美しい国と不器用な国

个叉(かさ)

第1話のみ



あるところに美しいものが治める国がありました。

その国の法律は、美しいものであることが全て正義でした。


「美しければ優しく、性格が良い」

「美しいものは経験値が高い」

「美しいものは努力を怠らず、自分を磨く」

「美しいものは賢く、人一倍周囲に気遣いをしている」

「美しいものは素直でひねくれていない」


逆に、醜いものは何をしても悪でした。


「醜いものは自分勝手で、性格が悪い」

「醜いものは経験が足りない」

「醜いものは努力せず、自分を貶める」

「醜いものは愚かで、周囲に気を使わない」

「醜いものはひねくれていて、妬み、僻んでいる」


姉妹がいました。

一人は醜く、一人は美しい。


二人は同じ仕事場で働くことになりました。

醜い方はいつも汚れ仕事をさせられていました。

もちろん、美しい方は気を使って醜い方に寄り添います。

なぜなら美しいから。


近くの女の子達も、美しい彼女のセンスがいいから、皆彼女の真似をする。

美しい彼女にあやかりたいのです。

真似る女の子は、見目の悪いものだから仕方ありません。

彼女は気にしません。

モテようと思って、人のものを真似しているのです。

あたかも自分が発信したかのように振る舞うのは容認できませんが、自分に自信がないのだからそうするのでしょう。



美しい彼女は、流れが滞りたまった不浄な水を清掃している醜い彼女に近づきます。


「大変よね。手伝えることがあったら言ってね?」


美しい彼女はそういうものの、ひとつも手伝いはしませんでした。

親方はものすごい剣幕で醜い方を怒鳴り付けました。


「あの子に文句いったんだって?全くとんでもない子だよ。顔も醜いのに、性格も悪いなんて良いところがひとつもない子だね」


その日は美しいものに汚い感情を植え付けた罪で、醜い彼女は食事を抜かれました。





別の日。

同じように美しい彼女は醜い彼女に近づきました。


「どうしてあなたばかりにこんな仕事をさせるのかしら」


美しい彼女は、男の人の隣でおしゃべりして笑うという仕事をしていました。

このおしゃべりが大変です。

彼女としては、相手に気を持たせないように、しかし不快でないようにする。

一生懸命距離をとって気疲れしてしまうのです。

そうしないと、皆が彼女の虜になってしまうのです。

そうしていても、皆が彼女の虜になるのです。

彼女が話を聞いてあげるから、あの彼も、この彼も、皆彼女が好きで、しつこく会話しようといいよってくる。

その癖、バレンタインのチョコレートのお返しなどはショボいのです。

相手が欲しいものを考えず、大したことない菓子の詰め合わせで誤魔化すのです。

こちらは一生懸命選んで、折角あげたのに、です。

高価なバッグでも返してくれたらいいのに。

尽くし甲斐がありません。


そういった心労に比べたら、醜い彼女の仕事はとても簡単そうで、楽そうです。

ものを運んだり補充したり、お茶をいれたり、お掃除したり、走ったり、書類を整理したり、どれも単純作業ばかりです。

ためしに少しだけ、美しい彼女は書類を触ってみました。


「やっぱり簡単だわ。そんなに時間もかからないし。どうしてあんなに大変そうにしているのかしら」


彼女は整理された書類を、適当なところへおきます。


「でも私の仕事ではないから、お返ししますね」


その日、醜い彼女は食事を抜かれ、布団を奪われました。




別の日。

美しい彼女は醜い彼女に近づきました。

化粧を教えてあげようと思ったのです。

醜い彼女の仕事はとても楽そうでしたが、いつもごはんを抜かれているのが可哀想になったのです。


美しくなれば、醜い彼女の待遇は変わる。

そう思い櫛を持ったのですが、美しい彼女は愕然としました。

髪はごわごわ、剛毛でいうことをきかない。

肌はカサカサ皮もむけ、見たこともないような毛穴。

眉も何も手入れされず延び放題なものを必死で整えました。

しかしぼこぼこした肌に眉のかたちも悪く、目も細くてどうしようもありません。

美しい彼女のように、努力していないのです。

手入れをしていないのです。

これは、どうしようもありません。

長年の怠惰が、醜い彼女を作っているに違いありません。


「ねぇ、あなたも綺麗になる努力をしたら?」


その日、醜い彼女は美しい彼女の時間を無駄に使わせた罪を問われました。

それはいつもより重く、裁判になりました。



美しい彼女は、醜い彼女を救おうと必死で走り回ります。


「やはり美しいものは心が綺麗だ」

「なんて良い子なんだろう」

「人のためにあんなに尽くせるなんて」


皆が美しい彼女を褒め称えます。


「それに比べて醜いものはいつも陰気で恥ずかしくないのか」

「反応がないから、何を考えているかわからない。不気味だ」

「あんな女に価値はない」


刑は確定し、死刑になりました。





死刑の日。

隣にある不器用な国から、不器用な男がやってきました。

話を聞いた男は、醜い彼女の引き取りを申し出ました。

美しい国の男たちは不器用な男を罵り、嘲りました。


「あの醜い女は、俺たちの誰とも釣り合わない。物好きだな」

「あの女は性格歪んでるぞ。やめといた方がいい」

「美しい女はわがままを言っても可愛いが、醜い女は醜いだけだぞ」

「もし、あの醜い女が望んだら、連れて帰ったら良い」

「お前の国のような不器用な国に魅力はないし、お前のような不器用な男にも魅力はないだろう。醜い女は醜いくせに理想が高いから、難しいだろうな」


