第161話 とある大佐の華々しい(?)最後と、フライング・ミキサー(仮称)
”ドウッ!!”
”べしゃっ!!”
「大佐ぁっ!?」
1942年初旬のその日、リビアの荒れ地にて50口径弾の直撃を浴びたフィリベール・ルクレール大佐の肉体は上下に分割(もう少し飛び散ったパーツは多いかもしれない)され、二度と元に戻ることは無かった。断末魔の悲鳴さえなかった。
痛みすら知覚する前に魂と呼べるものが、肉体から強制解放されたのだから無理もない。
共産主義者に喧嘩売る言い方をすれば、無事に”天へ召された”のだ。
史実では47年まで持つ寿命が5年縮み、死因が航空機事故ではなく銃撃による戦死だったが、歴史から見れば誤差の範囲だろう。
かくて、ルクレールが救国の英雄になるチャンスは永久に失われた。
***
「たーまやー」
いや、小鳥遊君や。それなんか違わね? というか榴弾当てた訳じゃねーから、別に爆散→ひき肉変化してないからな?
ああ、下総兵四郎だ。
どうやら、推定ルクレールが上下2分割されたようだ……なんかこう書くと字面がえっらいシュールだな。
それにしても、
(思ったよりは威力があるな……)
戦闘機や対空機関砲として使う場合、皇国軍でメジャーなのは空気信管を備えた”マ弾”って榴弾なんだが、試製二式長距離狙撃銃で使う銃弾は撃つ相手が違うんだから当然違う。
そんなもん人間相手に榴弾とか使ったらハーグ陸戦条約とかジュネーブ条約的にアウトだ。
という訳で、対人用の12.7㎜×81(50口径)弾も当然ある。
付け加えると対人用弾頭は、最近になってこれも303.ブリティッシュ弾のMk7やMk8を参考に開発された新型弾に更新されてきてる。
単純に言えば、弾頭をMk8のようなボートテイル状にして空力的に洗練(整流効果)させ射程を延伸、弾頭の中身をMk7のそれを参考にした二層構造……先に鋼鉄製の
Mk7の場合は先端に入れるのはアルミとかなので、あっちは貫通力よりも重心調整とタンブリング効果に主眼を置いているが。
むしろ、構造的には前世のSS109(NATO標準5.56㎜弾。米軍ではM855)の方が構造が近いか? 先端にエアスペースがあれば旧ソ連の5.45㎜×39だが。
まあ、難しく考えなくても「射程が長く、弾道が安定しているのでそれなりに当てやすい半徹甲弾」的な理解で良いと思う。
「ちょっと遠いかと思ったが、結構、当たるもんだな。思ったより銃も弾丸も精度がいい」
フランス植民地軍(それともチャド軍か?)までの距離は、大体1,300m。
一応、二式長距離狙撃銃の理論上の有効射程は1,000mってことらしいが、
まあ、前世じゃあ同じ50口径の狙撃銃で3㎞以上なんて冗談みたいな距離の狙撃を成功させた
だからナーディアちゃん、そんなキラキラした目で見られても正直、反応に困るんだが。
「大尉殿、次はどうします?」
「まだ連中、どっから撃たれたか気づいてないな……」
まあ、そりゃ普通は1㎞以遠から撃たれた経験なんて無いだろうからな。
本来の狙撃なら、ターゲットを仕留めた以上、相手にこっちの射点がバレてないなら気づかれないうちに移動するべきなんだが……
弾倉はオリジナルのヘカートと同じ7連発。チェンバーに1発入れるコンバット・ロードにしてたから、1マガ丸々残っている。
(まあ、今回は阻止攻撃としての狙撃だしな)
「ここにとどまり、適当にフランス人将校を目減りさせるか」
正直、次の射点に移るまでの時間が惜しい。
それに今回、日陰に繋いであるラクダに乗ってきたお陰で、徒歩に比べれば重装備が運べている。
そして、伏せてる岩場も中々にバリケートとして優秀だ。
(そういえば、英国にはボーイズ対戦車ライフルとかあったな)
あれも改良すればロングレンジ・スナイパーライフルとして使えそうだ。
いや、それ以前にこの二式長距離狙撃銃をボーイズの13.9㎜x99(55口径ボーイズ弾)仕様にした方が手っ取り早そうだな。
俺の記憶が正しければ、前世ではボーイズライフル自体も中華民国で試験的に狙撃銃として使われたって記録があった筈だし。
(帰ったら書面にして提出してみるかね~)
なんか、後で「作ってやったから、言いだしっぺのお前が試せ」とか言われそうな気がするが。
そんなことを思いながら、俺は再び引き金を引く。
***
さて、2弾倉分も撃った頃だろうか?
