第38話 勇者と魔王と温泉と その7

「ちょっ……やめてったら!」

「うふふふふ、やめませーん!」


 裸で抱きついてくるハンナとそれを恥ずかしがって逃げるユウ。落ち着いた雰囲気の温泉がいつの間にやら騒がしい遊び場と化す。二人の間からは、いちゃいちゃだのはぁとといった擬音が聞こえてきそうだった。


 そんな二人だから、女湯に誰かが入ってきたことに気づかなかった。


 すらりとしたスタイルの女性。黒髪のショートカットに頭からツノが二本。彼女もまた一糸いっしまとわぬ姿ではあるのだが、湯気と濃い霧のせいで肝心なところは絶妙な具合で隠れて見えない(見せない)のだ。


 そう、魔王マオもちょうどこの温泉にやってきたのである。


「……ゴホン!」

 わざとらしい咳払いに、ユウとハンナははっと気づき、声のした方を向く。「あらあら、他のお客さんがいらっしゃったのね……失礼しましたぁ」とハンナははしゃぐのをやめ大人しくなった。


 ユウは声の主がマオだと気づいて、顔を真っ赤にして何も言えなくなった。

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