第81話 来栖とゲルマン空母




ラトビア、軍港都市”リガ”

 

「う~む。やっぱ異世界だよなぁ。ここって」


 いやだってさ、

 

「まさか、ドイツが空母、それも正規の装甲空母を三杯も持ってるってのは……」


 現在、リガにはドイツの装甲正規空母グラーフ・ツェッペリン級1番艦ネームシップ”グラーフ・ツェッペリン”、2番艦”アドミラル・シュトラッセ”、3番艦”ドクトル・エッケナー”が3隻揃って護衛艦隊や補用艦艇共々舳先を並べていた。


 現在、リガは急ピッチで機能回復が行われ、急速に軍港としての機能を取り戻していた。

 というのも、ソ連が元々ここに大した艦艇や船舶を置いてなかったせいもあり、あまり港に”焦土作戦”が行われなかったのだ。

 というか、まさかドイツ艦隊が海から攻めて来るとは思わず、数少ない軍艦は破壊工作する暇もなく大慌てで逃げ出したという感じだ。

 

 とはいえ、リガの元々の港湾設備は確かにラトビア随一だが、かと言ってトート機関が数年がかりで充実させたドイツ最大の軍港キールをはじめ、ヴィルヘルムスハーフェン、ドイツ最大の潜水艦基地があるケーニヒスベルク、商業港としての意味合いが強いがドイツ最大の港であるハンブルクに比べるとやはり設備的にも規模的にも見劣りがしてしまう。

 

 まあ、そこで知己を得たハイドリヒやレーダー元帥に頼り、トート博士に連絡をとってもらい、大規模工事大好き集団トート機関の港湾整備班においで願ったという訳だ。

 何だか初対面からトート博士に非常に呆れた目で見られたが、なんでだろうか?

 俺はただ、リガをこのままにしとくのは勿体無いから現地調査したついでに作成した整備計画持ち込んだだけだぞ?


 まあ、でも正規空母3隻係留できるようにもなったし、問題ないよな?

 いや、流石に本格的な整備やら修理やらするなら本国の港じゃないと無理だが、取り敢えず作戦の準備程度はできるし、補給もできるようにしといた。

 

 ああ、悪い。毎度お馴染み来栖任三郎だ。

 どう言う訳は俺は今、単にリガに居るだけではなく官民合同組織リガ港バルト諸国共同整備チームの”事務統括官”という名前的には地味な地位にいる。

 

 ああ、一応、今でも総統府付特務大使のまんまだぞ?

 要するに”兼任”って奴だ。

 

 っていうか、兼任ってなんだよ!?

 まさか、ドイツに出向した上にラトビアで役職兼任させられるとは思わなかったぜ……

 

(役得と言えば役得なんだけどさぁ……)

 

 港が一望できるオフィスから、前世では生まれる時代が違ってもお目にかかることはできないだろうゲルマン空母、それも三杯なんてのは確かに眼福なんだが。

 というか、グラーフ・ツェッペリン級、これが中々に凄い。

 俺が知ってる歴史では、グラーフ・ツェッペリンは言ってしまえば未完成艦の一種であり、また空母というよりどちらかと言うと”航空機搭載型通商破壊艦”と呼ぶべき代物だった。

 例えば、設計段階で連装式の15サンチ砲を8基16門も搭載する予定だった。当然、この15サンチ砲は防空用の高角砲などではなく軽巡洋艦(計画に終わったM級軽巡洋艦)の主砲だ。

 つまり、史実のグラーフ・ツェッペリンはアウトレンジから敵の輸送船団に殴りかかり、敵の船団護衛艦隊(当時の基準から軽巡洋艦や駆逐艦がメイン)に近づかれたら独力で排除しつつ遁走するというコンセプトだった。

 

 いや、それ空母の使い方じゃないだろ?と思わんでもない。

 実は時代を先取りしたような装甲空母化は、敵空母機動部隊と航空機で殴り合う為ではなく、敵の水上艦と殴り合った時を見据えた防御だった。

 

 史実ではイギリス海軍の巡洋戦艦改造空母「フューリアス」や同じく巡洋戦艦改装空母「赤城」を参考にしたとされるので、まあこういうチグハグな感じになるのもわからんではない。

 だが、知っての通り赤城は姉妹艦の天城と同じく普通に巡洋戦艦として完成している。

 なので参考にできるわけもなく、ついでに言うなら日本皇国がドイツに軍艦の設計図を渡す理由がない。

 

 では何を参考にしたのか?

