IEYASUTURN(東京大江戸幕府築城)

タゴメ

第1話 蒼京(あおきょう)から江戸津川(えどつかわ)へ

 日本本州の最北端にある日本の首都蒼京都あおきょうと

 そこは日本屈指の高層ビル街。そこの1個の高層ビルのオフィスで働く女性がいた。青いショートヘアーのキャリアーウーマン。課長という役職を持ち、多くの部下を従えて多くの企業との商談を成立させてきた。

「青森さんはまるで戦国時代を平定した村正津軽太むらまさつがるたみたいですね」

「そんな無駄口を叩いている暇があったらさっさと仕事を進めるでい。あだしはハワイの会社とのプロジェクトを成功させないといけないんでい」

「すいません」

 優秀な部下が自分の実績を天下人の名で例えてきたが興味はない。興味といえば、この会社を多国籍企業として世界中に常に影響力を与えておくことだ。奥羽越列藩幕府おううえつれっぱんばくふが戦国時代を平定し、長期政権を続き明治維新で倒幕された。その後、将軍家は日本初の株式会社を築いて世界有数の多国籍企業へと成長した。村正銀行という金融機関を中心としたグループ会社だ。村正銀行で旧将軍家に例えられることはそれなりに光栄である。

 世界三大汎用モバイルオペレーティングシステムつまりスマートフォンの1種類――Ubiquitousユビキタスが振るえ出した。プライベート用だ。着信である。相手は実家の母の名前だった。青森は立ち上がり、オフィスルームを抜けて休憩室に入る。着信を受電にする。

「お母さん、何でい?」

林檎りんご。いつ、江戸津川村えどつかわむらに戻って来るんでい? 来週、日月は連休なんだろ?」

 埼玉県東水田郡江戸津川村ひがしすいでんぐんえどつがわむら。埼玉県南部にあり、奈良県の十津川村以上の広大な面積を持つ地域である。特に江戸津川村えどつかわむらの面積は凄い。農村であり漁村でもある。関東の辺境の荒れ果てた村だ。そこが青森林檎の生まれ故郷である。

「お母さん……ごめんでい……ハワイの取引先との会合があって帰れないんでい……」

「てやんでい!!! べろぼーが!!! 謙信けんのぶが寂しがるじゃないかい!!」

 自分の1人息子、青森謙信あおもりけんのぶ。シングルマザーであり、実家に預けて生活費だけを仕送りし、仕事好きな林檎は日本本州最北端の首都での多忙を選んだ。たまに帰郷して1人息子と過ごすのはちゃんと守ってきた。ただ、1人息子が小学校高学年になったあたりから課長というポジションを任されて約束を破ってきている。

謙信けんのぶはもう14歳でい。それくらい分かっているでい。ゴメンだけど、もうすぐ会議だから切るでい」

 青森林檎は自分から一方的にUbiquitousユビキタスを切った。そして溜息をつく。

「ごめんなさい……謙信けんのぶ……。わたしは貴方を愛しているんだけど、それよりも仕事を愛しているの……」

 青森林檎はそのまま休憩室を出て行ってオフィスルームに戻るのだった。

➡ ➡ ➡ ➡   ➡ ➡ ➡ ➡   ➡ ➡ ➡ ➡

 埼玉県東水田郡江戸津川村ひがしすいでんぐんえどつがわむら。辺り一体に水田が広がっている。今年も多くの米が収穫できる。戦国時代と明治時代の間にある奥羽越列藩時代おうえつれっぱんじだいは幕府がこの地の米を特に欲した。大江戸米おおえどまいと呼ばれ、日本のお米でも1位2位を競うブランド米だ。

 村のどこかの古民家。そこで自宅電話で話していた青森暦あおもりこよみは溜息をつく。自分がしっかり育てた娘が孫より仕事を選ぶとは本当に情けない。

 暦の背中に声が届く。

「(;^ω^)おばーちゃん。いいでい。お母さんはお仕事でしょ? 誰かってしたいてやんでーなことはあるでい」

 青い長髪をお下げにしてくくり、青森謙信あおもりけんのぶは髪と同じ青い学ランを着たまま、本を読んでいる。何かの哲学者の本と漫画の2冊を数分ごとに交互に読み替えていくのだ。

