第287話 【なんか】四長老(四大聖堂主教)が俺以上にノリノリでイケイケな件について【なんでよ?】
さて、サンクトペテルブルグ四大聖堂主教、四長老の爺様たちに事情を説明したんだが……
「ほっほっほ。このソチから聖職者、名に聞き覚えがありますのぅ」
「長老たちの知り合いなのか? それなら話が早いかもな」
「ええ。ええ。お任せくださいませ。枢機卿猊下のお手を煩わせるようなことにはなりますまい」
「ですので猊下、”
まてや。
謁見ってなに? ”聖ゲオルギウスの間”って玉座の間じゃん!
「謁見じゃなくて事情説明な? あと宗教がらみだからいつものどこかの聖堂の”円卓の間”でやるつもりなんだが……」
各聖堂にはそれぞれ俺と長老たちで会議を行う”円卓の間”を用意してもらっている。
無論、元ネタはアーサー王伝説のアレだが、「神の元の平等」の暗示でもあるし、四大聖堂に上下も貴賎もないって象徴であり、枢機卿……総督の俺と爺様たちの間にも上下は無いって意味でもあるんだが。
だからこそ、会議の開催も月替わりの持ち回りでやってもらってるんだけどな。
「むぅ~。枢機卿猊下は近々大公になられるお方、玉座にお慣れになった方がよろしいと思いますがのう」
「儂も同意見じゃ。それと玉座に座る枢機卿猊下の左右儂ら四長老で固めるのもやってみたいのう」
「勘弁してくれ。俺はまだ正式には大公じゃないんだ」
気軽に冗談を言ってくれるぐらい打ち解けてくれたのは嬉しいが、
「第一、玉座に座っていいのは国王や皇帝であって大公じゃないだろ?」
どちらかと言えば、玉座に跪く側だ。
「サンクトペテルブルグでは大公殿下より上がいないので仕方ありますまい」
そりゃそうなんだけどさ。
「一応、大公領になってもドイツの保護領って扱いだからな?」
なのでドイツの法律を無視するって訳には行かない。
まあ、日本語的な意味での条例に近いローカル法の制定や追加、施行はできるがあくまでドイツ法に則った上でのそれだ。
「しかし、玉座に誰も座らなければ、今は亡き陛下が寂しがるかもしれませぬなあ」
あー、もう。
「わかったわかった。大公に就任したら、なんかのイベントとかで考えておくから」
あくまで考えるだけだからな?
そこっ! フラグとか言うんじゃない!
「ここはせめて”ピョートル大帝の間(小玉座の間)”で一つ」
いや、それこそあそこって「ピョートル大帝の偉業を称えるモニュメント」ってだけで実際には、間として使われてないじゃん。
「わかったわかった。宮殿大聖堂の修復急がせるから、そこで何かのイベントやることで手を打とうか」
あそこも共産主義者に荒らされたままだからな。
来年の
************************************
後日、実際にソチから使者がサンクトペテルブルグに来訪する。
政治の方は代理人(元政治局員だったか?)だったが、聖職者の方は宗教部門のトップらしい。
「という訳で、神に祈ること、正教の教えを守ること、正教徒であることは何の問題もないが、ロシア正教としては容認できないんだ」
「は、はっ! 委細承知でございますっ!」
爺様たちや……そんな『逆らったらわかってんだろうな? オラァァァァーーーン!』みたいな雰囲気出すのやめてやれ。
可哀想にあっちの聖職者、すっかり萎縮しちゃってんじゃん。
これじゃあ圧迫面接だっつーの。
いや、爺様たちに悪気がないのはわかってるけどさ。
「それさえ理解してくれているのなら、サンクトペテルブルグを預かる者として諸君ら31万人を受け入れることを約束しよう。ただし、一度に全員ではない。都市の拡張、諸君らが住む場所を確保しなくてはならないからね」
まあ実際、インフラ整備にさらに力を入れないとならないが、労働力の確保ってのは確かに助かる。
加えて助かるのは、31万人中5万人は元公務員や元軍人だってことだな。
「聖イサク大聖堂主教」
「はい」
正式な役職名を呼ぶたびに、なんで爺様たちはドヤァ顔をするんだろうか?
「サンクトペテルブルグには、まだ使用可能な無人の空き教会はいくつかあったね?」
「御意。後でそれぞれ四大聖堂の教区ごとにまとめたリストをお持ちしましょう」
「ありがとう。君たちソチ組にはそのいくつかを任せることになるだろう」
さて、これは言っておかないとな。
「教会を復活させることは信仰を蘇らせるのと同義だ。存分にやりたまえ」
***
とりあえずの話し合いが終わったら、「聖職者同士で詰めの話がある」と聖職者を連行して四長老は別の部屋へ行ってしまった。
手持ち無沙汰になった俺、フォン・クルスは暇つぶしにソチの政治代表と少し世間話でもしようと思う。
「枢機卿猊下、この度は御拝謁を許してくださりありがとうございました」
「なに、これも”総督”の職務の内だ。いざサンクトペテルブルグに来てから『こんなはずではなかった』では、双方にとり不幸でしかない」
『今回は、総督として会ったんだよ~』と『31万人の不穏分子抱える気はねーから』と暗に釘をさしておく。
「格別のご配慮に感謝を」
「格別じゃない。当然の配慮だ。甘く聞こえるかもしれんが、私が管理する土地に住まう民には不幸になってほしくない、出来れば幸せになって欲しいだけだ。信仰の自由を保証するのもその一つと考えて貰っていい」
まあ、幸せっていうのは人それぞれ。お祈りするのが幸せってんなら、そうすりゃいいってだけの話だ。
「では、”総督閣下”にお聞きします。閣下にとり信仰とはなんでしょう? 聞けば、閣下ご自身は正教徒ではないとか」
おっ、踏み込んでくるね?
