転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~

ガンスリンガー中年

プロローグ:1941年4月、トブルクにて

第1話 砂漠にて、狙撃銃を片手に








1941年4月10日、リビア北東部、エジプト国境付近、港湾都市兼要塞”トブルク”




「嘘だろ、オイ……」


 反射防止コーティングが施された日本光学製の4倍率光学照準器スコープの先に映るのは、デカデカと鉄十字をつけて砂漠を疾走する鋼鉄の獣の群……


「なんつー、イカれた風景アメージングなんだか」


「ハッ! この状況でんな軽口叩けるなんざ、””少尉殿もずいぶん余裕があんじゃねーの」


 と声をかけてくるのは、俺と同じく砂漠に溶け込むようサンドブラウンに染められた麻製のデザートポンチョを着込んでフィールドスコープを覗き込む相方、”観測手スポッター”の小鳥遊たかなし伍長。

 一兵卒でまだ若い(いや、俺も人のことは言えないが)のに、”鷹の眼”と称される抜群の視力と観察眼で、僅かな期間で伍長まで登ってきた中々の逸材だ。

 まあ、「小鳥遊なのに鷹の眼とはこれいかに」と言いたくはあるが。

 

「まーたくだらねーこと考えてんだろ?」


「んなことねーよ。誰を射貫こうかと考えていたとこだ。それとシモヘイ言うな」


 フィンランドの某狙撃系魔王様に畏れ多いでしょーが。

 しかも、一昨年から去年の北欧の森で起きた異変(?)から考えるに、何の因果か同じ時代に生きてるっぽいんだから。


 おっと自己紹介が遅れたな。

 俺は”下総しもうさ 兵四郎へいしろう”。

 名字からすると千葉県南部の出身っぽいけど、実は東北の片田舎にあるそこそこ大きな農家の出身で、名前の通り四男坊だ。

 ついでに言えば、これでも一応は前世と思わしき記憶のある”転生者”って奴だ。

 当然、上に兄が三人もいるので家督など継げる筈もなく、かといってNOMINになれるようなチートスキルや特典も別にもらっていなかった。


(というか、神様とやらに会った記憶もねーしな)


 そんな訳で、食うために職業軍人になった。

 幸いチート能力が無くても前世知識があったのと、第一次世界大戦の欧州戦線で特に士官の激しい損耗率を経験、いわゆる戦場の洗礼を浴びた「陸海空を問わない」が士官学校をはじめとした士官教育全般の裾野を広げたので、こうして少尉の階級章をぶら下げることができたってわけだ。

 俺の所属は日本皇国陸軍で、現在、要塞化したトブルクに進駐する「日本皇国”統合遣中東軍”麾下、陸軍第8混成増強師団」の司令部直轄部隊の一つである”第1特務大隊”第2狙撃小隊所属の狙撃手スナイパーだ。

 

 食うために軍隊に入ったのやよりマシな待遇を求めて士官になったのと同様に、狙撃兵なぞやってるのもそう大した理由はない。

 爺様が農家との兼業猟師だったせいで、子供の頃から猟銃片手に獣を追って山に入るのは俺にとって慣れ親しんだ行動、遊びの延長だった。

 ああ、言っておくがこの日本皇国の銃器の所持や狩猟に関する法令は、”俺たちのよく知る世界”になぞらえるのなら、アメリカ合衆国の「狩猟が盛んな州や全米ライフル協会の勢力圏」並みにゆるいぞ?

 なんせ価値観や金銭感覚が文字通り普通(中産階級)の一般的な中流家庭でも「息子の出征祝いに父親が拳銃を買い与える」なんてことが普通に行われてる国であり、時代だ。

 

 ということで俺にとって猟銃は釣り具やらナガサ(マタギご用達の山刀)と同じジャンルの身近で、慣れ親しんだ道具ツールだった。

 蛇足ながら俺が12歳の時、爺様からもらった最初の猟銃あいぼうは、当時、第一次世界大戦欧州戦線で大量に皇国軍が鹵獲し、少しでも消耗した国費の補填の為に民間に大量放出したドイツ製軍用小銃”Gew98”だ(あっ、ただし名義は爺様だったぞ? いくら何でも未成年に銃器所持はできませんて)。

 まあ、東北のちょっとした山や里山、雑木林でイノシシやら鹿やら熊やらを撃っていた少年時代を過ごしたら、軍隊に入って与えられた役割は当然のようにスナイパーだったというわけさ。

 まあ、撃つのが野生動物から敵国人になっただけだな。

 

(それにしても……)


 始めて握った小銃ライフルがドイツ産で、現在の愛銃あいぼうが英国リー・エンフィールド系列の”九九式狙撃銃”っていうのはなんとも皮肉を感じる。

 