美しい男たちはそういって牢に案内しました。




不器用な男は醜い彼女に声をかけました。


「僕と一緒に来てくれませんか」


醜い彼女は迷わず彼の手をとりました。

国に帰ると、男は聞きました。


「どうして僕の手をとったんだい?」

「美しいものは、人を傷つけるから」


彼女は即答しました。

長年の虐待で、未練もありませんでした。


醜い彼女は、決して醜くはありませんでした。

普通だったのです。

ただ、美しい彼女に比べれば、醜いという程度でした。

ですが、あの国では美しいものは全てでした。



その後、醜い彼女は不器用な彼に尽くしました。

彼女の優しさ、黙っていても通じる気遣い、内面からの柔らかい仕草が、沢山の人を癒しました。

不幸なことに不器用な彼は早くになくなってしまいました。

彼女は彼の妻になることはありませんでした。

子供もいませんでした。

ですが、彼を思う彼女は幸せでした。

彼は、彼女の居場所を作ってくれたのです。

彼の友人達と彼女は、彼の話をたくさん、たくさんしました。

彼らの中に彼は生きていたので、ちっとも寂しくありません。

彼女の回りには、その人柄にひかれた人達がたえませんでした。

彼女はとても充実した一生を送りました。






一方、美しい彼女は、年月とともに表皮が衰えていきました。

彼女が衰えると、驚くことに美しいものたちは手のひらを返し始めたのです。


「内面が美しくないと、外面に影響するものだ」

「彼女は本当の美人ではないから。本当の美人ではないから内面も外面も美しくない」

「中途半端な美人は性格が悪いな」

「性格が悪いものは美しくない。彼女は最初から美しくなかった」

「顔がそこそこでも、狡猾な目をしているとわかるだろう」

「美しさのなかにどこか陰気な雰囲気を持っていた。私にはわかっていた」


成る程、確かにそうです。

美しくないものは醜いのです。


ついに美しい彼女は投獄されてしまいました。

あがけばあがくほど、彼女は醜いとレッテルを貼られました。

あがこうとあがくまいと、結果は同じなのです。

何故ならこの国では、美しいことが法の最上級だから。


醜いと発言権を持たない、醜い彼女はよく知っていたのです。

彼女はとても賢く、達観し、判断に長け、優しかったのです。

美しいものたちはそれに全く気づきませんでした。

いえ、気づいていても、蓋をしていました。

美しいことが法である国では、善悪は美しいかどうかであり、それを指摘してくれる人は誰もいないのです。




美しいもの達の国。

天は二物を与えず、だから美しいものは性格が悪い。

美しいものはちやほやされてることに慣れているから、わがままだ。

原理的に原初的に、古代にかえるほど、人は選民思想に偏り、偏愛は理をねじ曲げる。

優性遺伝によって劣性遺伝は淘汰されるべきものという排他的な危険思想。

美しいのは整形しているから。


それら全て、美しいもの達の国を貶めようとしている怪文書、根も葉もない噂なのです。

それは醜いものの妬み嫉みであり、全くのでっち上げなのです。

美しいもの達が醜いもの達より劣っているなど、あり得ないのです。

自分達が報われないからと、醜いもの達が心の安寧を得るために作り出した嘘は根拠がなく、科学的ではありません。

美しさに定義はありませんが、美しいものは性格がいいと、科学的に証明されています。

醜いものに都合のいい真実は存在しないのです。





伝染病が流行りました。

各国で新たなルールが儲けられ、乗り越えていきましたました。

それは、経験に基づいた対策でしたが、美しいものの国では受け入れられませんでした。

美しいものたちは、自分達のアイデンティティ、矜持を隠すことは耐えられなかったのです。


その後美しい国と美しい彼女がどうなったか。

知るものはいない。












---------------



「常識とは、18歳までに身に付けた偏見のコレクションである」

ーーA.Eーー



あんまり言い訳を書きたくないのですが、このままだと美形嫌いのレッテルがつきそうなので。



美人大好きです。

美人の友達います。

素敵な人です。


ただ、最近の風潮なのか、

モテる女子はひがまれてハブられるから、誰よりも気を使っているので性格がいい、

科学的に立証されている

という考えには同調しかねます。


科学は、1を1と、人間が定義している

その中でも思想の一つを1を1として定義することに、何の意味があるのか


と反骨精神を出したところで、いわれのない中傷はいかんだろうとは思ったので、友達ではない美人の、多少実体験をいれています。




そもそも美なんて抽象的で千差万別。

楊貴妃はふくよかで、クレオパトラはわし鼻っぽいし、ボッティチェリの時代は貧乳だし病気は隠れてる。

ロリ顔巨乳への偏愛なんて、日本人くらいでしょうし。

そんな人達、皆同一に性格良いって言いきるのは、科学でしょうか。


その価値は何なのか、固執する意味は何なのか。

そういうのが伝わると嬉しいです。






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美しい国と不器用な国 个叉(かさ) @stellamiira

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