第6章:血戦! サンクトペテルブルグ!!
第79話 ジーク・バルト!!
「戦争をナメるな
気が付いたら、俺はリガ……”
ああ、すまん。来栖任三郎だ。
いや、ちょっと状況を説明させてくれ。
ソ連に占領され、ドイツに解放(再占領)されたバルト三国、エストニア、ラトビア、リトアニアだが、共産党に荒らされた国内の統治機構や政治システムの完全復旧にはまだ至っておらず、国家として再独立を果たすのは早くても来年以降になるだろう。
そんな状況だから、正規軍という意味でエストニア軍、ラトビア軍、リトアニア軍というものは存在してない。
しかし、治安回復は最優先事項の一つであり、各国暫定統治機構を立ち上げ、治安組織の再編を急がせているのが現状だ。
つまり、バルト三国には今は国軍として戦争に参加できない状態にある。
だが、それを良しとしなかったのが元国軍将兵を中核とした集団だ。
彼らは「義勇兵扱いでも構わないので参戦させてくれ」と申し出た。
まあ、バルト三国を解放した以上、次の北方軍集団の目標は誰の目から見ても、
きっと派手な戦いになるだろう。そこに参戦したいって気持ちもわからなくはない。
だが、ドイツ側は既に綿密なサンクトペテルブルグ攻略の準備を行っていた。
そこに不確定要素を入れたくないというのも当然だ。
正直に言えば、元正規軍人である事を考慮しても、バルト三国の義勇兵団は、繊維は旺盛でも練度も装備もドイツと行軍して前線を任されるレベルに至っていない。
この比較もどうかと思うが……ドイツが散々煮え湯を飲まされたイタリア軍の方が、戦意以外は上回っていると言えばわかりやすいだろうか?
装備が貧弱な戦意旺盛な部隊など、これ以上ないほどの不確定要素だろう。
装備を充実させれば、ドイツ軍の装備を供給すれば何とかなるのかと言われれば、そんな単純な話ではない。
当然だが、ドイツ軍の装備はドイツのドクトリンに適合するように作られている。故にドクトリンも装備体系も戦術も違うバルト三国の兵士にドイツ式装備を渡したところで、その本来の性能を十全に発揮するのは難しい。
それにドイツだって装備を余らせているわけでは無いのだ。
だからこそ、ドイツ参謀団は説得を試みる。
共産主義者に踏み荒らされ、荒廃した君たちの祖国を復興させるのが最優先すべき君たちの使命ではないのかと。
何も最前線で戦うだけが戦争への貢献ではなく、兵站線・補給路を護るのもまた重要な任務だと。
間違いなく正論だった。チュートン人らしい正論だった。
そして、正論だからこそ、感情で動く相手に通じなかったのだ。
『同胞たちの無念を晴らしたい』
『だから、前線に立ちロシア人、いや
繰り返すが、心情は理解できる。
だが、逆に言えばそれだけだ。
結局、バルト三国の義勇兵団はこの戦争を理解していない。
今回のドイツ側の代表、空軍もなく陸軍でもないドイツ海軍のユーリヒ・レーダー元帥が困ったような顔をしていた。
それはそうだろう。この気性穏やかな人徳や人格者で知られる老人に、懇願する善意あふれた同盟者に「厳しい現実」を突き付けるのは難しいだろう。
ああ、そうそう。
大変喜ばしい事に、今回のサンクトペテルブルグ攻略戦にはドイツ海軍、正確には
だからこそ、レーダー元帥がこの場にいるのだが。
レーダー元帥とは面識はあるが……あっ、視線が合った。
「発言、よろしいか?」
本来、オブザーバーに過ぎない俺がすべき行動ではないかもしれんが、
(……そろそろ現実ってのに目を向けてもらわんと話にならんしな)
レーダー元帥は頷いた。なら言わせてもらおう。
想いだけじゃどうにもならんこともあるってことをな。