「ケンちゃん。おばーちゃんがもう1回、電話してね。帰郷するように叱るから」

「(;^ω^)いいでい。今、お母さんの仕事が好調なら無理矢理帰ってこさせるのはてやんでいなことでい。俺っちがべらぼーなことになっちまうしな」

 青森謙信あおもりけんのぶは哲学本と漫画を閉じると、散歩してくると言って外へと出る。水田が広がり、閑散としている。東水田郡は面積がめちゃくちゃ広くて海面の樹海と云われている。ここが大都市圏だったらいいのになーと青森謙信あおもりけんのぶは歩きながらふと思う。しかし大自然特有の空気も好きだし、複雑な気分だ。

「(-_-)関西の人、て東北最北端に日本の首都があるから飛行機しか行く手段がないでいな……」

 幼少期、母親が帰郷したときはよく蒼京都あおきょうとの土産をくれたのを思い出す。蒼京都あおきょうとでもグルメ雑誌に掲載されるくらいのレストランでも食べたことがある。蒼京都あおきょうとと北海道が繋がりのお陰で北海道の総人口が日本最多である。

 明治維新といえば、北海道函館で坂本龍馬を筆頭とする攘夷志士たちが「函館政権」というテロ組織を立ち上げてクーデターを起こす。蒼京都あおきょうとの前身である大津軽おおつがるを彼らが占領した。奥羽越列藩幕府おううえつれっぱんばくふの残党が九州へと逃げ延びて奥羽越列藩薩長同盟おううえつれっぱんさっちょうどうめいを結成した。後に西郷隆盛や大久保利通などが裏切り、函館政権に合流し、壊滅寸前の残党軍は函館政権と講話を結び居城を無血開城して戦火は終わる。

「(;^ω^)埼玉県最南端は見捨てる、てわけですかい。なんか埼玉県最南端に住んでいる住民は蛮族という蔑称されていて南蛮、て呼ばれていたなーー」

 青森謙信あおもりけんのぶは農道を散歩していると、背後から声が聞こえてきた。

【狸姫】「おい、そこのお前じゃないの。そこのお前じゃないの」

 少女の声だった。青森謙信あおもりけんのぶはここら辺りに少女の知り合いはいない。でも呼び声が聞こえる。

「(;^ω^)気のせいでいな……べらぼーめ。そんなわけねーでい」

【狸姫】「おい、振り向けじゃないの!!! 小生は地縛霊じゃいの!!!」

 少女の声は自称、地縛霊のようだ。青森謙信あおもりけんのぶからしたら非科学的な意味ぷー存在とは対面したくない。そういうのは人気動画配信サイトUB.moveユービームーブ(youtube相当)だけで充分だ。そしたら頭の上に何か乗っかってきた。それはモフモフとした茶色い体毛だらけの尻尾だった。青森謙信あおもりけんのぶはまるで茶色いリーゼントのカツラをかぶった気持ちになった。

「(;^ω^)あの……誰でい?」

 仕方なく青森謙信あおもりけんのぶは振り向く。すると、どこかに落ちていたバケツを逆さまにして、それを踏み台にその上で佇み、背後を振り返って狸の大きな尻尾を載せてきた少女がいた。和服だ。そして着物のようなブリーツスカートを穿いている。尻を突き出してそこから生えた大きい狸の尻尾を自分の頭に載せてきたくらいだ。白いショーツが見えても不思議じゃない。茶色い長髪、赤い扇子を髪飾りとしていている。その少女はこちらを向くと顔全部を真っ赤にさせて発狂する。

【狸姫】「ズルイじゃないのぉおおおおおおおお!!!!」

 茶色い長髪を着飾る扇子の髪飾りは全開にする。扇子のところに怒る絵文字が表示される。

「Σ( ̄□ ̄|||)な、何なんでい!!! 乙女の秘蔵なもんを見せんじゃないんでい!!!」

【狸姫】「豊臣秀吉公により、この江戸津川えどつかわを開墾し自身の領土を仰せつかった徳川家康江とくがわいえやすえじゃないの♪ 埼玉県最南端のド田舎にて絶賛地縛霊中じゃないの♪」

