第6話 あんこトッピングソフトクリーム屋さん開店しました
小豆をたっぷりのお湯でゆでこぼしてからコトコト煮込み、丁寧に丁寧に灰汁を取る。水の量も重要だ。多すぎる水分は捨てなくてはならない。それは小豆の風味を捨てることになる。砂糖を入れるタイミングも重要。小豆が柔らかくなってから入れないと、硬くなってしまう。
何度も何度も試行錯誤を重ねた小豆を試食する。
「んー!」
思わず頬に手を当てる。やっと、俊助と同じ味になった。これでお店を開くことが出来る。はやる気持ちを抑えてソフトクリームマシンのスイッチを入れた。ネット通販で買った物だ。ソフトクリームのレシピを作るのも大変だったが、何とか理想の味に仕上がった。
外に走り出て、幟を立てる。
「あんこトッピングソフトクリーム」とでかでかと書かれた幟が風に靡く。俊助がこの世で一番好きな物を売るお店を繁盛させて気付いて貰うのだ。
頬を春風が通り過ぎる。希望に胸が沸き立っていた。
――しかし、その希望はすぐにしぼんでしまうことになった。
お客さんが来ないのだ。
開店すればすぐに行列店になると想像していたが、ぽつりぽつりとしか客が来ない。うーんと腕を組んで考える。
『汚らしい小屋だよね』
ベガの言葉にムッとしたが確かにビジュアルは大事だ。
壁に白いペンキを塗り、窓の傍にベンチを作った。ベンチは小豆色にした。ほら、小屋があんこトッピングソフトクリームに早変わり。嬉しくなって鼻の下をこすった。『髭、生やしたの?』とベガに笑われた。
コミュニケーションも大事だ。
「こんにちは。お近くの方ですか?」
お客さん皆に声を掛けることにした。アイスクリームを食べながら、おしゃべりに花が咲く。見知らぬ人同士で交流が生まれることもあった。
「あんこの味が忘れられなくて、また来ちゃったよ」
一時間近くかけて来てくれる人が増えてきた。
「友達に教えてあげたくて」
大勢で来てくれる人が増えてきた。
「畑でとれた野菜置いとくよ」
近所の農家さんとも親しくなった。
今日も丁寧にあんこを作る。
『そんな面倒な事しなくても、姉様並に力を使えるようになったら、一瞬でできんのにさ』
ベガは長い尾っぽを振って馬鹿にする。
「多分そうやって作ったあんこは、もう一度食べたいと思う味にはならないわ」
もらった茹でトウキビを囓りながら答える。ベガは面白くないという様に、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
夕日が頬を暖める。今日も沢山の人に喜んで貰えた。その満足感で心が満たされる。いつか俊助と夕日を見上げた時と同じように。
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