 建造時期から考えて、おそらくは何らかの形で米国レキシントン級あたりを参考にしたのでは?と思ってる。

 英国のフューリアスもだが、レディレックスも史実と同じく空母に設計変更されている。

 少なくても米独は再軍備宣言の前の時代、特に世界恐慌の前は割と懇ろな時代があったのだ。

 その時に何らかの手段で設計図を入手しても別に不思議とは思わない。

 

 ただ、どうも資料を読み解くと今生のドイツ、再軍備宣言の10年ほど前から空母の予備研究を進めていたきらいがある。

 また、ドイツは航空産業に力を入れていたし、飛行船に変わり空母を新時代の海軍主力にしようという運動もあった。しかもその最大の後援者がヒトラーだという話だ。

 ドイツの空母に飛行船絡みの有名人の名がついてるのは伊達ではなさそうだ。

 それに時代背景的に、空母より戦艦の方が需要視され他国から目がつけられやすいという事も、再軍備を目論んでいたドイツには空母保有の方が都合がよかったのかもしれない。

 

 

 

***

 

 

 

 とにかく、今生のグラーフ・ツェッペリンは俺の前世のそれよりもよほど「しっかり空母している」のだ。

 全長267m、基準排水量33,550tの船体ボディに装甲甲板を備え、二段式格納庫に常用66機(最大75機)の搭載機数を誇る。

 飛行甲板に有効面積の拡大と強度維持のために昇降機開口部エレベーターホールを開けておらず、代わりに左右合計3基の装甲シャッター式サイドエレベーターを備える。

 サイドエレベーターに面積を取られたせいもあり、専有面積の大きい15サンチ砲は搭載されておらず、高角砲と対空機銃を満載。

 そして、

 

(全通式飛行甲板に備えられた2基の”蒸気・・カタパルト”……)


 実は史実でも出力こそ小さかったが、世界初の蒸気カタパルトの実用化に成功しているのだ。

 元々素養はあり、実は帝政ドイツ時代より蒸気を用いた高出力重機、例えばスチームハンマーなどは先進国だったのだ。

 ドイツ人にとり蒸気は扱いなれた機会であり、それを大型化して自慢の高圧缶と結びつけるのは、むしろ自然な物なのかもしれない。

 

 こうして空母後進国だったはずのドイツは、どういう偶然の連鎖か”世界で最も先進的な空母”を保有する状況となった。

 

(戦艦が、前世と極端な差が無い分、余計に空母の違和感が凄いな……)


 いや、ナチスが飛行機好きでヒトラーと海軍の関係が良好だとしても、やっぱり半端ない。

 それに気になることがある。

 

(煙突が前世の”赤城”そっくりなんだよな……)


 前世のグラーフ・ツェッペリンは赤城を参考に設計されたと言っても外観はさほど似ておらず、一番似ているのが飛行甲板に開けられたエレベーターホールだった。

 だが、この世界でのグラーフ・ツェッペリンは、そろいもそろって横から出て下方に湾曲し、しかも温度低下用の海水シャワーまで付いているという。

 偶然の一致と呼ぶには似すぎている。

 

(もしかして、前世の赤城を知る”転生者何者か”が設計に関わってるのか……?)


 むしろ、その説明が一番しっくりくる。

 確かにメリットの大きい構造だが、空母の建造経験のない国が、排煙の生み出す熱乱流や重心低下をそう簡単に思いつけるとは考えにくい。

 

(それに搭載機にしたって……)


 そこまで考えた時、不意に執務室のドアがノックされた。

 

「”フォン・・・・クルス”統括参謀・・殿、レーダー元帥がお見えです」


 いや、だから俺は軍人じゃないってっ!!

 ついでのフォンでもグラーフでもねぇよっ!!

 ドイツ人じゃなくて日本人だっつーの!

 














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