全速前進!

 いよいよマラソンの時間だ。


 この為にわざわざ交通規制までしているようで、コースも五キロとなかなかある。


 どうやら学校周辺を回って戻ってくる感じらしい。大体の道順は暗記したし、なんとかなるだろ。



『位置について下さい!』



 どうやら校長がスターターピストルの役目を担うようだ。全生徒がスタートラインに立つ。……多いな。


 ざっと三百、四百人はいるだろうか。


 この中で三十位以内に入れ?

 ……うわ、自信なくなってきた。


 けど、走るのだけは得意だ。

 俺の唯一の特技と言っても過言ではない。



『よ~い、ドンッ!』



 パァンとピストルが鳴って、生徒たちが一斉に走っていく。

 やっべ、油断していると押し倒されそうだ。転んだら危ないし、急いで前進していこう。



「待って、お兄ちゃん」

「夢香……平気か。俺結構ペース早いぞ」

「……う、うん。大丈夫、これでも中学の頃は漫画部だったからね!」


 って、それはスポーツ系ではないぞ!

 そのせいか、夢香はどんどんペースが落ちていった。……だめか。


 とうとう離れ離れになってしまったが、俺は前へ進み続ける。


 順位でいえば、百のあたりだろうか。このままでは三十位になんて入れないぞ。


 焦っているとニヤッと笑う小鳥遊が現れた。



「こんなところにいたか、平田杏介!」

「いちいちフルネームで呼ぶな、鬱陶しい」

「フフ。案外たいしたことないな。これなら僕の勝ちだ」


「それはどうかな。今体力を無駄に消費しても後半がキツくなるだけだ。これから徐々にペースをあげてサラブレッドのように差していく。これぞ俺流よ」


「フンッ、笑わせてくれる。ならば僕は先に行く!」



 一気にペースを上げていく小鳥遊。物凄い脚力で次々に生徒を抜いていく。……野郎、正気か。あんな加速してしまっては絶対に体力が持たないぞ。それとも、自信があるというのか。


 俺も速度を上げていこうかと悩んでいると、隣に祥雲が駆けつけてきた。


「やっほ、平田くん」

「祥雲、結構早いんだな」

「そういう平田くんも意外な才能があったのね。足、速いね」

「小学校の頃、陸上競技は常にNo.1だった。かつては“縮地しゅくち”と呼ばれたこともあったな」

「うん。知ってる知ってる。そんな彼に憧れた女の子がいたんだけどな」


「え?」


「ううん、なんでもない」



 まて……祥雲って小学校の頃……。いや、今は考えるな目の前に集中しないと!


 あの小鳥遊なんとかを抜いてやるッ!

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