 ちょいと解説すると、九九式狙撃銃の原型というかは、第一次世界大戦で華々しくデビューした”梨園改三式歩兵銃りえんかいさんしき”に端を発する。

 名前から察せられると思うが、こいつは同盟国イギリスで1907年に採用された”Short Magazine Lee-Enfield Mk III(SMLE Mk III)”を原型にした歩兵向け軍用小銃だ。

 外見的な原型との識別点は、ハンドガードがやや短いのとSMLE MkIIIより20㎜長い660㎜銃身を採用した為に銃口付近の印象は、銃身が少し突き出たオリジナルの九九式短小銃に近いかもしれない。

 また、SMLEに標準搭載されていたマガジンカットオフ機能はオミットされ、また同時期に登場した新型7.7mm尖頭弾、Mark7/303ブリティッシュ弾が「凄まじいハイプレッシャー・カートリッジ」という噂があった為(結果としてデマ。実はドイツの7.92mm×57弾の方が高威力だった)、肉厚の薬室(チェンバー厚は最大11.4㎜。先に出てきたGew98は10.7mm)に、クロームメッキ処理が施された銃身の組み合わせとなった。

 実は、これがSMLEでは撃つことが非推奨とされた現在絶賛配備促進中のガチの強化弾、”Mark8”をパカパカ撃てる理由となっているのだが。

 

 またSMLEは脱着式の10連発箱型弾倉マガジンを採用しているが、動作は固く簡単に抜き差しできるようになってはおらず、銃の上から装弾子クリップを使い装填するのが基本となっている。要するに装弾数は倍だが、基本的な装填方法はライバルのGew98と同じだった。

 だが、日本皇国陸軍はリー・エンフィールド小銃の速射性/連射性を高く評価しており、それを最大限に生かすためにマガジンキャッチなどを改良し、むしろ軽い力でマガジンを着脱できるようになった。

 

 まあ、そんな梨園三式改小銃の中から状態の良い、精度の優れた個体を選び出し、バイポットや光学照準器スコープその台座マウントを装着し陸軍工廠の”名人”達の手により再調整を受けたのが、この九九式狙撃銃ってわけだ。

 

 

 

 さて、そろそろ「この阿呆はつらつらと何を言ってるんだ?」と思う御仁もいるだろう。

 はっはっはっ!

 無論、ただの現実逃避に決まってるだろう?

 

 俺は確かに死んだはずだ。

 胴体に銃弾がめり込む感覚は、今でも鮮明に思い出せる。

 

 だが、死んだはずの俺の意識が再び覚醒したときは、俺が知ってる歴史とは””にいた。

 正確には、赤ん坊として「前世の記憶を持ったまま、前世とは異なる名前で異なる時代」に生まれ変わっていた。

 

 いや、ホントに勘弁してほしいぜ。

 俺はそこまで歴史に詳しいわけじゃないが、大日本帝国ではなく日本皇国って国名の時点でおかしい。

 そして日本史を紐解けば、もう鎌倉時代の前からいる。

 

 ”平治の乱”において父義朝ともども源頼朝は討ち取られ(一説には流れ矢が当たったとも)、紆余曲折の果てに鎌倉幕府を開闢したのは源義経だ。

 北条は栄華を得ることはなく、上総広常や梶原景時は重臣として無事に隠居の時まで生き残り、また義経も血を残し(静御前との間に生まれた男児もかっきり大成している)、”九郎九代”などという言葉もこの世界にはある通り、義経から九代も続く繫栄を築いた。

 

 

 

 他にも、織田信長が明智光秀に裏切れることもなくあっさりと上洛、天下統一し天下人となる。

 彼は尾張幕府を開き、その直系の子孫であり織田幕府中興の祖として知られる”織田信成”により徳川家を首魁として開発が行われた江戸湾に面した地、”東京”へと遷都が行われた。

 これは八十八歳まで生きた、時代や当時の栄養状況を考えれば大往生の信長から受け継いだ夢であり野望だった。

 

 そう、房総半島と三浦半島に囲まれた天然の良港にして日本最大の港湾集積地になるポテンシャルを秘めた江戸湾を「首都にして貿として機能させる」ことは、織田幕府全体の悲願と言ってよかった。

 

 

 

 もう気づいたと思うが、”この世界の日本”、日本皇国は歴史上「」。

 ましてや、キリスト教を禁教にしていないのだ。

 

 この現実こそが、実は未だに英国と強固な同盟関係を維持し、俺をはじめとした皇国軍が中東くんだりまで出向いてドイツ人やイタリア人と銃口を突きつけ合ってる理由に繋がっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る