第6話 発展は加速する
一号と共にさまようこと数日。俺は自分のスペックの低さに打ちのめされていた。
鉄板が張り付いているだけの足は、あいかわらずちょっとした段差で躓いてしまう。
一歩踏み出すごとに激しく上下する視界にも、いまだ馴れることはない。
その上、むき出しの地面は追い討ちかといわんばかりに荒れ放題だし、道端に落ちているガラクタも行く手を阻む障害物となる。
「すまん、ちょっと休憩させてくれ」
「承諾シマシタ」
「悪いな、何度も休んじゃって」
「イエ」
一号は文句も言わず付き合ってくれる。無口だがいい子だ。
彼女がいなければ、俺はいまごろ精神的に潰れていたかもしれない。
転生してからというもの常にバッテリーの残量が気になって、じっとしていることなんかできなかったんだ。
一休みできるほど心に余裕ができたのは、間違いなく彼女のおかげだ。
彼女はこの孤独な世界で唯一の癒し。
隣にちょこんと座ってくれるだけで、いくらか気持ちが楽になる。
《警告、バッテリー残量が低下しています》
プログラムの言葉で、緩みかけた気持ちが再び引き締まる。
休んでいる間にも充電はすり減っていく。命を消耗してるんだ、いまこの時も。
自分を叱咤して立ち上がる。
行く当てなんかわからない。
行く末さえもわからない。
わからなくとも歩かなければならない。
ある時プツンと事切れるならまだしも、自ら進んでゴミ山の一部になるなんてゴメンだから。
「そろそろ行こうか」
「ハイ」
歩行という苦行に耐えつつ、使えそうなパーツを見つけては自分と一号に組み込んでいく。
アップグレードを重ね、今ではこんな感じ。
《俺》
・頭脳:工作用演算装置
・胴体:汎用型ドラムボディ
・右腕部:農業用ヒューマノイド・アーム
・左腕部:多目的工作用・ヒューマノイドアーム
・右脚部:二輪キャタピラ
・左脚部:二輪キャタピラ
・核:ホワイト・コア
・電源:有機分解型バッテリー
・オプション:分析機能付き視覚センサー、汎用型マイク、汎用型スピーカー
《一号》
・頭脳:戦闘用演算装置
・胴体:四型運搬用ボディ
・右腕部:遠距離射撃用ライフルアーム
・左腕部:近距離戦闘用ブレードアーム
・右脚部:戦闘用ヒューマノイド・フットⅠ型
・左脚部:戦闘用ヒューマノイド・フットⅠ型
・核:レッド・コア
・電源:有機分解型バッテリー
・オプション:望遠機能付き視覚センサー、汎用型マイク、汎用型スピーカー、近距離無線装置、サーモセンサー
俺は修理や改造に特化した技術職タイプ。
農業用の右腕はただごついだけのアームだが、左腕に搭載した多目的工作用の腕はとてつもなく便利だ。
ドライバーやサンダーといった基本的な工具に加え、プラズマ切断、アーク溶接など様々な機能を搭載している。これさえあれば脱着だけではなく加工もできそうだ。
性能とは別に、キャタピラを発見したときは小躍りするほど喜んだ。
装着してみると、予想通り二足歩行時とは比べ物にならないほど視界が安定した。足なんて飾りなのさ。
一号は資源集めに特化させた。
食料の確保も彼女に任せているので狩りに必要な戦闘用のパーツを多く搭載している。
紺色の装甲に覆われた四肢。運搬用の胴体部分は赤い塗装が施されている。
もはやドラム缶だった頃の面影はないに等しい。唯一彼女とわかるのは、腕に巻いた赤いリボンだけだ。
彼女を改造してわかったが、どうもコアを抜く時だけは意識が飛んでしまうようだ。
胴体パーツを交換するにはコアを外す必要がある。そのため俺は未だに汎用型ドラムボディを使っている。コアを移しても一号の記憶は残っていたが、それでもやっぱり意識が飛ぶのは怖すぎる。
丸っこい体にごっつい腕がついている姿はかなり滑稽だが、万が一のことを考えて胴体の交換はやめておいたほうがいいだろう。
「食料を調達しました」
「お、サンキュー」
最初はカタコトだった一号も、いまではすっかり流暢に話せるようになった。
彼女に内蔵されたコアが、俺との会話を記録して少しずつ話し方を学んでいるのだ。
彼女は角の生えた兎のような生き物をもってきた。