「戦争をナメるな
***
声のでかさには自信がある。
しんと静まり返った会場に、
「同胞の無念を晴らす? 共産主義者の血で旗を染める? ああ、大いに結構だ。だがな……そんなセンチメンタリズムで勝てるほど、ソ連も共産主義者も甘くみるなっ!!」
誰も言わないなら、俺が言うしかないじゃないか。
転生前を入れたら俺も結構な年寄りだ。将来ある若者に現実って苦い薬を飲ませるのは、いつも年長者だと相場が決まっている。
俺は確かに腐れ転生者だが、ここで黙ってるのは何か違うしな。
「ソ連に蹂躙されてまだわからないのか? あいつらは途轍もなくしぶとく、そしてどこにいるのかわからない……共産主義なんて得体の知れない物の為に命をかけ、手段を択ばない。それが連中の強味なんだよ」
不正規戦、非対称戦は連中の十八番だ。なぜなら、
「当然だな。あいつらの本質はロシア革命の民兵、便意兵だ。軍服着てようがなかろうが、そこは変わらん。連中の浸透工作にしてやられたのが、諸君らではないのか?」
そういう敵なんだよ。赤軍は。
「だったら連中は……間違いなく未だバルト三国の中で息をひそめてる
答えは一つだ。
「ドイツの兵站線や補給路に対する破壊工作……それが一番、効果的だ」
俺は説明する。
サンクトペテルブルグ攻略には膨大な物資が必要であること。
当然だ。ドイツは好ましいことに悠長な包囲戦などではなく、サンクトペテルブルグを跡地や歴史用語にするような本格的な”殲滅戦”に舵を切ったらしい。
そして、殲滅戦の肝は火力であり、それは撃ち込んだ砲弾や爆弾に比例する。
だが、前線部隊が携行できる武器弾薬は限りがある。
だからこそ、”街を丸ごと消し飛ばす”火力を捻出するには、継続的な補給は不可欠なのだ。
「ドイツ人は、そこを……サンクトペテルブルグを攻略できるかどうかの肝を、
無論、打算はある。
基本、軽装備のバルト三国軍では、例え完全状態の正規装備でも本気で守りを固めたソ連軍には太刀打ちできない。
だが、同じく軽装備の共産ゲリラなら、少なくとも火力の上では優位に立てる。連中は厄介な相手だが、やりようはある。
「戦争は前線だけで決まるのか?
前世の太平洋戦争末期の大日本帝国なんざ、その典型だな。
「あえて言おう! サンクトペテルブルグ攻略の成否は、諸君らが兵站線を守り切れるかどうかにかかっているとっ!! ドイツが全力をもって戦力を傾注できるかは、諸君らの双肩と奮戦にかかっているとっ!!」
確かに補給路には海上も空もあるが、陸路の重要性は今更言うまでもないだろう。
「諸君らが共産主義者を撃つのであれば、それは必ずしも前線ではない! 卑怯千万な手を持ち、重要な戦略物資を狙ってくるアカの手先どもを血祭りにあげることこそ、勝利への道と知れっ!!」
噓は言ってないぞ? というか理詰めのチュートン式を、情緒に訴える和式に言い直してるだけだかんな?
「傾聴せよっ! 共産主義者は手強いぞ! 共産主義という理想に殉じるために手段を選ばんっ!!」
まあ、じゃなければ国内であんなに粛清はせんだろうし。
「胸を張れ! 我々もまた死地へ赴くのだとっ!!
ここまで来たら、これは言っておかないと駄目な気が……
「
「ジーク・バルト!」
「ジーク・バルト!」
「ジーク・バルト!」
「ジーク・バルト!」
「ジーク・バルト!」
「ジーク・バルト!」
「ジーク・バルト!」
「ジーク・バルト!」
唱和される喝采に、頭を抱えるレーダー元帥……
って、あれ? 俺、もしかしてやり過ぎた?
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