殺意

@Eto_Shinkuro

第1話

 このほとばしる怒りと殺意はどこにぶつけたらいいのだろうか。どこにも、行く当てがない。自分の中で、蒸発するのをただただ待つだけである。


 不倫は、悪いことだけど、不倫は人によって罪のとらえ方が変わる最たる例だと思う。(例の一つ?)殺人は、今の世の中だと、ほぼ罪である。窃盗や、詐欺も罪。不倫は?特に男は、罪の意識のない人間が多いと思う。そして、どの程度の罪なのか、重くとらえているものもいれば、軽く考えているモノもいると思う。そんな中で、どう裁かれるのが正しい?



 そんな人間が、目の前に現れたら。



 衝撃だった。自分の目の前で、不倫劇が繰り広げられていた。50歳近い上司と、25歳くらいの女性社員。吐き気が、した。会社の中で、そんなことやめてほしい。理性ではどう理解したらいいのかわからないけど、感情は、激しく拒否反応を示していた。でも、誰にどうやって訴えていいのかわからない。実際に、現場を目撃したわけではないのだから。私が見ているのは、その、事実のカケラであるから。


 こういう二人は、どのような結末をたどるのだろう。少なくとも、今は、バラ色に違いない。私は、灰色。自分が悪いのだけど。もう、社会からは、売れ残ってしまった。生物的にも無意味な個体。


 地獄に落ちろ、と思う。自分の心がどす黒く染まっていくのがわかる。こうやって、自分の不幸と他人の高笑いに挟まれて、醜い人間が出来上がるのだと思う。私も、そこに、足を踏み入れようとしている。小さいときは、意地の悪いおばさん、なんであんなに意地悪いのだろうと思っていたのに、自分がそういう存在になる予感。私はもう、意地悪なおばさんを責められない。私もそっち側に今からいこう。


 殺したい。本当に殺したい。感情がそう訴える。ナイフで、顔を、体中を、突き刺してやりたい。死ね。


 もう私もいっしょに死んだっていい。人を呪わば穴二つ。私ごときの命一つで均衡が取れるのなら、喜んで差し上げる。私が、死ねなかった、悪意として生き続けるのならば。



 10年後。


 その女は、醜い顔で、会社に居座っている。ざまぁみろだ。どうやら一度、レイプ事件に合ったらしい。男は、事故で声が出なくなっている。みじめな顔だ。


 そして私は・・・毎日、ただ、死にたいとしか思わない。

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