分析スキルによるとこの生き物はホーン・ラビットという魔物らしい。
そう、魔物だ。
この世界には魔物がいる。
普通の動物と違い魔力を体内に宿した生物。それが魔物なのだと一号が教えてくれた。
基本的に魔物が生息するのは自然の多い場所だそうで、鉄クズだらけのこのジャンクヤードにはほとんど生息していないらしい。
ジャンクヤードというのはこの土地の名前だ。北西に機械都市と呼ばれる場所があり、昔はそこで出たジャンク品を集積する場所だったらしい。
人に会えばなにかわかるかもしれないと思ったが、ジャンクヤードと都市を隔てる森の手前で《自己保護プログラムを発動します》と止められ進むことができなかった。
どうやら俺のプログラムは、森の中に生息する魔物を脅威と判断しているようだった。
「次はなにをしましょうか」
「んー、そうだなー」
ホーン・ラビットを胸の投入口に押し込みながら考える。
魔物は魔力を宿してる。
てことは、やっぱり魔法も存在してる可能性が高い。
人がいる場所にいけばなにかわかりそうだ。人に会うためには、どうにかしてこのジャンクヤードから脱出する必要がある。
ジャンクヤードから抜け出すには、俺自身が高い戦闘力を獲得するか、戦力となる仲間を集める必要がある。
戦闘用のパーツをつけても俺と一号の二人(二台)だけじゃ心もとないし、ここはやっぱり仲間を増やすことが最優先だろうな。
「よし、仲間を増やすぞ! 使えそうなパーツを持ってきてくれ!」
「承諾しました」
仲間集めの日々が始まった。
といっても仲間を作るために必要なパーツを探すのは一号の仕事だ。
俺の仕事はパーツ同士をつなぎ合わせて新たなゴーレムを作ること。
作業は順調に進み、一台増え、二台増え、気づけば十台近いゴーレムに囲まれる大所帯になってきた。
労働力が増えたのは嬉しいのだが、その結果とある問題が発生した。
電力が足りないのだ。
はっきりいって有機分解型バッテリーは死ぬほど効率が悪い。
鳥の卵一個でおよそ二パーセントしか電力が回復しない。作りたてのゴーレムをフル充電するには実に五十個もの卵が必要になる。ホーン・ラビットでさえ五パーセントしか回復しない。
ただでさえ生き物が少ないこの土地で、時間と労力を消費してまで狩りに頼るのは半ば自殺行為と言えるだろう。その場しのぎではなく、電力の安定供給が必要なのだ。
そこで充電ステーションを作ることにした。充電ステーションの電源は光。つまり太陽光発電だ。
幸いソーラーパネル式のバッテリーもゴミ山の中にあったので、一号たちに集めさせた。
「……いやおかしいだろ。なんで異世界にソーラーパネルがあるんだよ」
ソーラーパネルだけじゃない。前々から気にはなっていたけど、この世界にはバッテリーや演算装置、ライフルやキャタピラなんていう概念も存在している。
よくよく思い返してみれば、このゴミ山はあまりにも年代がバラバラだ。
俺がいた世界の機械よりも遥かに進んだ技術で作られているようなパーツもあれば、もっと前の時代の、鉄と歯車でできたからくり人形みたいなものもある。
なのに古い技術の物も優れた技術の物も劣化具合はそう変わらない。
太古の地層からパソコンでも出土しているようなものだ。不可解極まりない。
気にはなるけど、下手な考え休むに似たりでもある。異世界の事情なんていまの俺には知る由もない。やるべきことがある以上、早々に着手するのが最善手。集中だ、集中。
鉄板やトタンを張り合わせて小屋を作り、屋根の上にソーラーパネルを設置する。
設置の手順や
指示に従い角度調整まで終わらせると、地上で見物していた数体のゴーレムたちががっしゃんがっしゃん拍手してくれた。
こうして自分で作ったゴーレムたちを見下ろすとなかなか誇らしい気持ちになる。
ここが俺の拠点。俺の城。彼女たちは俺の作品であり忠実なる僕。
俺は、ゴミ山の王様なのだ。
だから迷っちゃいけない。
俺が迷うと、みんなが困ってしまうから。
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