第122話 後の世に”サンクトペテルブルグの三羽烏”、あるいは”総督閣下のトリプルS”と呼ばれる漢たち




「とりあえず、すぐに生産再開ができそうなのは、ロケット弾と短機関銃か……」


 さて、何故かサンクトペテルブルグ総督と誤認されがちな来栖任三郎だ。

 とりあえず、欧州ではフォン・クルスでも通るらしい。

 正確には総督じゃなくて、”サンクトペテルブルグ再建委員会全権代表”な?

 長い? 知ってる。

 だから、総督って通称の方が広がっちまったんだよなぁ~。

 

 それはともかく、レニングラード攻略戦終了後、つまりサンクトペテルブルグとしてのリスタート宣言をした後に、

 

「資本主義とは働いた分だけ金が手に入る仕組み、労働の対価として賃金が支払われることだ。その給金で飯を楽しみ、酒を楽しみ、女を楽しむ。資本主義とはつまり、働いた金で自分の”人生の楽しみ”を買うことがその根幹なんだよ。なあ……共産主義の下にいて楽しいと思ったことはあったか? 最後に腹の底から笑ったのは、いつだったか覚えているか?」

 

 なんて話をした傍ら、元共産主義者でもいち早く地銀の重要性を悟ったサンクトペテルブルグ現地住人ネイティブに対価を支払い、我らが新たな庭となったサンクトペテルブルグの市内に散らばる面白ネタを探ってもらった。

 

 そうしたらまあ、宝の山・・・が出てくること出てくること。

 どうやらソ連軍、ドイツの攻撃の合間を縫って製造機械やら治具やらを、地表の工場から強制徴用して住民に掘らせて作らせた半地下ないし地下の保管場所に移動していたのだ。 

 ただ、ドイツ人やスオミ人の攻撃が激しすぎて製造再開する前に街から叩きだされたわけで、結果として残された無事な代物があちこちから発見された。

 予想外なのは発見された数で、史実でドイツ軍に包囲され、攻撃されながら1941年7月~12月だけで、

 

 ・戦車500両

 ・装甲車600両

 ・野砲2400門

 ・機関銃1万挺

 ・砲弾300万発

 ・ロケット砲3万発

 

 なんて物量を生産できた秘密の一端が分かった気がしたぜ。

 

 

 

「あと、牽引式の榴弾砲や重砲、野砲も早期の製造再開が可能っぽいですね? 迫撃砲などの生産も難しくはないでしょう」


 とはシュペーア君の弁。


「機関銃や小銃は弾の規格が違うからあまり作る意味がないしな」


 例えば、俺が改良型の製造を画策しているPPSh-41短機関銃、その使用弾である7.62x25mmトカレフ弾(一時期、日本でも銃犯罪に使われ高い貫通力で話題になった)はほとんどドイツが大量に備蓄している7.63x25mmマウザー弾のコピーで、互換性がある。

 だからこそ、計画を立てているのだが……

 

(小銃弾は別物なんだよなぁ)


 ソ連が使っているのは7.62x54mmR弾。Rの一文字からわかるように皇国ではおなじみの英国系7.7×56mmR弾(.303ブリティッシュ弾)と同じ縁ありリムドカートリッジだ。

 これに対応したドイツの小火器はないし、

 

(この時代のソ連製の小銃や機関銃ってどれもパッとしないんだよなぁ)


 正直、これなら生産を拳銃弾を使う短機関銃サブマシンガンに絞った方が良い。

 史実でさえ鹵獲したPPSh-41を”MP717(r)”と称してドイツ軍は喜んで使ってたくらいだ。

 

 だが、TT-33トカレフ、テメーはダメだ。

 安全装置がついてなくて、その分、引き金を重くして安全装置代わりにするとか邪道もいいとこだろう。

 

(鹵獲なんて供給不安定な方法を使うぐらいなら、自前で生産した方がマシだしな)


「とりあえず、PPSh-41はそのまま使うんじゃ少々具合が悪い。基本構造は変えずに内部をクロームメッキして強度と耐腐食性を上げ、動作不良を起こさない程度にボルトを重くして耐久性を上げると同時に発射速度を落とそう。リアサイトは射程距離から考えてL字型の2ポイントの簡単な奴で十分だ。ドラムマガジンは製造に手間がかかる上に給弾精度が悪い。1㎜厚の鉄板をプレス加工した箱型弾倉を作るぞ。35連くらいいして二本持てばドラム型1個と同じ装弾数になると言えば文句はでまい。ぶっちゃけそっちの方が軽いし動作が確実だ」


 たしかペイペイシャーの改良ってこんな感じだったよな?

