義理の妹が出来た日

「そうか、そういうことか」


 親父は納得した様子で井ノ瀬さんを見た。

 なんだ、あの得意気な表情。

 なにか企んでいるぞ。


「親父、この子をどうする気だ?」

「そんなの決まっている。夢香ちゃんは、家で預かるしかないだろう」

「――なぬッ!?」


 それを聞いて俺は驚いた。

 ただただ驚愕した。


 家で預かるぅ!?


 それってつまり、一緒に住むってことだよな!?


「どうだ、驚いたか杏介」

「当たり前だ!! ていうか、井ノ瀬さんはそれでいいのか!?」


 視線を向けると井ノ瀬さんは困った顔をしていた。


「……えっと、わたしはその……」

「ほら、親父。彼女が困っているじゃないか」


「お前の怖い顔に戸惑っているだけさ。いいか、杏介。お前が夢香ちゃんを守るんだ。今日から義理の妹・・・・だからね」


「は!? は!? はぁ~~~!?」



 義理の妹って……井ノ瀬さんが!?

 こんな激カワの女の子が……俺の妹になる……!? 信じられねぇ……。


 けど、井ノ瀬さんが頼れる場所はこの家しかない。


 今更追い出すなんてことも出来ないしな。親父と本人が納得しているのなら……いいか。俺も正直、こんな可愛い妹が出来るなら、ちょっと嬉しいなと思ってしまった。



 * * *



 あれから一ヶ月。

 人間の慣れとは恐ろしいものだ。

 気づけば、夢香が一緒にいるのなんて、当たり前の光景になっていた。


 仲良くなるキッカケなんて、あったのかなかったのかすら曖昧だ。


 毎日顔を合わせるようになると自然と話すようなっていたんだ。本当の妹みたいな存在になっていた。



「お兄ちゃん、今日から一緒の学校だね」

「それどころか、アパートで同棲とかさ……親父のヤツ、やり過ぎだ」

「いいじゃん、二人で住めるんだし」

「そりゃ、そうだが……」



 なにかの間違いが起きないといいけど。けど、俺よりも夢香の方がしっかりしているし、きっと大丈夫さ。


 ボロアパートの一室へ引越し、俺と夢香の二人だけの生活が始まった。



 * * *



 ――目を覚ますと、頭がすっきりしていた。

 どうやら夢から覚めたようだ。


 なんだか懐かしい夢を見ていたな。


 上半身だけ起こすと、傍には夢香が寝ていた。ずっと看病してくれていたのか。


 可愛い寝顔を晒してくれている。

 なんとも無防備な。

 だが、とても可愛らしくて見ているだけで幸せな気分になれた。



「……もう夜前か」



 どうやら、かなり寝ていたようだ。

 十七時を過ぎていた。


 朝から何も食っていないし、腹も減ったな。

 体調はかなり良くなったし動いてもいいだろ。ベッドから起き上がろうとすると夢香が目を覚ました。


「お兄ちゃん、だいじょうぶ~?」

「夢香、ありがとう。俺はもう平気だ」

「そっかそっか。って、動いじゃダメだって。なにか欲しいものある?」


「ちょっと小腹が空いてね」


「じゃあ、わたしが何か作ってあげるよ」

「夢香が? いいのか?」

「うん、わたしだって料理くらいできるもん」


 夢香の手料理か。

 うん、たまにはいいか。

 今日は甘えさせてもらおう。

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