「信仰とはそれぞれがもつ心の光さ」
「”心の光”……?」
「ああ」
俺は頷き、
「神は無限にして永遠の存在、世界や人類を創造した存在だろ? 聖書によれば、神は自分の姿に似せて人を創ったとされるが、だからといって真の全知全能ならば人の叡智が及ぶような存在ではないと思うんだよ」
おそらくは三十次元以上の存在……魂をまるでデータコピーのように転生させるような存在だ。
ぶっちゃけ、人間がどうこうできるような物じゃない。
「人の価値観も思考も信仰も、全て人が作った物だ。神が”こうあれ”と創った物じゃないと考えるべきだ。だから人それぞれの信仰が、それぞれの神の姿があってよいと思うのさ」
「それが”心の光”と?」
「なあ、信仰とはそもそも何だと思う? 俺は祈りの本質は、”願い”だと考えている」
「願い、ですか?」
「ああ。現実ってのはいつも残酷で、誰にとっても優しくはない。私もその例外じゃないのさ。特に戦争だらけのこんな時代ならそうだろう。だけど絶望だけでは人は生きていけない。だが、自分の力ではどうにもならない……ならばどうする? 人知を超えた”神”という存在に祈りを通じて願う。先の見えない闇の中で見つけた一縷の望み、光を求めて何が悪い?」
まあ、俺の主観だがな。
「私は正教信徒でもなければ宗教家でもない。神が何なのか語る口は持たんよ。だが、民がそれを求めるなら、可能ならばそれを叶えようとするのが為政者というものさ」
うん。やっぱり俺は正教徒にはなれんな~。自分で言うのもなんだが、宗教的には異端もいいとこの考え方だわ。
「……宗教家ではないと、どの口が言いますか」
あれぇ?
「なるほど。正教徒に帰依しないのは、ご自身にかけたリミッターという訳ですか。さもありなん。”猊下”が大主教や守護聖人になられた日には、それこそ歯止めがきかなくなりますからな。宗教が暴走したときの恐ろしさは、
うんうんと一人で納得しないで欲しいんだが?
というか、この男、本当に政治局員か? なんかコメディアンと言われても違和感ないんだが。
「いや、流石にそこまでの影響力はないと思うが……えーと、すまん。もう一度、名前聞かせてもらえるか?」
いや、書類で読んでるはずなんだけど、なーんか引っ掛かるんだよなぁ。
喋ってみたらわかったんだが、このノリってどこかで……
「”
思い出した!
リュシコフって極東ソ連軍の情報を大日本帝国に売った……
(国家保安委員じゃねーか! しかも元クソッタレエジョフの部下!)
そしてエジョフの失脚で自分も粛清対象であることに気付き、保身のために日本に亡命したっていう……まあ、判断力や柔軟性のある男だ。
(今生では極東ではなく東部戦線にいたのか……)
別に不思議な話じゃない。
日本皇国は、樺太や北海道の北部方面の防衛には腐心しているが、大陸権益には興味を示していない……というより、中国大陸や朝鮮半島に関わること自体を拒絶している。
レンドリース品の搬入ルートはあるものの、日米ソの関係は険悪であるだけで表立って敵対しているわけでもなく、一触即発の軍事的緊張状態にはなっていない。むしろ政治的挑発はお互いよくやっているが、軍事的(物理的)挑発はむしろ互いに自重していたりしているのが現状だ、
逆に言えばソ連と日本は直接的に接触する機会がない。
「あー、リュシコフ
するとリュシコフはニヤリと笑い、
「猊下が買って下さるので?」
「……NSRに口利きしてやる。値段には色をつけるようにしてやろう。サンクトペテルブルグで生活するなら、先立つものはあった方が良い」
「ありがたきに」
恭しく頭を下げるが、どこかその動作は胡散臭さを感じる。
(ああ、こいつは典型的な狸だわ。臭いで分かる)
決して善良ではない。むしろ、悪徳側だろう。だが、
前世記憶に残るスターリンやエジョフやベリヤのような肥溜めじみた腐敗臭ではなく、こいつは政治的動物の獣臭さだ。
(そして、サンクトペテルブルグに必要な手合いでもあるな)
マキャベリストな政務官ってのは、存外に貴重だしな。
現状、政務官のジレンコフとかの負担が大きくなりつつあるし。
「ところで奥方と娘さんとは合流できたのかね? 後は君の家族もだ」
リュシコフはギョッとして、
「ソチにいますが……どうしてそれを?」
「私とて会談する人間を何も調べない訳じゃないさ」
うっそぴょーん。前世記憶的にそーじゃないかとカマをかけてみただけだ。
前世ではたしか、本人以外は脱出に失敗してほとんど家族と身内全員殺されてるし。
「おみそれしました」
今度こそ本心から頭を下げるリュシコフに、
「正式にサンクトペテルブルグへの移住したら、冬宮殿に尋ねにきたまえ。少なくとも妻子を食わせられる程度の仕事は斡旋しよう」
「……どのような仕事を?」
「”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます