「ご主人様」
ルイーザだった。
「どうした」
「あの・・・」
戸惑いながらドアの陰に隠れていた青年を引っ張り出す。
「彼は?」
「この人は私の恋人です」
こんな時に恋人紹介か?
エルンストは怪訝な顔をした。
「わ、私はギルベルト・アンゲラーです」
被っていた帽子を取ると、緊張した様子で自己紹介をした。
貴族ではないのか。歳は自分より少し下。服装からして商家の人間だ。手には豆があるから思い荷物を運ぶ仕事だろう。
素早く観察した。
「彼は城下町で父親が営む酒屋の手伝いをしています。このお屋敷にワインの配達で来ています」
そう言えば、フィーアがルイーザには平民の恋人がいると話していたな。この男がそうなのか。
「いつもありがとう。ギルベルト」
差し出した右手をギルベルトが取る。
「ご主人様、今すぐギルベルトと服を交換してくだい」
エルンストはルイーザの言わんとするところを理解した。
「ギルベルトの酒屋は宮廷にもお酒を卸しています。ですからお城にも入れます」
そう言うと、店の場所が書かれメモを差し出す。
「コンラートさんから聞きました。フィーア様をどうか助けて下さい。そしてお二人でこのお屋敷に戻ってきてください」
「ああ、必ず二人で帰ってくる」
エルンストは着替えると、裏口へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます