第弐話 二分半鐘

 未来台は、宅地開発に伴って名付けられた名称で、田畑であった時は『二分半鐘にぶんはんしょう』と呼ばれていたという。良さんが標辺守幸ーに聞いた話だと、江戸時代、標辺神社神主であった標辺守仙治しるべもりせんじが命名したらしいが、二分半鐘に火の見櫓は建てられておらず、その辺りで半鐘が鳴らされるような火事や洪水があった記録は無い。

 

 私が宅地開発を行なった業者のN氏に話を聞いたところ、社内に二分半鐘の名を知っている者はいなかったらしい。話の流れで土地買収時の思い出話を聞かせて頂いたが、その買収はN氏が経験したことない程すんなりと進み、言い現せぬ不気味さを覚えたという。


「普通なら条件の駆け引きやらがあるはずなのに、何もありませんでした。あくまで私見ですが、その地主達が、どこか厄介払いをしているように見えたんですよ」


 二分半鐘の命名の由来は未だ不明である。尚、江戸時代後期に制作された『幽原拾遺集』には、標辺守仙治は予知を行うことができたという旨が記されている。

 

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