 あれ、重さの割には発射レートが早すぎて、おまけに反動抑えるのにあんまり形状も考えられていないからコントロール性が悪く、銃自体の命中精度も良くはないから無駄弾出やすいんだよなぁ。

 発射速度を落とすのは、コントロールのしやすくするのもあるが、銃への摩耗などの負担が小さくなるメリットもある。


「ああ、どうせ木製なんだからストックも変えるか……ストレートのショルダーストックとピストルグリップ、フォアグリップも付ければコントロールはしやすくなるし、幾らか命中精度もあがるだろう」


 いくら短機関銃の本質が、「近距離でもホースで水を撒くように弾をばらまくこと」だとはいえ、コントロールしやすくて当たるに越したことはない。

 例えば、戦後のヘッケラー&コッホ社の”MP5”短機関銃が世界中の治安機構に採用されるベストセラー・サブマシンガンになった理由は、「短機関銃の割に命中精度が高く、反動を抑えやすくコントロールしやすい」からだ。

 うすぼんやりした前世記憶で使った覚えがあるが、ありゃ良い銃だったと思う。


 メモに改良点と照準器やマガジン、ストックのデザインラフ画を描きながらツラツラと喋ってると、何故だかシュペーア君はギョッとして、

 

「総督閣下は、銃器にも詳しいのですか?」


「まあ、趣味程度にはね」


 一応、前世の仕事道具でもあったし。

 それにしても、ドイツ政府から護身用の官給品としてクロームメッキ処理した銀色(プラチナの勲章に色合わせたのかな?)のワルサーPPKが勲章と一緒に贈られるとは思わなかったな。

 いや、既に私費で買ったワルサーP38持ってるんだけどね。拳銃所持許可/携行許可出てたし。


(ドイツの拳銃と言ったら、やっぱりワルサーP38なんだよなぁ)


 多分、俺は前世で某怪盗三代目世代だったんだろう。

 他人事のように聞こえてしまうかもしれないが、実はあんまり前世記憶って情報によってかなり”ムラ・・”があるんだわ。

 数字のように酷く鮮明な物もあれば、記憶というよりイメージに近いぼやけた物もある。


「ほほう。何やら聞いてるだけで使い勝手のよさそうな短機関銃ですな?」


 と声をかけてきたのは、軍から連絡将校として出向して来てくれている”クラウザー・フォン・シュタウフェンベルク”少佐だった。

 フォンってついてるように俺と違って本物のプロイセン貴族、伯爵様の家系だ。

 ついでに言えば、シェレンベルクと違うタイプのハンサムだな。

 

 

 

 つまり、俺のサポートとしてNSR(国家保安情報部)からお目付け役兼情報担当のシェレンベルク、軍需省から復興/生産計画担当のシュペーア君、そして軍からはアドバイザーとしてシュタウフェンベルク君が来てくれた訳だ。

 豪華な面々であることは間違いないが……この三人、妙に顔面偏差値高くね?

 理由もなく自信無くしそうになるんだが……


「ロケット弾はJu87Dスツーカの改造型……Ju87Dのいくつになるんかな? もしかして史実では計画だけあったE型かもしれない。に搭載できるようにするみたいだから良いとして……」


 ソ連自慢のRS-82/RS-132はRO-82レール型発射装置ごと有効利用させてもらおう。

 シュペーア君に聞いた話だが、Ju87Dのビッグマイナーチェンジがもう動いてるらしい。

 要するに、スツーカの後継がまだ固まってないから、少しでも陳腐化を遅らせたいようだ。

 内容を聴く限り、史実では43年登場のJu87D-5っぽい。エンジンも出力増強装置使わずに1500馬力発生するJumo211Pが設定されてるみたいだしな。

 おそらく、その仮称Ju97Eにロケット弾発射装置が追加されるのだろう。

 おそらく来年にはお目見えするだろうから、

 

