第8話 好機なのである!
「はっはーっ! 色っぽいぞぉっ!!」
いかんいかん。つい興が乗って悪役ムーブをかましてしまった。
いやだってなぁ。
(いくら一〇〇式司偵が美しい機体だからって)
まさかイタリア産の種馬男が乗った戦闘機10機以上に、友軍機がケツを追い回されるなんて図を見ることになるとはなぁ。
(まっ、いつまでもヤローがヤローにケツ追いまくられてる図を眺めてるってわけにはいかんか)
別に衆道に理解がないわけじゃないが、別に個人的に好きってわけじゃない。
「さて、空中戦を楽しむとするか」
一〇〇式の性能ならカマを掘られる前に逃げ切れるだろうが、せっかくここまで
「ここで食わぬは、無作法というもの」
(”隼”乗りの代名詞を、加藤サンのままにさせておくのも癪に障るし)
マルタ島防空戦で俺もそれなりの撃墜スコアを上げちゃいるが、激戦として歴史に刻まれるだろう”バトル・オブ・ブリテン”を戦い抜いた空軍第64戦隊(”加藤隼戦闘隊”として有名)や空軍第50戦隊(三羽烏が有名)なんかに比べると、どうにも俺の印象は地味に気がする。
「金井! 突っ込むぞ! 出遅れるなよっ!」
『あいよ!』
空電(空中無線)から入ってくる
「太陽の中から失礼すんよ!!」
最良のポジション……敵戦闘機群の背後上方、太陽を背にして逆落としをかけながら、
「一番槍はいただく!」
俺”
「吹っ飛べマカロニっ!」
音速の倍以上の初速で発射された空気信管を備えた
それにしても、
(同じ空冷エンジン搭載機とはいえ勝負にならんな。速度もだが、運動性が鈍すぎる)
見れば僚機の金井だけでなく、残る6機もかっちりロッテを崩さずマカロニファイターを追い掛け回しているようだ。
一〇〇式司偵の敵機誘引と誘導があってこその奇襲攻撃とはいえ、一方的すぎる展開だった。
(まあ、さもありなんか……)
俺達が乗っている”隼”は、ハ35を積んだいわゆる三型(キ43-III)仕様だ。最低でもそろそろ生産が始まってるだろう”
”サエッタ”は同じ空冷星型14気筒エンジンでも出力が300馬力以上低く、それが最高速で50㎞/h以上の開きになって表れている。
「パイロットの腕は悪くなさそうなだけに、残念ではあるな」
とはいえ、手加減する義理も必要も無い。
俺達は可能な限り速やかに”空の掃除”を行わなくてはならないのだ。
それに掃討する敵は多ければ多いほど良いだろう。
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「トラトラトラなのであるっ!!」
とりあえず御大将ムーブをかましつつ、九一式航空魚雷を投弾!
魚雷は無事に作動し、いまだ健在ながらも損傷艦だらけのタラント港で立ち往生し横っ腹を見せるイタリアの最新鋭戦艦”ヴィットリオ・ヴェネト ”に突進していく。
30ノットで海上を疾走する船に命中させる訓練を積んできた我々が、魚雷さえ正常動作すれば外すことなどないのである!
事実、命中した魚雷は大音声の爆発とともに、喫水線の上まで広がる大穴を穿ったのだ!
「これは良い! 実に良い! 最高に良い!」
まんまと偵察機に誘い出されて敵の防空戦闘機は極めて希薄。
上がったところで、わが軍の戦闘機の敵ではなかった。
高射砲は健在のようだが、あちこちで煤煙があがってる状況では、強い弾幕が晴れぬようであるな。
高笑いの一つもしたいところではあるが、残念ながら魚雷を放てば我が一式陸攻にやることはない。
「退くぞっ!」
ならば、さっさと安全圏に退避し、次の獲物を狩りとるまでの準備を重ねるべきなのである。
正直に言えば、撃沈を確認できないのは残念なのであるが、
(我々の目的はそこではない)
我々、空軍第15飛行団の陸攻隊と爆撃隊の役目は「英国軍が撃ち漏らした健全な船を須らく
”別の世界の史実”によれば、1940年11月11日のから12日に行われた軍港タラント空襲、”ジャッジメント作戦”で損傷を受けたイタリア主力艦(戦艦)は、
・ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦2番艦 ”リットリオ”
・コンテ・ディ・カブール級戦艦1番艦 ”コンテ・ディ・カブール”
・カイオ・ドゥイリオ級戦艦1番艦 ”カイオ・ドゥイリオ”
の3隻である。
だが、この時のタラント港にはイタリアの保有する戦艦の中でも6隻が集中しており、無傷の戦艦が以下の通りもう3隻いたのだ。
・ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦1番艦 ”ヴィットリオ・ヴェネト”
・コンテ・ディ・カブール級戦艦2番艦 ”ジュリオ・チェザーレ”
・カイオ・ドゥイリオ級戦艦2番艦 ”アンドレア・ドーリア”
マルタ島を拠点とする空軍第15航空団が狙ったのは、「この無傷の3隻」の他ならない。
この作戦に参戦した英国機動部隊の航空兵力が、「知識として知っていた史実」と大差なかった為、予想はしていたが……先行していた偵察機からの報告で確信となった。
だが、作戦の迅速性(敵が立ち直る前に追い打ちをかける)や空中集合の問題から、追討作戦に参加できるのは魚雷搭載の陸攻が24機、半徹甲対艦大型爆弾を搭載した重爆が24機の合計48機に過ぎない。
しかも、全てが将来的に登場するだろう対艦誘導弾と比べるなら命中率が悪い無誘導兵器でしかない。3隻の戦艦を完膚なきまで破壊するのは難しいだろう。
だからこそ、航空団司令部は「現実的に達成できそうな最大の効果」を示した。
それは人に例えるなら手傷を負わせ、身動き取れないようにすることが役割だ。
見れば”吞龍”隊も中々の戦果を稼いでいるようではある。
彼らが胎に抱え込んでいる九九式八〇番五号爆弾は戦艦の41サンチ砲弾を基に対韓用に特化させた貫通力の高い航空爆弾だ。
船に対する威力ならば、我が運んだ九一式航空魚雷も負けるつもりは無いが、今まさに戦艦の甲板を突き破って内部で爆発する様を見ると、中々どうして様になってるではないか。
(ふむ。少なくとも戦艦で無事な物は、すでに無くなっているようだな……)
細かい戦果分析は、この後マルタより飛んでくるだろう偵察機に譲るとして、
「なに、刺客はまだまだ居るのである……!!」
だから、今はこの程度で満足してやろう。
我が名は”木村
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