「(ノД`)・゜・。……………どのように反応したらいいんでい?」

 何か宇宙の彼方から不思議ちゃん宇宙線を受信しちゃった自称なんとか症の方々は蒼京都あおきょうと蒼葉原あおばはらの腐女子ちゃんたちで充分だからと青森謙信あおもりけんのぶは思った。地縛霊という癖にちゃんと草履も穿いてますし、なんかここら辺りの畑から盗っ人たけだけしいことをして現在進行形でそのスイカを食べている。

【狸姫】「地縛霊といってもな。数百年も時代を重ねたらなんかな受肉しちゃった的な♪ そういうじゃないの♪」

「(;^ω^)ゴメンねべらぼーめ。理解特定不能だからとりあえず幽霊? 妖怪? 宇宙人? 未来人でい?」

 とりあえず謎の不思議っ子を相手することにした。不思議な言動継続中であるがそれは早くどこかで「死」という区切りをつけて欲しいと青森謙信あおもりけんのぶは望む。その不思議言動に区切りがない永遠の不死は望んでいない。

【狸姫】「異国の教えでいえば、小生は使というものじゃないの。過去、現代、未来を一本で流れている時空の大河――天の川あまのがわがあるじゃないの」

 退屈はしない脳内設定だ。青森謙信あおもりけんのぶはなんとか欠伸するほどではないと安堵の吐息をつく。

「(;^ω^)で?」

【狸姫】「小生たち人が崇める神様の正体は天の川あまのがわじゃないの。そこには死した者たちの霊魂が集い、天の川あまのがわの調子によってそこへへ流れる霊魂はコースアウトし、別の時代の人間として生まれ変わるんじゃないの」

 この徳川家康江とくがわいえやすえ曰く、その天の川で長く暮らせるようになった霊魂の中から「天使」が誕生する。

【狸姫】「大半の霊魂は意識や記憶も天の川の激流に流されて自我崩壊もしくは記憶喪失になるじゃないの。なんとか激流に波乗りし、意識を保っていた者が人類の次の進化の過程――「天使」へと進化できるんじゃないの」

 青森謙信あおもりけんのぶは飽きてきた。

「(;^ω^)で?」

【狸姫】「天使は天の川でを探している。それで天の川に「橋」を建設するんじゃ。大概は失敗するじゃないの」

 退屈感がさし迫ってきた。しんどい。しんどうい。

「――(;^ω^)で?」

【狸姫】「小生はこの現代と戦国時代おおむかしに「橋」を建設し繋げた。つまり貴様は運よく小生と戦国時代へタイムスリップじゃないの、訳じゃないの♪」

「(^_-)-☆面白いお話ありがとうでい♪ 俺はお家に帰るでい♪」

 青森謙信あおもりけんのぶは手を振って振り返り帰路につこうとする。すると、徳川家康江とくがわいえやすえは狸の尻尾でビンタしてきた。

【狸姫】「このドツケ者がぁあああああ!!!! 天の川には枝分かれした支流を作り出せることができるんじゃないの!!! 貴様には小生と一緒に戦国時代へタイムスリップして小生の暗殺を止めて欲しいんじゃないの!!! それで小生の野望!!! この埼玉県最南端――東水田郡江戸津川村ひがしすいでんぐんえどつがわむらを日本の首都にする未来を作るんじゃないの!!!!」

「( ノД`)シクシク…痛いんでい……あのさ痛いんでい……。それさ……人に頼む態度なんでい? べらぼーすぎるでい。なんかお約束パターンでい……」

【狸姫】「あたぼうじゃないの!!!! そのお約束パターンじゃないの!!!」

 青森謙信あおもりけんのぶは徳川家康江をと名乗る少女の獣人?――自称、「天使」と時空の大河――天の川にかけられた「橋」を渡って戦国時代へ行くことになりました。

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