ようやく射点を割り出したらしい植民地軍だかチャド軍だかがわらわらとやって来る。
確か史実だとルクレールが率いてたのは、
まあ、今もそのくらいいそうなんだが……
(正直、そこまで脅威には思えないんだよな~)
と引き上げ準備……に見せかけた移動。
パナール装甲車の25㎜機関砲と撃ちあうのは、流石に分が悪い。
そして、俺たちの”足止め”という役割は、半分くらいは果たした。
背後の上空から聞こえてくる爆音……そーら、”空飛ぶ悪魔”のお出ましだぜ?
******************************
「お~お。こりゃまた派手だねぇ」
低空を飛んできたのは、二式複座襲撃機”屠龍”。
そう、リビアの一連の戦いで試作型が登場したあの機体だ。
今回、実験前線基地に持ち込まれていたのは、”より量産型に近い”形の先行型だった。
つまり、
「ホ203って思ったより威力がエゲつないな……」
目的としては量産型の武装テストベッドとして6機が基地に持ち込まれ、その内4機が飛んできてるんだが……
まず、お約束の翼下に鈴なりに搭載したRP-3空対地ロケット弾の攻撃から”屠龍”の攻撃は始まった。
弾頭は歩兵と軽装甲車両ばっかだと分かっていたからか、弾頭は地面に着弾した途端に水平方向に封入した3600個の鉄球(いや鉛玉か?)を爆散させて撒き散らす対人クラスター型。ご丁寧に焼夷効果があるバラ玉も混じってるな。
そして、一旦は上昇して急降下爆撃(屠龍は元々は多目的双発戦闘機として開発されたから急降下爆撃ができる)で、250kg級と思しき対人キャニスター弾(悪い。正式名称は知らないんだ。まだ試験運用中だと思った)を投下する。
ああ、これは具体的にどういう物かって言うと、重さ45gの
そして、クライマックスは機首に搭載された”ホ203/37㎜機関砲”だ。
毎分120発の発射速度を誇る軽戦車の主砲に匹敵する口径のこの機関砲、そこから発射される徹甲榴弾は面白いようにフランス製の車両を破壊してゆく。
だが、弾丸での攻撃はそこで終わりという訳ではなく副武装の”下向きの斜め銃”として搭載された4丁のホ103/12.7㎜機銃が、
フランス人も率いられたチャド人も冗談では無いだろう。
ロケット弾や爆弾での攻撃は、基本的に1回きりだ。
だが、”屠龍”は自動装填の37㎜砲をぶっ放しながら迫ってきたと思ったら、上空を飛び抜く間際に50口径弾の集中豪雨を振らせて行くのだ。
そして飛び去り→反転→再突撃を弾が尽きるまで繰り返す。
ホ103は最近マイナーチェンジを受けて発射速度が毎分800発→900発に向上したって聞いてるから……4丁合計で毎秒60発レートで俺の長距離狙撃銃と同等の威力(おそらく目的からしてマ弾じゃなくて半徹甲弾だろうし)の弾丸が降ってくるなんて想像もしたくないもんだ。
確か屠龍1機で37㎜砲弾を30発、12.7㎜弾を1丁あたり300発は搭載してるからトリガーを引きっぱなしにしても、前者で15秒、後者で20秒の射撃が可能な筈だ。
しかも、テストパイロットってのは例外なく腕が良いから、小刻みに効率よく、何度も
なんか、その様子はイワシの大群を包囲して貪り食うシャチの群れを連想させた。
フランス人はどうやらまともな対空兵器も、あるいは歩兵の対空射撃訓練もしてないようで空中の連中はやりたい放題だ。
「さて、降伏するまであと何分だ?」
降伏した方が幸福になれるぞ~。きっと、多分。とか内心で呟きつつ、俺と小鳥遊君、そしてナーディアちゃんは新たな狙撃ポジションに着くと、とりあえず作業的に㎞レンジの長距離狙撃を再開するのだった。
いや、下手に近づいたら確実に鋼鉄の嵐(あるいはミキサー)に巻き込まれるし。
ヤンキー相手に使ったら、”フライング・ミキサー”とか呼ばれるのかねぇ。
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