第参話 薙道
幽原は言葉を重んじる文化が根付いている。それは言葉を尊ぶというよりも、災禍の根源として厳戒のもとに扱うという意味合いが強い。これは、幽原研究の界隈では常識的な事であるが、幽原と関わりのない人々は当然知らない。
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良さんの高校1年時の同級生、
しかしながら、昔からの幽原の民は薙道ひなみをはじめとする薙道家に対して冷ややかな態度をとった。薙道家の者が幽原の民に挨拶をしたら返してくれるものの、幽原の民が薙道家の者に話しかけることはなかった。強いて言えば、標辺守要が薙道ひなみに対して、標辺神社境内に生えている楠に毎日参拝に来るようにとしつこいまでに言っていたくらいである。良さんが標辺守要に楠へ参らねばならない理由を聞いたところ、
「話すほどの事じゃない・・・それに、話したところで湯原はきっと信じない」
と言われたらしい。以下はその続きの会話である。
「いや、そんなの聞いてみないとわからないでしょ」
「本当に、話すほどの事じゃないから」
「えぇ、余計気になるんだけど」
「・・・気をつけた方がいい。幽原で言葉を使うということは、湯原が思っている以上に危ない。ここで使う言葉は、他愛のなさそうなものでも、強烈に意味を持つ」
「ふぅん・・・」
良さんはそれ以上会話を続けなかった。尚、薙道家は信心深い家でなく、幽原へ越して来た時以降、標辺神社に足を運んだことは無かったらしい。
薙道ひなみが亡くなったのは11月の頃である。黄昏時の終わり頃、雑木林沿いの農道を1人で歩いていたところを熊に襲われた。その時に現場検証を行なった刑事の話によると、現場は凄惨であったらしく、雑木林と道の境にあるフェンスは薙ぎ倒され、薙道ひなみの身体は八つ裂きにされ頭のみを持って行かれていたという。
葬儀は身内でのみ行われ、遺体の確認も両親のみが行なった。薙道ひなみを襲った熊は1ヶ月後に猟友会によって仕留められた。
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