第20話 城下町、市場にて その4

「あ、いや……その……」


 ――どうやらまだ、自分が魔王マオだとは気づかれていないようだ。それもそのはず。ツノは魔法で隠しているから。


 しかしユウは可愛らしいその顔で、真っ直ぐにマオの目を見つめてくる。


 都合のいい言い訳も思いつかず、ついマオは目線を下へ向けてしまった。すると、ゆるゆるの服の隙間からユウのつるぺたな胸元が少しだけ見えてしまったのだ。


「あ、おっ……」

「おっ?」


 プシュー!


 マオは顔を真っ赤にして、見えていないはずの二本のツノから蒸気を思いっきり吹き出した。それと同時に魔法が解けて、ツノがあらわになる。


 街中で突然蒸気が噴き出たものだから、周囲にいた人々は何事かとざわつき始めた。視線がマオとユウに集まる。


(ああ、ごめんなさい……見ようと思って見たわけではないの……いや、もちろん全部は見えていないんだよ! でも少しだけ、少しだけ見えてしまったの……ああ、もう一回見たい……)


 マオはもう、まともな思考ができなかった。

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