第28話 宵待ち草 7

「お前・・・」

 

 フィーアに視線を合わせること無くエルンストは呟いた。


「はい?」

「お前、剣が使えるのだな」


 空のグラスをフィーアに差し出すと、おかわりを要求した。


「女にしては中々の腕前だった」


 静かすぎるほど、静かな夜だ。

 トクトクとワインが注がれる音しか聞こえない。


「例の学者に剣術も習ったのか?」

「・・・」

「答えろっ」


 グラスが絨毯の上で勢いよく跳ねた。


「ご主人・・・さ・・・ま」

「学者とは一体誰だっ!ギードとはとはいつから親しいのだっ!」

「離・・・して」


 怯えているフィーアのグレーの瞳には、歪んだ自分の顔が映っていた。


「・・・すまん」


 フィーアの手首を離す。

 百合の花の香りが俺をイラつかせたのだ。


「片付けは後でいい」

「・・・はい」

「お前には剣よりも、花が似合う」


 絨毯には赤いシミが広がっていた。




 

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