第16話 新たな生活 2
水汲み用の木製のバケツを下げ、ルイーザと屋敷の廊下を歩く。
「なら、上級貴族と結婚したら?あなたも奥様になれるじゃない」
「いいフィーア?あたしは下級貴族の娘なのよ。上級貴族と結婚なんて出来やしないわよ。身分差婚は法律で禁止されてるの。知らないの?」
「・・・そうなのね。私、村で育ったから知らなかった。村娘に身分とか関係ないから」
「そっか。その法律が出来たのは、二代くらい前の皇帝の時代らしいんだけど、何でも血統を守るためらしいわよ。上級貴族様の考えそうなことよ」
「同じ貴族なのだから、上級とか下級とかあるのも不思議ね」
貴族に上下をつけたのも、二代前の皇帝だったらしい。
「あたしも一応貴族だけどさ、貴族とは名ばかりの貧乏貴族よ。むしろ街の商人のほうが金はあるかも。ご主人様みたいに名門とは明らかに差があるから、下級って言われて当然かもね」
話ながら庭に出ると、太陽がエルンストと出会った時と同じようにギラギラと照りつけている。
まだ昨日のことなのだ。こうも人生は激しく上下するものなのだろうか。私が特別なのか。背負った運命に抗議したくなる。
「ルイーザはいつからこのお屋敷で働いているの?」
「十五の時からよ。兄弟が多くて口減らしみたいなもんね。落ちぶれた貴族ほど惨めなものはないわよ。プライドだけ高くてさ」
そんな境遇でも、過去を明るく語るルイーザの性格を羨ましく思うフィーアだ。
「ウチの家は庶民より貧しかったと思う。だけど、母親は常に一般階級を馬鹿にしてた。でもさ、その庶民の高利貸しから金を借りてるのは誰だよ。って言ってやりたかった」
「仕送りをしているの?」
「給金の半分をね」
「そんなに・・・偉いのね」
「偉くなんてないよ。普通のことだよ。・・・これがあたしの運命なんだと割り切ってる。それに・・・」
ここでの暮らしは幸せだと言う。
むしろもっと早く侍女になりたかったともルイーザは言った。
「昨日は珍しく雨が降ったけど、最近はこんな異常に暑い日が多くない?井戸水がいつか枯れてしまわないかと、そっちが心配よ」
井戸から水を汲み上げると、ルイーザは勢いよく洗い桶にそれを流し込む。
水がはじける音とともに、水の粒がフィーアの足にかかる。気持ちよかった。
ここでは水を飲みたいときに飲める。一滴すら無駄に出来なかったことが嘘のようだ。
アーデルはどうしているだろう?泣いてやしないだろうか。この水をあの子に持っていけたなら。思いきり水を飲ませてあげたい。
「手が止まってるよ、フィーア」
「あ、うん」
ルイーザに促されて、バケツに水を流し込む。これを台所の瓶にさらに移す。瓶は自分の腰くらいまであったから、何往復すればいいのか、ちょっと不安になる。
「せいぜい頑張って」
ルイーザはガシガシとシーツを勢いよく洗い始めた。
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