義妹と三十万円を賭けた勝負

 小鳥遊なんとかの件は後にして、俺は教室へ。夢香と別れた。しばし寂しい時間が続くな。


 教室へ入ると、隣の席の祥雲さんがいた。早いな。



「おはよう、祥雲さん」

「おはよう、平田くん。風邪は大丈夫?」



 笑顔で出迎えてくれる祥雲。なんて可愛いニコニコスマイルなんだ。これだけで癒される。



「ああ、もう治ったよ。それより、一昨日はカラオケ楽しかったよ」

「私もだよ。平田くんってばイケボで驚いちゃった」

「そ、そうかな」

「そうだよ。夢香ちゃんとも仲良くなれたし、思い切って声かけて良かったな」



 今度は向日葵ひまわりみたいな笑顔。

 ……うぅ、俺の心臓の鼓動が加速していく。


 なんだろう、この変な気分。

 俺はいったい……どうしたんだ。



「また今度一緒に行こう」

「うん、ぜひ誘って」



 それから、しばらくしてホームルームが始まった。授業も淡々と進み――あっと言う間に昼休みを迎えた。



 スマホを確認すると【新しいメッセージがあります】と表示されていた。



 夢香:いつもの場所で待ってるね、お兄ちゃん



 夢香からメッセージがあった。

 しかも、可愛い写真付き。

 制服姿の夢香も可愛いなぁ。


 写真を保存して、俺は教室を飛び出た。向かうは『屋上』だ。


 小鳥遊なんとかを警戒しつつ、俺は屋上へ辿り着いた。



 夢香は――いたいた。



 柵の方へ向かうと、夢香が気づいて猫みたいにトコトコ駆け寄ってきた。



「お兄ちゃんっ」

「夢香、午前中はどうだった?」

「中間テストばかりで頭から煙が出そうだったよ~」



 そういえば、そんな時期だったな。

 二年も三年もあんまり変わらないようだ。


 しかも、夢香は勉強が苦手ときた。

 せめて進級はできるよう頑張って欲しいが。



「分からないところがあったら俺が教えてやるから」

「じゃあ、高次方程式を因数分解……」


 ――う。

 数学は苦手なんだよ、俺。


「ああ~、腹減ったから先に飯にしようぜ!」

「……お兄ちゃんってば数学は苦手なんだ」

「そ、そ、そんなことはないけどなっ」


 いつもギリギリの点数なのは墓場まで持っていく!

 俺はどっちかといえば文系。国語とか歴史なら得意なんだがな。――って、今はそんなことはいいや。


 懐から『パワーゼリー』を取り出した。


「え……お兄ちゃん、これ」

「今日のご飯だ。すまん、一昨日のカラオケでお金がなくなった」

「えぇ……ウチ、どんだけ貧乏なの」

「仕方ないさ。バイトでもギリギリなんだから」

「そういえば、私もバイトしなくちゃね」



 ちょっと前にそんな話もしたな。

 俺は相変わらずホームセンター『タイタン』の裏方をしているけどな。時給900円の四時間労働だけどなっ。

 学生ではこれが限界だった。



「夢香は無理しなくていいってば」

「だーめ。一緒に力を合わせて生活するって約束だもん」

「そりゃ……そうだけど」

「心配しないで。えっちなお店とか、そういうのは回避するから」

「約束だぞ。頼むからパパ活みたいなことはしないでくれ」

「大丈夫だよ。わたし、お兄ちゃんしか興味ないもん」


 そう言ってくれるのは嬉しいけど、兄としては心配なのだ。夢香は可愛いし、よく声も掛けられるし……なにより、あの小鳥遊なんとかって男がつけ狙っているからな。あのストーカーをなんとかしないとな。


 ああ、そうだ。

 ゲームをするんだっけな。


 昼に現れなかったから、放課後かな。


 なんて思っていると屋上の扉が開いた。



「平田はどこだ! 平田ァ!」

「げっ……噂をすればなんとやら」


「いた! 平田杏介! 勝負しろ!」



 せっかくのイケメン顔が邪悪だな。そんなに俺と勝負したいのかコイツ。というか、夢香が欲しいのか。やらんけどな。



「で、お前の賭けるモノは何だ?」

「僕は全財産の『三十万円』を賭ける!!」



 その金額を聞いて俺と夢香はしばらく固まった。思考が戻ると、一緒に驚いた。



「「さ、三十万円~~~!?」」



 こいつ、正気か!?

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