お兄ちゃんの看病したいから
俺は風邪を引いてしまったらしい。
意識が曖昧の中、周囲を確認すると布団の中にいた。すぐ傍には夢香の姿。俺を看病してくれているらしい。
……なんてこった。
体調不良に陥るだなんて、カッコ悪いところを見せてしまった。
「…………スマン」
「あ、お兄ちゃん。気づいた?」
「……風邪を引くとは」
「お兄ちゃん、この頃ずっと家事や洗濯していたもん。疲労が溜まっていたんだよ」
タオルを交換してくれる夢香。
今の俺にとっては女神に思えた。
ここまで丁寧に看病してくれるとか……泣ける。
夢香の言う通り、ここ最近は無理をしすぎていたのかもしれない。
ゲームとか漫画を読む時間も欲しくて睡眠時間も結構削っていたしなぁ。
「悪いな、夢香。お前だけでも学校へ行ってくれてもいいんだぞ」
「お兄ちゃんを一人ぼっちに出来ないよ。わたしも休む」
「だが……」
「いいの。お兄ちゃんの看病したいから」
そう優しい声で夢香は、ヒエピッタを俺のおでこに貼ってくれた。ひんやりしていて気持ちい。
そうだな、これ以上は夢香に迷惑も掛けられない。
「少し寝るよ」
「少しじゃないよ、一日絶対安静だからね!」
釘を刺され、俺はもう身動きできなくなった。仕方ない、今は眠ろう。
* * *
一年前の夢を見た。
俺の生活は
ただただ生きてるだけだった。
友達? 彼女? そんなものはいねぇ。出来るはずもなかった。
俺は周囲に溶け込むとか、そういう自身がなかった。面倒とさえ思ってしまうから。
だから、一人で良い。
その方が気楽だし、誰も傷つけずに済む。
けれど。
ある日。雲ひとつない青天にも関わらず雨が降った。いわゆる“狐の嫁入り”というヤツだ。そんな不思議な天候の中、俺は自宅に戻った。
その時――。
自宅玄関前に見知らぬ少女がいた。
雨に濡れた黒い髪。
その表情、瞳はどこか虚ろ。……明らかに普通じゃない。俺は、この少女が少し不気味に映った。
というか、なんで俺の家の前に立っているんだ? なんかのホラードッキリ?
「君……どうしたんだい?」
「……平田さんの家ですよね」
「ああ、そうだけど。なんで知ってるの?」
「あの、わたし……平田さんを頼ってきたんです」
「家を頼ってきたって……どういうことだ」
詳しく聞くと、少女は両親を失い完全に孤立してしまい、ひとりぼっちなのだという。頼れる人もおらずココへ来たのだとか。
どうやら俺の親父と、この子の父親に交友関係があったようだ。そういうことか。
「なるほどね。じゃあ、親父が帰ってくるのを待つか。家に上がるといい」
「いいんですか……?」
「まあね。放ってもおけないしさ」
……って、待てよ。こんな可愛い子を家に上がらせるとかいいのか? よ~く見ると、アイドルみたいに可愛いぞ、この少女。
やばい、今更ながら緊張してきた。
俺、気づけば普通に女子と話していた。本来ならありえないのに……なぜか、この少女とは上手く話せた。ビックリだな。
少女を家に上がらせた。
玄関からリビングへ向かい、バスタオルを渡した。濡れた髪を拭いてもらうためだ。
「ありがとうございます。優しいのですね」
「……っ! ふ、普通だよ」
それから沈黙が訪れた。
リビングで美少女を二人きりとか……これは嬉しいような、気まずいような。
「…………」
「ああ、そうだ。まだ名前を聞いていなかったな」
「そうでした。わたしは夢香です。
可愛い名前だなって俺は思った。
「俺は、
「よろしくお願いします、平田さん」
女子から名前を呼ばれるのは初めてかもしれない。……なんだろう、嬉しいって思った。
数分後、親父が仕事から帰ってきた。
「ただいま。杏介、今日は母さんが遅くなる――ん!?」
「おかえり、親父。ちょっと話があるんだ」
「きょ、きょ、杏介……お、お、お、お前……!!」
あ~、予想通りビックリしてるな。
分かっている。
俺が女の子を連れ込むなんて、ありえないことだ。いや、連れ込んだわけじゃないけどさ。
「落ち着け、親父。これには事情があるんだ」
「彼女か!?」
「だから、違うって」
親父にはいったん落ち着いてもらい、俺は井ノ瀬さんのことを話した。
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