第39話 勇者と魔王と温泉と その8

「……ゴホン!」

 マオは声が出なかった。目の前にいるのは確かにユウちゃん。そして隣にいるのは……確か一緒に魔王城に来ていた僧侶。ただ仲良く遊んでいる……ようには見えなかった。例えるなら恋人同士がじゃれあっているような感じに思えたのだ。


 なんとかイチャイチャをやめさせようと咳払いをしてみたけれど……マオの胸のドキドキは止まらなかった。


 これまでに感じていたドキドキとは種類が違う。

 ユウちゃんに会えた喜びなんてものは感じなかった。それよりもどうしてこんなところにいるの? どうしてそんなことをしてるの? そんな思いでいっぱいだった。


 マオは黙ったまま二人の前を通り過ぎ、温泉の一番奥まで進むと、そのまま頭の先までボチャンと沈んだ。


「……上がりましょうか、ユウ様」とハンナ。そして湯船に沈んだ入浴客に対して「すみませんでした、うるさくしちゃって」と謝罪すると、「アーッシュ! そろそろ上がるからね!」と岩の向こうに声をかけた。


 静かになった女湯で、何か言いかけたユウだったが、ハンナに言われるがまま、女湯を後にした。

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