第4話

 二日後の深夜近く、陽介はパンパンのバックパックを背負い、両手に野菜の詰まったビニール袋をぶら下げて帰ってきた。ずいぶんと日に焼けたように思う。

「なんだ、まだ起きてたの」

「もう寝るとこだよ。飯は?食ったの?」

「食べた!会社で。はー!疲れた!」

 いつもと変わらぬ調子で悪びれもしない。

 野菜入りのビニール袋をテーブルに置き、バックパックをドサリと床におとすと、おもむろに靴下を脱ぎだす。

「やめろよ、ここで脱ぐなよ。きたねぇな」

「汚くないよ!毎日洗濯したし。手洗いだよ!機械で洗うよりぜんぜんキレイになるんだよ!」

「ぜんぜんキレイになるってなんだよ。へんな日本語使うんじゃねぇ」

「はは。いや。そのくらい感動したってこと!知らない世界ってあるんだなぁって。オレこう見えて都会っ子だからさ。田舎暮らしなんて知らないからびっくりしちゃって」

 何がこう見えて、だ。お前なんかどっからどう見ても都会育ちの甘ったれだろうが。逞しさゼロだろうが。

「で?そんなんで心境に変化があって別れようって?」

「え?いや、それは。え、あずさのこと?まぁ、それは宏樹には、」

「関係ないっていうなよ。こっちはすでに巻き込まれてんだ」

 腹が立つ。なんでこいつはこんなに呑気なんだ。

「変化って言うか、前から考えてたことだから。ダラダラするより早く整理しなきゃってなって思っただけで」

「久遠さんは整理して切り捨てるもんだったのかお前にとって」

「そんな言い方!」

「そういうことだろうが」

「いや、じゃなくて、ハッキリしないのはよくないっていうか。どっかでケジメつけなきゃいけないし」

 腹から沸き上がる怒りが収まらない。それどころかどんどん膨れて、しまいには陽介に殴りかかる画まで易々と想像できたので、これはまずいと切り上げることにする。冷静な判断ができるうちに。

「まぁ。いい。とにかくちゃんとふたりで決めろよ。久遠さんと。お前一人で決めていいことじゃない」

「わかってるよ」


 『陽介帰ってきたよ』

 久遠あずさに短いメッセージを送る。すると、すぐに返信があった。

 『明日、お時間ありませんか?会ってお話ししたいです』

 『陽介はあしたも仕事だと思うよ』

 そう返信すると、会いたいのは俺なのだと返ってくる。仕事の合間、昼休みで構わないので時間をくれという。場所を指定してくれればそこに赴くというのだ。なんで俺?と思いつつ、明日は外回りの予定はない。終日内勤だ。昼休みなら構わないよと返事をし、会社のマップを送る。

 こうして思いがけず久遠あずさに再会することとなった。

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