(ロケット弾の製造は少し急がないとな)


 無誘導ロケットは命中率が悪い分、数が物をいうからな。

 それに、

 

「地上型のM-8/M-13カチューシャの再生産も急いでくれ。あれは必ず必要になる」


 この先の戦争を考えると地対地型も手を抜けない。


「そういえば、ユンカース社からシュトゥルモヴィークの調査がしたいと打診が来てましたな。何でもJu-87の後継機の参考にしたいとか何とか」


 とはシェレンベルク。

 ああ、そういや無傷のIl-2の現物が手に入ったんだよな。

 それも結構な数。

 

(あー、やっぱ史実通り行き詰まって、いや煮詰まってたかぁ)

 

「了解した。調べたければこっちに技術者や機材と一緒に来いと伝えてほしい。”尾翼が回転する変な機構”を取り付けようとしなければ開発だけでなく生産も協力する準備があると」


 Il-2の治具とか普通に手に入ったし。


「尾翼が回転? なんの話ですかな?」


「そんな噂を聞いたことがあるだけさ」


 前世でね。たしかJu187だったかな?

 いやさ、後部座席の回転機銃をリモート式にして、しかも射撃に邪魔な垂直尾翼を射撃時には根元から回転させるとか……もう、発想おかしくね?

 いや、後部機銃ってそこまで重要視するものか? あれって背後から迫る敵機を射撃ポジションに付かせない、基本は追っ払うための装備で撃墜できれば超ラッキーって代物だぞ。

 はっきりいえば、そんなに敵機が怖ければ重装甲にするか空戦能力を上げた方がずっとアイデアとして健全だ。

 Jumo213なんて良いエンジン使うなら尚更だ。


(いっそ、Il-2と言わず”ドイツ版Il-10”みたいな機体を期待したいもんだ)


 Jumo213はまともな燃料を使えれば潜在的には出力増強装置使わなくても2,000馬力級エンジンだ。4バルブヘッドのJ型が開発前倒しできればより確実だろう。

 そうなれば、こんな機体の開発も夢ではないはずだ。

 この時代の航空機は、エンジンさえまともなら、わりと何とかなる物だ。

 



***




「それにしても、火砲が手に入るというのは普通にありがたいですな。あれらの装備は戦場では不足しがちですし」


 シュタウフェンベルク君、実はそこが悩みどころなんだよ。

 

「例えば迫撃砲、特に82mm迫撃砲の”BM-37”とか射程の小さな奴は問題ないんだよ。多少命中精度が落ちるだけで、ドイツの8cm/sGrW34迫撃砲の砲弾がそのまま使えるし」


 実はドイツのsGrW34迫撃砲の口径は81.4㎜。対するBM-37の口径はきっかり82㎜。sGrW34はソ連の迫撃砲弾は使えないが、その逆は多少命中精度が荒いことになることに目をつぶれば普通に使える。

 

「カノン砲や榴弾砲は、独ソ共に15㎝級だが、ドイツは149.1㎜、ソ連は152㎜だ。3㎜の差は想像以上にでかい」


 正直、やりようによっては149㎜の砲弾を152㎜で撃てるように互換性を持たせることはできるが、正直、あまりお勧めはできない。

 射程の短い迫撃砲なら無視できる命中精度も、射程10㎞を超えるカノン砲や榴弾砲では、無視できない誤差になりかねない。

 

 ちなみに149.1㎜って口径は割とメジャーで、日本とイタリアの15㎝級の砲は砲弾自体は共通ではないが口径は同じく149.1㎜だ。

 これは偶然とか、あるいは別世界で枢軸だからって理由ではない。

 開発の出発点になった大砲の一つが、第一次大戦で鹵獲した”15cm/sFH02”などのプロイセン重砲だったからだろう。


「ふむふむ。ごもっともごもっとも」


するとシェレンベルクはしたり顔で、


「規格の異なる重砲を回されたところで、確かに正規軍・・・は喜ばないでしょうな」


 そして、ニヤリと笑い、

 

「ですが、我々には”奪った赤軍装備”の扱いに慣れた、頼りになる同胞がいくらでもいるではないのですかな?」


 あ~、そういう。














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